第三章 税が払えねば領民は不安よな。アーシュラー爵、動きます。 - 2
「エルフ村の窮状、筋道立てて話せば王様も分かってくれるはず!」
そんな見込みも、見事に打ち砕かれてしまった健太郎。
さすが賢王、一筋縄ではいかない、手強い相手。
半知半解のクライアントを、必殺のパワポテクでだまくらかすのとはワケが違ってた。
一敗地に塗れた健太郎とキィロ、打開策を求めて王都を彷徨うが……
「あんた、悪霊が取り憑いてるわよ!」
「ダメだココ!」
薄暗い天幕に五分も保たず、僕は外へ飛び出した。
プロのツアコン(キィロ)曰く「今、帝都で超話題になってる霊能力者さんです!」と自信満々に案内されてきた先は路地裏。占い師たちが妖しげな呪術用具で「御神託」を告げる地区だった。
軒を並べた占い処には、客がひっきりなし。
ありがたいお告げを求めて、列を成している。
だけど、その客たちが揃いも揃って……
虚ろな目をした者、不安感に苛まれた者、怪しい壺を抱えて満面の笑みを浮かべた者。
(――ダ~メだコリャ!)
建設性も何もあったもんじゃない!
ただ、己の不遇に病んだ人が心の疼きを鎮めたがっているだけじゃないか!
口の悪い婆さんの罵詈雑言を、人生の箴言だと有難がってる時点で、相当ヤバい!
「無理!」
ここでは、僕らの懸案は解決しない!
☆ ☆
「あなたにも聖ミラビリスの加護、あらんことを」
「ここもなぁ……」
次に訪れたのは荘厳な尖塔の建物で、
そこで僕らは、司祭様からありがたい説教を聞かされたものの……
「長話を要約すると『神を信じてれば、そのうち何とかなる(※かもしれない)』だしな……」
基本、教会の慈善活動はボランティア。
それは「社会システムとしての福祉」とは質が違う。
ボランティアの基準は恣意的だ。恣意的であっても批難される謂れはない。
自分が助けたい人を助ける。
それがボランティアの本質だ。
よって、
教会の利益となる案件とそうでない案件、両者、行動に対する腰の重さは相当異なる。
教会は賢い。もっと有り体に言ってしまえば、あざとい。
営利企業顔負けの利己的組織なのだ。宗教団体とは。
そういう組織体だと、歴史も証明している。
「もし教会が賢王と対立しているのなら、その火種を煽って僕らの味方につける……みたいな可能性も考えてたんだけど……」
「教会と王の不和ですか? そんな噂は聞いたことがないですね……」
キィロの見解は正しいのだろう。
教会中に貼られた王様の「税は公平に」ポスターを見れば、その蜜月ぶりが窺い知れる。
さすが賢王様、聖職者の懐柔も抜かりないようだ。
☆ ☆
壮麗な教会を後にした僕とキィロ。
「どうしたもんかなぁ……」
結局、ラタトゥイーユさん救出の妙案は、なに一つ得られなかった。
生半可な理論武装では、簡単に賢王&宰相コンビに跳ね返される。
あの二人は賢い。
その賢い奴らを言葉で打ち負かさねばならんのだ……
「高い壁ですね……」
当て所なく僕とキィロ、トボトボと路地を歩く。
ふと、集合住宅の高い壁を見上げると……ポスターが無造作に貼り付けられてた。
『年貢の準備は万端ですか? みんなニコニコ、現物物納♪』
――――眩いばかりの笑顔で、【僕】が税金の告知してる。この世界の僕(王様)が。
『神と和解せよ』
――――この世界の信者の皆さんは神と喧嘩したのか?
僕らの世界の「原罪」はキリストの犠牲で購われたはずだけど?
『ズバリ言うわよ! あんた死ぬわよ!』
――――相手を恫喝して不安を煽る……
異世界であれ現代であれ、どこの占い師も一緒だな……
「行政(※王様・宰相)もダメ、宗教団体の福祉事業にも期待できない、占いとか論外……」
なら僕は何に頼るべきか……
この世界のことを知らない異邦人に何が出来るのか?
エルフの窮状を救うために、僕が出来ること……
「「ん?」」
『困りごと、承ります 創業五百年。信頼の賢者印!』
厚化粧占い師の隣、色あせた張り紙に仙人が模写されていた。
いや、この世界に【仙人】という概念は存在するのか不明だが……
エルフの村、リープフラウミルヒの族長よりも老齢で禿頭、ZZ TOPばりの立派な顎髭を蓄えた容貌は、まさに【仙人】!
「ああ……『困り果てた者は賢者を頼る』ですね……」
キィロの口ぶりからして慣用句みたいなものだろうか? この世界の。
日本語に翻案すれば、『溺れる者は藁をも掴む』みたいな感じかな?
「賢者か……」
汝、賢き者ナリ。風貌だけなら、どの張り紙の肖像よりも知恵者に見える。
少なくとも「バカ野郎」「能無し」「地獄に落ちる」などという物騒な預言で恐怖を煽る霊能者なんか比べたら、随分と頼りになりそうだ。
「頼ってみるか!」
このまま手をこまねいていても仕方がないし。




