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「良かったのですかテツ様?」
そうクエルがテツにそう訊いてきたのは、帰りの馬車の中での事だった。
何が? という疑問を視線で問うと、クエルは若干の呆れを含んだ声で応えた。
「地竜の肉ですよ」
ああ、とテツが気の抜けた声を漏らす。
竜の肉と言えば腐らない肉として有名である。それも未加工のまま三年は持つと言われている。
味も悪くないらしく、その珍しさもあって王都で売れば一財産になっただろう。
だがテツはそれを村へ無償で譲り渡していた。
「ゴブリンに随分と食料を駄目にされていたからな」
と返事を返すテツの声には覇気が無い。
ちなみに随分と余った糧食も村へ渡している。
その替わりというか、その他の皮や鱗や骨といった物は馬車に積んでいる。
「まぁでも肉は食ってみたかったかなぁ」
と何となしに漏らすと、そう仰るかと思って、とクエルが笑う。
「少し分けて頂きました」
ああ、そうか、じゃぁ楽しみだな。
テツの考えが形になったのはそこまでだった。
意識を睡魔に手放したテツは、そのまま首を傾げ寝てしまう。
近衛兵団として一から十まで自分達だけで計画し行動した初めての作戦だった。
その指揮を執っていた疲れが一気に出たのだった。
「姫様?」
クエルはついからかう口調になるのを自覚した。
「お顔が赤う御座いますよ?」
寝入ったテツに左肩を枕にされたフレイはその言葉を無視した。
テツ・サンドリバーが竜を殺した。
これは長らく王家が近衛兵団団長であるテツ・サンドリバーの為に行った情報工作であると思われていた。
だが近年の研究によって、ヴォラ・サムソンが書いた詳細な手記が発見され、それが事実であった事が確認されている。
また当時の記録をより詳しく調べると、どうも貴族の妨害工作があったようで、テツ・サンドリバーが成し遂げた偉業が意図して広まらぬようにした形跡が散見される。
幾人かの貴族は、たまさか竜の死骸を見つけ拾ってきただけの恥知らず、とテツ・サンドリバーの事を書き記している。
そういった貴族に対してテツ・サンドリバーが何かしらの反論をおこなった、という記録は残っておらず、当時の彼の立場の微妙さを物語っていた。




