第三章 賢者の里 サラーニーへの旅 - 6
パオーン!
激しい嵐による崩落で、寸断された麓までの道のり。
連絡も流通も途絶し、嵐の日以来、誰一人、麓から峠道を登ってきた者はいないのに――
――サラーニーの村人たちは目を疑った。
パオォォォォォォォォーン!
「なんだあれは?」
「鳥か?」
「UFOか?」
「いや…………あれは! マ ン モ ス だ !」
「――着いたぁぁ!」
標高二千メートルの峠を越えて、僕らは高原の村・サラーニーへ辿り着いた!
「もんじょわー!」
【デスマーチ完遂】である!
「いや、もうほんと、今回はマジで死ぬかと……」
毎回言っているような気がするが、今回は本当に厳しかった。
麓のチチカステナンゴから登ること三日。
象パワーで崩落の現場を処理しつつ、峠の寸前まで登ってきたものの……
そこでまさかの天候急変!
突然の寒気で、あやうく凍死しかけたところを、何とか切り抜けた!
切り抜けたというか、完全に結果オーライだ。
山を侮った者は、手痛い竹箆返しを食らう、と痛感させられたよ……
軽装で山登りダメ! ゼッタイ! やめよう無計画登山!
デスマーチが葬送行進曲へ転調してしまう!
「今回も――ケンタロウ様のお陰です」
と、キィロは僕をグイグイ持ち上げてくれるが…………
『だろう? そうだろう? 我を褒め称えることを許す!』とか脳天気ピノキオにはなれない。
実際、今回【も】いきあたりばったりの結果オーライ。
一歩間違えば、壱号弐号ともども、僕とキィロも氷漬け遭難者になってたかもしれない。
「やばたにえんの無理茶漬けだよ、この旅も」
まさに【デスマーチ】を体現した旅さ……輿水健太郎探検隊。
命が幾つあっても足りない。
労多くして功少なし、の見本のような向こう見ずっぷりだ。我ながら、ひどい。
「さ、たんとお食べ」
高原の村・サラーニーの外れまで到着すると、キィロは率先して壱号と弐号をねぎらった。
食べてもいい草の場所(=畑ではない所)へ象たちを誘導してた。
(やっぱりキィロは優しい子だね……)
追い詰められてしまった時、「象を見捨てよ」と進言してきたのは、僕の身を案じたからだ。
(僕は……また彼女に汚れ役を演じさせてしまった……)
非情の判断が本意ではなかったのは、今の彼女で一目瞭然。
甲斐甲斐しく二頭を世話する姿を見れば。
(ごめんキィロ、本当に申し訳ない!)
判断一つで命を落としかねなかった緊急時、彼女の気持ちを慮れば、胸が張り裂けそうになるよ。
「僕はクライアント失格だ……皆が止めた峠越えを強行したばかりか、その挙げ句、パーティ全員を危険に晒してしまった……」
面目ない! 僕が貴族ではなく武士ならば、今すぐ腹を切って死にたいくらいだ。
道端の小枝を短刀に見立て、HARAKIRIフォームで腹に突き立てようとしたら、
「いいえ。ケンタロウ様の機転があったからこそ、無事に乗り切れたんですよ?」
自己評価の低い僕をキィロが諌める。
「だってあんなリマンシールの使い方を編みだすとか! ケンタロウ様は、聖ミラビリス王国一の智将です!」
――咄嗟のことだったんだ。
たまたまキィロのポシェットから落ちたリマンシールが、ヒラメキを生んだ。
そのシール、効能は【頭皮の寂しい貴方もフッサフサ】なる魔術回路で、
もし賢者さんが頭髪に悩んでいるのなら……というキィロの「おもてなし」で選ばれた逸品だ。
毛が生える……
(仮に、象に豊かな体毛が生えたなら…………それってアレじゃない?)
原始の人類が氷原で狩っていた大型獣。
もはや遠い昔に絶滅してしまった、その獣は――熱帯に棲む象と姿形が瓜二つじゃないか?
どうせダメで元々、やれることは全部やってやる! の勢いでシールを額に張った僕は、
蹲る壱号と弐号へ向けて、最大火力を放った!
そしたらコレよ。
頭のみならず体中が長い体毛で覆われ……どっからどうみてもマンモスでしょ? って風体!
些か、牙がサイズに合ってない気もするけど……
それ以外はどうみても マ ン モ ス 。
伝説の絶滅種が人間向けリマンシールで蘇っちゃった!
想定外の体温保全手段を手に入れた壱号と弐号に、
リ・ポビタンのリマンシール(※ファイト一発! な栄養ドリンク)と、
冷え性改善のリマンシール(※カプサイシン含有)を与えて、内から体を暖め、
どうにか全員一緒に峠を越えることが出来た。
まさに結果オーライだ。
「いやいやキィロ、本当の智将なら、こんなとこまで賢者の知恵を借りに来ないでしょ……」
そうだ。
わざわざ危険を冒してまで、危ない峠を越えてきたのは、そのためだ。
なら、掴んで帰らなくちゃ嘘でしょ?
「掴もうぜ! 賢者の教え!」
「もんじょわ!」
「世界で一等、叡智な答え!」
「じょわー!」
ここまで来たんだ、絶対に授かって帰るよ、最高の解決策を!




