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第二章 デスマーチからはじまる温泉狂想曲 - 3

さぁ、この輿水健太郎が!

デスマーチの何たるかを見せてやろうか!(※偉そう





挿絵(By みてみん)

そんな社畜マンを待ち受ける、運命の? 河原…………

 そんな結論で納得できるのか?

 帝都からえっちらおっちら、馬で四日かけて来たんだぞ?

 「何の成果も得られませんでした!」と呆気なく白旗を揚げるのか?


「こうなったら! どうあっても温泉に入る!」


 自分で言うのも何だが、これこそが【デスマーチ思考】である。


 客観的に見て「もうこりゃダメだ」と判断したら、即座に損切りして撤退する。

 失敗は失敗と認めて、別のプロジェクトで成功を目指すのが賢いやり方。

 どんな天才経営者でも百発百中なんて夢のまた夢さ。

 スティーブ・ジョブズは最初からカリスマ経営者だったか?

 どんなプロジェクトであっても、グーグルが携われば濡れ手に粟のボロ儲けとなるか?

 高名なアーティストだって、凡作の上に大成功作が輝く。

 万人が認める傑作の影で顧みられることがない駄作が山程埋もれているんだ。


 それが人の営みというものだ。

 成功者とは、その割り切りが出来る人を言う。賢い取捨選択の出来る人が勝ち組となるのだ。


 しかし、それまでに注ぎ込んだリソースを惜しむ奴は、なんらかの成果を挙げるまで死の行軍を続けてしまう。もはや本来の目的を達成できないと感づいているのに、何か代替できそうな結果を得るまで、無理矢理事業を継続してしまう。

 誰も得しないのに。

 労多くして功少なし、だってのに。

 そう薄々感づいていながら、頭では何となく理解していながら……敢えて採用しない。


 ――――それがデスマーチ思考である。


 そんな思考の囚われ人である、僕こと輿水健太郎。

 異世界転移程度で生き方を変えられるなら、令和の無責任男として楽に人生を渡っていける。

 ――三つ子の魂百まで。

 ひとたび形成されてしまった人格は、そうそう変わるもんじゃないよ。


「よし!」

 木と石と蔓草つるくさで作った即席の斧を担いで、川岸をさかのぼる。

「何をなさってるんですか男爵様?」

「ふ……水温を確かめているんだよ、キィロ君」

 シャーロック・ホームズばりのしたり顔で添乗員さんにうそぶく。


 「野趣あふれる秘境温泉!」的なテレビ番組で見たのを見様見真似してるだけなんだけどね……


 火山があるならば、近くの川に熱水湧出孔があるかもしれない。

 それを探すのだ。

 文字通りの熱い泉(ホットスプリング)を。

 見つけたら川底を掘って即席の露天風呂に入る!

 無いなら作る。ハンドメイド スパリゾート! 異世界温泉物語!


 そこまでやれば一応「温泉に入った」と言えるじゃないか? 格好つくじゃないか?

 遠路はるばる僻地へ赴いた甲斐がある。(※と自分に言い聞かせる)

 (※デスマーチ的認識バイアス)


 川沿いの道なき道を掻き分け行く僕と添乗員さん、

 冒険アドベンチャーマインドがノッてきた僕は、即興の行軍歌ガンパレードマーチを口ずさむ。

「輿水健太郎探検隊隊歌!」



 輿水健太郎が~ 川沿いを行く~

 足取り軽やかな添乗員さんの後を、ヨロヨロと歩くぅ~

 川岸の砂利には~ 女の子が転がる~

 エルフみたい、耳の尖った、女子が転がる~



「は?」

 呑気に歌なんか唄ってる場合じゃない!

「大丈夫ですか?」

 河原で倒れていたエルフさん、ひどい脂汗を浮かべ、悶え苦しんでいる。

(これは只事じゃない!)

 診たところ、外傷らしい外傷はないのだが……

「……持病のしゃくが……」

 胸を掻き毟らんばかりに苦しがっている。

 西施みたいな胸の病か? フィールドの貴公子三杉くん的な?

 いずれにせよ体の内側の話なら、素人に出来ることなど無いに等しい。


「キィロ! この子を病院……」

 言ってから気づいた。

 我ながら、なんて間抜けな台詞だ?

 こんな異世界にレスキューヘリなんて飛んできてくれるか?

 そもそも連絡手段がないじゃないか。

 衛星電話どころか携帯だって通じないんだぞ?

 助けを呼びに行くにしても、ウカウカしてたら怪我人が衰弱してしまうって!


「キィロ! 近くに集落はないんだよな?」

「そのはずですが……」

「じゃ、この子はどこから来たの?」

 倒れていたエルフさん、用意周到の旅支度には見えない。

 ちょっと裏山まで山菜採りに、くらいの格好だぞ?

 数日小旅行の僕らだって、不測の事態に備えて、詰めるだけの荷物を馬に乗せてきたのに。


「てことは自宅が近くにあるんじゃないか?」

 家族なら「持病」に対する処置も心得ているんじゃないのか?


「稜線を越えたところに……私の村が……」

 絞り出すようにエルフさん、最低限の情報を僕らに伝えてくれた。



 意識朦朧のエルフを馬の背に括りつけ、山道を登る僕と添乗員さん。

 森の道は、細いながらも整備が為された生活道路だった。

「ちゃんと整備されていますね」

 崩れやすい場所には木材や石で補強が施してあり、邪魔な枝も伐採の跡がある。

「ああ……」

 どうやらエルフさんの話には信憑性がありそうだと、僕らは頷き合う。


「あれか……」

 彼女エルフさんの証言通り、森を抜けたところで僕らは【 稜線 】を発見した。


 その稜線は、こちらの台地と向こうの台地の間に架けられた橋のような道で……

 渡り切るまでの長さは数十メートル、幅は馬一頭が通れるほど。

 「稜線」だけあって、道の両側は切り立った崖が百メートル以上落ち込んでいた。


「いや、でもこれは……ちょっと待って……」


 そんなハラハラ通路であっても、通るだけなら何とかなるよ。

 通るだけなら。

 高所恐怖症の人だって這っていけば渡りきれる。


 ところが!


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