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第二章 デスマーチからはじまる温泉狂想曲 - 5

ニセモノ男爵アーシュラーこと、輿水健太郎、転生してから何度目のピンチ??

なんかもう、やることなすこと致命的な現代人だけど……今度こそ年貢の納め時ですか?


暴風吹き荒れる、稜線の上でにっちもさっちもいかないぞ?

ヤバいヤバい、今度こそ本当にヤバい?


挿絵(By みてみん)

※登山とか興味がない方へ補足説明。

「ガレ場」とは、こういう感じの、岩の崩落した斜面です。

「キィロ、あのシール出して!」


 この世界の魔法は、シール方式の触媒を使うものだ。

 魔術回路が刻印されたシールを体に貼ることで、超能力を発現できる。

 それこそ、龍のブレスに耐えるほどのスーパーシールドだって駆使できるんだ!

 特別な訓練も受けていない僕でさえ使えた。

 まさに魔法的な超能力を。


 早速、キィロが持つ魔法触媒シールを片っ端から吟味したら……


「これは?」

「少しだけ見えなくなる効果ですね」

「こっちは?」

「皮膚硬質化ですね」

「え、ええい! これは?」

「それは寝なくても大丈夫なやつです。こっちのは食べなくても平気なやつ」

「はぁ?」

「そっちは酔い止めで、こちらは少しの間だけ尿意を我慢できる……」


「使えねぇえええええええええええええ!」


 いくら超能力を発揮できる魔術回路と言っても、こんな状況では屁の役にも立たない!

 『人を軽々と背負える筋力強化』能力とかないの?

 急角度の岩場をヒョイヒョイと降りていけるような、パワー増強系とかさ?


「キィロ、これは何の効果?」

 わらをもすがる思いで最後のカードを確かめると、

「ええと……それは動物会話ですね」

「へ? そんなことも出来るの?」

(もしかしてコレなら?)



「ヒヒィィィィーン! ブヒヒヒヒヒーン!」

「ヒィィィィィィィイーン!」

「……ブヒヒ?」

「ブヒヒ! ブヒヒヒンヒン!」



 これ以上、稜線に留まってたら風に飛ばされる! 谷底まっしぐら! な状況寸前で、

「ブヒヒヒヒヒヒヒヒー!」

 ようやく馬も僕の説得を聞き入れてくれた。


 ヒョイヒョイとガレ場を下っていく鹿(っぽい生き物)を指して、

 「鹿の通程の道、馬の通わぬ事あるべからず!」とかハッタリかましたら、何とか納得して、エルフさんを背に括り付けた貴族専用の赤い馬、ギュンギュンとガレ場を下っていった。

「鵯越の逆落としは真実だった……」

 サンキュー遮那王、サンキュー牛若丸。

 草食動物の類稀たぐいまれなる危機回避能力を見届けた僕とキィロは安全第一、ゆっくりとガレ場を下山した。



「……死ぬかと思った……」

「なんとか切り抜けられました……」

 ようやく岩だらけの沢を下り終え、平坦な地面に腰を下ろしたところへ、


「ようこそ、リープフラウミルヒ村へ。貴族様」

 精魂尽き果てた僕らを、歓喜のエルフたち数十人が迎えてくれた。

(あった!)

 村は本当にあった。

 怪我したエルフの証言通り、稜線の先に村があった!



 村長の家かな?

 村で最も大きな家の広間に通された僕とキィロは、

「この度はラタトゥイーユを助けて頂き、誠にありがとうございました、帝都の貴族様」

 仙人髭の長老を始め、大勢のエルフさんたちに頭を下げられた。

「いや、当然のことをしたまでです」


 ほんと死ぬかと思いました――とか、嫌らしいので言わないでおこう。

 まさか、河原で最初に遭難者を発見した時は、こんなに大事になるとは夢にも思わなかった……


「ご謙遜なさらず」

「ささやかながら酒宴を用意させていただきましたので」

 ま……夕食くらいはご馳走になってもバチは当たらないよね?


 大宴会の主賓席に座らされた僕とキィロ、

 おそるおそる、木の匙で澄んだスープを口に含んでみると……

「うまい! うますぎる!」

(なんだこれは?)

「地元産の貝と昆布のスープでございます」

「このような田舎料理の類ですので、果たして貴族様のお口に合いますかどうか……」

 黄金色の汁に貝の入った、シンプルなスープ。なのになのに!

「こんなに美味しいものは初めて食べました!」

 この世界に来てから、マジで一等賞!

 飾り気のない見た目からは想像もできないほどの、デリシャスな旨味が感じられる!

「はっはっは、さすが帝都の貴族様は世辞が達者でいらっしゃる」

「いやいや……お世辞じゃなくて!」


 なにせこの世界、何がイケてないって食事がイケてない。

 素材の味を活かした調理といえば聞こえが良いが、実態は味付けが恐ろしく単調。

 何を食べても塩味のみ。

 味の違いは、さほど塩辛くないか、超塩辛いか。

 調味料のバリエーションに関しては元の世界が本当に恋しい。


 僕の感想がお世辞じゃないのはキィロを見てもらえれば分かるはずだ。

「はふ!! はふはふ!!」

 キィロ、王国各地のグルメスポットも案内するツアーコンダクターなのに、目の色を変えて食事に食らいついてる。誰が見ても本気食いだ。帝都の平均的食事レベルに慣れた者にとっては、感動を覚える味だよ、この村の郷土料理は!

(出汁の旨味が極上じゃないか!)

 こんなに品のある旨味は、僕の世界でも滅多に出会えない。

 ミシュランクラスの高級店でもなければ、知る人ぞ知る穴場の料理屋でもないと。

 来てよかった、辺境のエルフ村! 怪我の功名、瓢箪ひょうたんから駒よ!

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