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彼女はかく語らず竜は囁く  作者: たけすぃ


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 テツはサムソンに兵舎へ行って代わりに指揮を執ってくれるよう頼むと、ソルボロスに馬を一頭用意して貰えないかと要請した。

 ソルボロスは内心の不満を押し殺して、その要請を受け入れた。

 ソルボロスはこの平民の近衛兵団団長の事を毛嫌いしていた。何もかも気に入らなかった。

 スァーン侯爵家の領主として、王国軍の将軍と呼ばれる地位にいる彼は、出来れば自分の息子をフレイの夫に、と考えていた。

 それこそ息子が幼い頃より、フレイと自分の息子をどうにかして巡り合わせようと画策してきたのである。

 ところがそのフレイの隣にいるのは、この平民の貧乏騎士の少年なのである。

 それどころかその少年は、自分の息子よりも早く初陣を飾り、どうせ嘘であろうが地竜を討伐した武功で叙勲され、不相応ふそうおうな地竜の素材を使った鎧などを着ているのだ。

 更には近衛兵団団長という、自分と対等とされる役職に就いているのである。

 気に入ろうはずが無いのであった。


「ありがとう御座います将軍」

 テツは馬の用意を受け入れてくれたソルボロスに礼を言った。

 幸い鎧も着ているし、剣もある。馬さへあれば竜の所まで駆けつけるのに何の問題もない。

 ソルボロスの先程の報告によれば、件の竜は竜骨街道を西から王都に向かってきているらしい。

 方角的にも、腕が無いという特徴的にも、あの寄士竜であるとしか思えない。

 違った場合は違った場合で考えるにしても、確かめるだけの価値は十分にあるだろう。

「我ら王国軍は、竜寄士りゅうきしを出すが、貴公はどうされる?」

 ソルボロスのその言葉に、テツは思わず黙ってしまう。

 外街の住民を守れ、というのは確かに王命であったが、流石に竜寄士りゅうきしまで出すというのはテツとしては予想外だった。

 つまり王国軍はそれだけ本気である、という事だった。

 寄士竜きしりゅうを止める、というのなら確かに竜寄士りゅうきしを当てる、というのは当然の考えではあるが。

 まさかそれを貴族であるソルボロスが、外街の平民を助ける為におこなう、というのはテツに大きな驚きを与えた。

 竜寄士りゅうきしをそのように使う貴族がいる、というのはテツにとっては正に予想外の事であったのだ。

 実際の所、ソルボロスは外街の平民の事など気にしてはいなかった。あくまで王命であるから守るのであって、そうでなければ気にもしなかっただろう。

 竜寄士を出す、というのも近衛兵団に対する当てつけ、といった意味合いの方が強い。

 ぽっと出の、それも平民のみで組織される近衛兵団との格の違いを見せつけてやろう。貴様らには紛い物の寄士竜しかいないだろうから、そうソルボロスは考えていたのだ。

 そうとは知らぬテツは、ソルボロスを尊敬の眼差しで見つめた。

「将軍、私は馬で一人で竜のもとへと向かおうと思います」

「ほう、一人でかね」

「はい、近衛兵団でも急ぎ用意させていますが、待っている暇はないでしょう」

「そうであろうな」

 ソルボロスは皮肉を込めたつもりの、精一杯の横柄さで応える。

 それにテツは気が付かない所か、その横柄さを自信の現れと受け取った。つまりは外街の住人は任せろと言われている、と受け取ったのだ。

 威厳があるというのは、こういう事なのだろうなぁ。

 テツは大いに誤解しながら、ソルボロスを見る目にますます尊敬がこもる。

「もし竜が私の見立てた竜で無い場合は将軍のひきいる王国軍が頼りとなります、近衛兵団もじきに合流出来ると思いますが、私が戻るまで将軍にお預けしたい」

「ほう私に指揮を?」

 ソルボロスは生意気な平民だと思っていたテツが、殊勝しゅしょうにも指揮権を一時預けると言い出した事を、当然ながら意外に思った。

「はい、将軍のような立派な方でしたら、安心して部下を預けられます」

 ソルボロスはテツから真っ直ぐに向けられる尊敬の念に、若干の狼狽えを覚えながら、平静を装って鷹揚おうように頷く。

 その鷹揚な頷きに、勇気を貰いながらテツは久方ぶりに頼れる大人を得た少年の顔で言う。

「それでは将軍、外街はお任せいたします!」

 嗚呼、こんなにも楽なのは久しぶりだ。

 テツは足取り軽く駆けだした。


 王国兵から馬を預かると、テツはその王国兵に近衛兵団のサムソンかレイドリックに、自分が戻るまではソルボロス将軍の指揮に入るようにと、伝言を頼んだ。

 テツは王国兵からの応答もろくに確かめずに馬で駆け出すと、城を出てすぐに背後から追いかけてくる馬蹄の音に気が付いた。

 ほぼ外れる気のしない予感のまま振り返ると、銀の炎が当然のようにそこにいた。

 二言、三言、言うべき言葉を探すが結局テツは無言のままだった。

 思ったのは叙勲式なのだからドレスでも着てみれば、と言わなくて良かったという事だけだった。



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