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彼女はかく語らず竜は囁く  作者: たけすぃ


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 例え王都であったとしても竜骨街道を、王都の中に通す事は出来ない。

 ゆえに王都から竜骨街道へと繋ぐ道か存在するのだが、テツ達は軍のみが使う事を許されている軍道を使って竜骨街道へと入った。

 テツとフレイは馬にかなり負担をかけている、と自覚はしていたが無理を押して馬を走らせた。

 寄士竜は人を襲わない、それは例外を見ない程に確かな事ではあったが、それはあくまで自然に生息する竜に限った話であったし。そうでなくても寄士竜とは巨大なのだ。

 意図せず人を傷つける、というのは無い話ではない。

 もしこちらに向かっているのがあの竜ならば、理由は何であれ、竜に人を傷つけさせるつもりはテツにはなかった。

「いた! あの竜だ!」

 テツとフレイの声は期せずして重なった。


 竜が遠くから駆けてくる自分達を見つけると、立ち止まった。

 少なくともテツにはそう思えた。

 テツ達が目の前に来るまで竜はじっと待っていた。見上げる巨体は陽光を受け荘厳な彫像のようでもあり、逆説的にそれが彫像などではあり得ない生き生きとした生命であると、強く主張していた。

 竜に慣れていない馬を落ち着かせながらテツが歩み寄ると、竜がゆっくりとその頭を垂れる。

 わが主よ――。

 酷くハッキリとした囁きが聞こえる。

 あまりにもハッキリと、まるで人が話すそれのように聞こえる囁きに、テツは思わずフレイを見てしまう。

「私にも聞こえたぞ」

 フレイはその視線を受けて応える。

 この身をここに――。

 竜はそう囁き、問いかけるような視線を投げかけてくる。

 それに混乱したのはテツだった。

 意味が分からなかったのだ。

 狼狽うろたえるテツにフレイが呆れたように言う。

「何をしているんだ、この竜はお前を主と呼んでいるんだぞ?」

 なった覚えはないんだが、テツはその言葉を飲み込んだ。

 そう言うには、この竜との間に確かな絆のような物を感じてしまっていたし、竜に主と認められたと喜ぶ本心を裏切るように思えた。

「どうしろって言うんだ」

 テツの喘ぐような疑問に銀の炎は笑う。

「とりあずは乗ってみれば良いんじゃない?」

 もちろん、私も一緒に乗るけども、そう言うフレイをテツは何とも言えない表情で見つめた。


 ソルボロスは三十代で王国軍の将軍を任される英才である。

 侯爵の爵位を持つ大貴族ではあるが、領地は竜骨街道には接しておらず、他の大貴族と呼ばれる者達と比べれば一歩見劣る。

 馬の名産地として有名ではあるものの、他の貴族からは田舎者と呼ばれていた。

 ソルボロス・スァーン侯爵は、いつか自分の領地を王都にも負けないよう、栄えさせるというのが夢だった。

 自分の代では無理でも、息子の代、孫の代にはと彼は考えていた。

 それ故に彼は王国に絶対の忠誠を誓っていた。

 王国にとってスァーン家が重臣として認められれば、必ず報われると彼は信じ切っていた。

 これはソルボロス・スァーンが夢見がち、というわけではない。

 同時代の封建国家の多くが同君連合でしかなく、王家であってすら我家我領地という考えから抜け出せていなかったのと違い、帝国は既にその考えから抜け出していたからだ。

 つまり皇帝は帝国全体の事を考え、国王は王国全体の事を考えるのだ。

 当たり前の事のように思われるかもしれないが、これは中世の考え方ではなく、近代の考え方なのだ。

 それ故にソルボロス・スァーンは信じていた。

 王国に厚く遇されるには、それに相応しい働きをする事だと。

 そうして彼は王国軍に入り、持ち前の才能とそれ以上の努力でもって、彼は若くして頭角を現すと、三十代でその頂点へと上り詰めた。

 違法に住み着く外街の平民など、正直な所ソルボロスからすれば、死のうが生きようが興味は無かったが。

 王は慈悲を示され、自分に命令されたのだ。

 そうであれば自分は全力で命令に従うのみである。

 王国軍は近衛騎士団と違い、その大半が平民で構成されているが、指揮を執る者は当然ながら全てが貴族である。

 というよりもこの時代、貴族でもなければ兵を指揮する事を学べないのである。

 前線で指揮を執らせる、という意味では平民は使われたが、戦略的指揮を執るのは貴族の仕事であったのだ。

 なのでソルボロスは彼らに話しかけられた時、その人物の巨体さよりも如才じょさいない報告そのものに、いささか驚いたのだ。

 レイドリックは言った。

「閣下、団長より指揮に入るよう命令を受け馳せ参じました。勝手ではありますが、既に数名を走らせて避難状況の収集に当たらせています。ご命令頂ければ住民の避難作業に当たれます」

 ソルボロスは二人の竜寄兵りゅうきへいを連れて現れたレイドリックの報告を聞いて、その言葉遣いに驚き、命令を待たずに情報収集に兵を走らせている事に感心した。

「そうであるか」

 せいぜい邪魔にならない所に並べておく、程度にしか思っていなかった事を丁寧に隠しながら、ソルボロスは頷いた。

「ところでサムソン子爵は如何いかがした?」

 ソルボロスは内心で勝手にライバル視していたサムソンの事を尋ねた。てっきりこの場に来るのは彼だと思っていたからだ。

「サムソン様は団長を追うとおっしゃられておりました」

「そうか、では貴公……」

 ソルボロスは一瞬だけ迷ったが、そのまま尋ねる事にする。

「名は何ともうす」

「レイドリックと申します」

 性が無い、やはり騎士爵すらない平民か。

 相手の如才なさに本当に平民かどうか確かめる、という益体やくたいの無い時間をつい使ってしまった事に若干の恥ずかしさを感じつつ、ソルボロスは言った。

「では外街の北西側の避難誘導を諸君ら近衛兵団に頼もう」

「了解致しました」

 レイドリックはそう短く答えると、随伴していた二名の竜寄兵を連れて立ち去っていった。

 嗚呼しかし、大きかったな。

 ソルボロスは今更ながら驚いた。


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