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「やはりここからの光景は素晴らしいな!」
フレイが無邪気な声で笑う。
その笑い声に竜が、喜んでもらっているのが嬉しい、といったような囁きを返す。
あまりコイツを甘やかさないでくれ。
テツは心中でそんな事を思うが、そう思う本人が竜の背からの光景に感動しているので、説得力は皆無だろう。
この前は森の中だったからなぁ。
開けた平原で竜の背に乗ると、こんなにも素晴らしいのかと、テツは感動していた。
風の冷たさはいかんともしがたいが、その価値は十分にあるだろう。
眼下ではサムソンが、テツ達が乗ってきた馬を引き連れて、まるで凱旋するかのように胸を張って馬を走らせている。
「なぁなぁテツ!我が騎士よ!」
「なんだよフレイ、我が姫様よ」
「今度の戦争の時にはコイツと存分に楽しもう!」
その言葉にテツは、笑いながら竜と共に大群に突撃する銀の炎を幻視して怖気が走る。
なんてこった、俺も笑顔で突撃してるじゃねぇか。
「そういうのは実際に始まってから考えようぜ、我が姫よ」
「縄で括った木を曳かせるというのはどうだ? 通った後には屍しか残らぬぞ!」
「馬鹿止めろ、味方もドン引きするわ!」
訂正、たぶん俺は引き攣った笑みを浮かべて突撃するのだ。
「嗚呼、楽しみだわ」
フレイが夕食のメニューが何かと楽しみにするのと替わらぬ声音で言う。想像するのは随分と物騒な未来ではあろうが。
そっとテツの右腕に、その黒い甲冑に覆われた右腕にフレイの手が重なる。
「私の騎士、我が右腕、共に行きましょう、そこはきっと随分素敵な地獄のはずよ」
テツはその言葉にすぐに応える事は無かった。
酷い、なんとも酷い誘い文句ではないか。
国程度なら笑顔一つで落とせるような美姫から出るには、あまりにも酷い誘い文句だ。
きっと居ないだろう。
帝国広しといえど、俺以外には居ないだろう。
フレイ・クロファースに、一緒に地獄へ行かないかと誘われる男は。
テツは重ねられたフレイの手を優しくはがすと、見え始めた部下達に向かって、その黒腕を大きく振る。
手を振りながらテツは言う。
緩む頬を別の笑顔で隠しながら。
「言っただろ? 君を必ず守るって」
双子竜戦争と呼ばれる帝国の内乱。
その始まりを何時とするかについては諸説ある。
二人の皇帝が建った時であろうか?
それともスタトの反乱をもってであろうか?
それらは実に分かりやすく、説得力のある説である。
だが私はこう言いたい。
双子竜戦争、その要において名が上がる人物、フレイ・クロファースとその右腕テツ・サンドリバー。かの二人の人物が、その伝説的活躍において比類無き寄士竜を手に入れた瞬間こそが、双子竜戦争の始まりだったのではないかと。
彼らはこの後、幾多の戦場を駆けていく。
スタト撤退戦、ラトビアン図書館防衛戦、キアン平原決戦、スタト奪回戦、大小問わずに上げればそれこそキリが無いほどに。
かの二人はまさに双子竜戦争という戦争の主役であったのだ。
であれば私はその主役達が揃ったこの時こそを、双子竜戦争の始まりとしたい。
一応、当初書き出した時の終わりまで書けました。
気が向いたら、続きとか書くかもしれません。
その時はまた、よろしくお願いします。




