第一章 レッドス・ネークって何の肉? - 6
――ところが。
違ってた。
焼死でも圧死でもドラゴンの胃の中でもなく―――僕の死因は毒殺だった。
いや。
されかけたんだ。
即効性の毒に冒されたはずの僕は――何故か意識を取り戻す。
死にかけたけど死ななかった。
「う……ううん…………」
ジンワリと取り戻した視界には、横たわるドラゴン。泡を吹いてピクピク痙攣してる。
苦しげに尻尾をバタつかせるものの、
人間など相手にもならない、最強捕食者の猛威も失われ……弱々しい息は、死を待つばかり。
瀕死だ。
黙っていても事切れる。そう直感するほどの弱り様だった。
なのに僕は、
「助かった……?」
――どうしてさ?
体長十メートル超のドラゴンすら昏倒させる毒――ドス黒い緑と紫の煙が充満しているのに、この狭いバックヤード中に!
あらゆる生物が青息吐息で、望まぬ死を強いられる。
そんな毒霧地獄で――どうして僕は生きてるのさ?
「うう……」
女の子のうめき声に振り返れば……
「は?」
接吻してる????
毒に悶える軍服の女子に、添乗員さんが覆いかぶさって……接吻してる!
「添乗員さん!?!?」
どうしてここに添乗員さんが!?
いや――僕は知っている。
僕は見た。
意識を失う寸前――迫りくる暴れ龍に立ちはだかった、彼女の姿を。
「権能せよ! 偉大! リマンシール!」
はだけた胸の、心臓の位置に貼られていた魔術回路が輝けば、
「CHURCH OF THE POISON MIND!」
ビビッドな霧状物質が地下構造を満遍なく染めていく!
狭苦しいコロッセウムのバックヤードを、毒の霧が満たしていく!
この迷宮に逃げ場なし。
人だろうが、小動物だろうが、果てはドラゴンだろうが、あらゆる生命を冥界へ招き寄せる――
ここは死霊の教会だ!
…………添乗員さんが僕らを助けてくれたの? 彼女が龍を倒したの?
この毒霧は彼女の魔法? 能力?
彼女、ポンコツ気味の新人ケモミミ添乗員さんじゃなかったの?
トランキーロ・バッファローワンと名乗る彼女は、さ!
「早く外へ」
何とか意識は取り戻したものの、未だ足元の覚束ない軍服の子を、
「お、おう!」
僕と添乗員さん、二人で支えて階段を上る。
目も耳も鼻も腔内も、あらゆる粘膜がヒリヒリと痛いけど、必死に足を動かして地上を目指す。
「うぉええ……」
地上へ出るなり、僕と軍服の子は壮絶に嘔吐した。
毒の残滓で頭はクラクラ、足はフラフラ。
龍を卒倒させるほどの凶悪噴霧は伊達じゃない!
そこへ添乗員さん、
「乗って下さい、男爵様! 早く!」
捕まえてきた流しの馬車へ僕と軍服の子を押し込んだ。
自分の身体すらままならない僕らを尻目に、彼女だけは平然と介助を続ける。
なんなんだ?
いったい何者なんだ、ケモミミ添乗員は?




