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彼女はかく語らず竜は囁く  作者: たけすぃ


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 広場に帰るとサムソンからの大げさな安堵の言葉を聞かされ、運悪くレトゥラトスの死体の警護にまわされた兵達からの質問にもみくちゃにされながら、テツはこれからを考えた。

 というよりもレトゥラトスの死体をどうするかを考えた。捨て置くのはもってのほかとして、ここで解体するというのも難しい。

 となれば持って帰る、という事になるのだが。

「持てるかな?」

 とテツは当然の疑問を口にする。

 誰に向かっていった言葉でも無かったが、その言葉にコリンが応える。

「試してみます!」

 そう元気よく応えると、血だまりとなっていた首側に回ると、足下を濡らす血にもひるまず巨大な首を難なく持ち上げる。

「いけます!」

 コリンのその言葉に、他の兵達が歓声を上げながら我も我もとレトゥラトスの死体に集まる。

 あっという間にレトゥラトスの死体が持ち上げられる。

 テツは呆気にとられながらも、優秀な部下を持つと指揮官は楽だなぁ、と苦笑する。

 とにかく問題は無くなった。

「それじゃ帰るぞ!」

 テツは大声で命令した。


「そう言えば案内の猟師はどうした?」

 テツが彼の事を思い出したのは森からでてすぐの事だった。

 気になったテツはコリンのすぐ後ろでレトゥラトスの首を持つラトランに声をかけた。

「姫さんと合流した時、帰した」

 とラトランが答え、テツは深く考える事もせずにそうか、と頷き返した。テツはすぐに、もう少し真面目に考えておくべきだったと後悔する事になる。


 村までの道のりを半分ほど過ぎたあたりだった。その影に気が付いたのは。

 影はテツが、なんだ、と思う間もなくグングンと近づいてくる。相当な早さだ。

 テツがようやく警戒の命令を出した時には、その先頭がハッキリと見えてきており、その光景にテツは絶句した。

 影の正体は竜寄兵りゅうきへいだった。

 それだけだったらテツもそこまで驚かなかっただろう。

 だがしかし、その竜寄兵にピレ・ダナスター男爵令嬢が抱きかかえられていれば話は別だ。

 抱きかかえられたピレがこちらを指さし、何事かを竜寄兵に叫んでいるがテツには聞こえない。

「あの先頭の竜寄兵、レイドリック隊長みたいっす」

 そう言ったのは耳を澄ますようなジェスチャーをしていたコリンだった。

 そうかレイドリックは隊長と呼ばれているのか、と関係ない部分に感心しながら、テツはますます困惑する。

 なぜレイドリックがピレ男爵令嬢を抱きかかえてこちらに走ってくるのか。

「あ、レイドリック隊長がなんか戸惑ってますね」

 とコリンが教えてくれたが、既に近づくにつれ速度を落とすレイドリックから、明確な戸惑いの感情を見て取れる距離だった。

 周りの兵達も近づいてくる仲間達に手を振っている。

「あの、兄貴?」

 部隊の足をいったん止めさせたテツの目の前で、レイドリックが戸惑いを隠せない声を出す。胸に抱きかかえられているピレにいたってはテツを見て呆然としている。

「出迎えか?」

 そんな二人を見ながらテツは一番あり得そうな事を言ってみた。

「あ、いえ、えーっと」

 珍しく言葉を探すレイドリックに、逆に戸惑いながらも彼の視線が自分の無事を確かめるように上下に動いているのに気が付き、テツは成る程と思う。

「これは返り血だよ、ほら兵達が地竜を運んでるだろ? アイツのだよ」

 その言葉にレイドリックがテツの想像以上の反応を示す。

「そう! そうですよ! 兄貴達が竜に襲われているって聞かされて俺たちゃ急いで……、急いで用意して駆けつけたんですがね」

 そう言うレイドリックの言葉は、後半は完全な呆れた声だった。

「倒しちまったんですかい」

「まぁ俺は殆ど何もしてないけどな」

 テツのその言葉をレイドリックは信じていないようだった。

 まぁ誤解は後から解けばいいだろう。

 テツはそう結論づけて、その視線をピレに移す。

「ところでレイドリック、なぜここにピレ嬢がいるのか、その説明を聞こうか」

 テツのその言葉にレイドリックは気まずそうに目を逸らした。


 レイドリック達は息も絶え絶えになりながら、村へと帰ってきた猟師から話を聞くと、すぐさま助けに出ようとした。

 が、レイドリックはここで彼の能力の高さを示した。

 本来ならばすぐにでも出発したいのを堪え、彼はまず残っていた十人の竜寄兵の内、三人を村に残し万が一ここに地竜が襲撃してきた時の為の防備の準備をするよう命じた。

 それと同時に急いでピレ嬢を呼び出すと、森に竜が現れた事を報せ、万が一の事態に備えて村人に避難の準備をさせるように要請した。

 レイドリックは胸を焦がすような焦りを感じながらも、冷静に判断を下しきった。

 すわ準備は整ったと、レイドリック達が出発しようとした時にピレ嬢が自分も付いていく、と言い出した時は流石に冷静さを失いかけたが。

 思わず怒鳴り声を上げそうになったレイドリックは、ピレ嬢の目を見て怒鳴り声を引っ込めた。その様子を迷っていると思ったピレ嬢が言う。

「馬なら乗れます! わたくしとて貴族の子女、姫様をお守りする囮程度の役割してみせます」

「失礼しやす」

 レイドリックは一言詫びると、ピレ嬢を抱きかかえた。

「馬より我々の方が早いので」

 そう言ってレイドリックは、合図と共に走り出した。

 抱きかかえながらレイドリックは、団長が言っていたピレ嬢はいい目をしているという言葉を思い出していた。

 成る程、団長が気に入るだけはある。


 説明を聞き終えたテツは、やっぱり妹と同年代の少女からの頼みを断れなかっただけじゃないか、と思ったが口にはしなかった。

 結果論ではあるが、特に問題は無かったし、先程からピレ嬢がレイドリックに抱きかかえられながらこちらを見ているのだ、これは私の我が儘ですので、という目で。

 流石にその目に晒されながらレイドリックを叱るつもりも、からかうつもりもテツには無かった。

 何より彼は冷静に判断を下し、最速で駆けつけようとしてくれたのだ。褒める所こそあれ、咎めるような点は見つからない。

 結局口に出して言ったのは「心配をかけてすまなかったな」だけだった。

 テツが内心でレイドリックの対応に満足しながら、事の顛末を雑談代わりに話している内に、村の入り口が見えてきた。

 残された竜寄兵だろう、三人の竜寄兵達が村の周辺にからの荷馬車を転がしている。障害物にするつもりだったのだろう。

 防衛の準備と言われ、数少ない物資からどうすれば良いかを考えた結果の行動なのだろう。急場の処置としてはよく考えている。

 いやぁホント、優秀な部下を持つと楽だなぁ。

 テツはそんな事を考えながら笑顔になった。


 フレイ・クロファースは不機嫌だった。

 テツが話しかけてこないからである。

 もっと言えば、テツが褒めないのが気にくわない。

 フレイは忘れていない、あの弓を作った時のテツの顔を。

 あんな顔をしておいて、それに助けられたのだ、だったらアイツはそれを用意した私を褒めちぎるべきなのだ。

 だが、とフレイはそこで我慢する。

 テツは指揮を執っているのである。

 これを邪魔するような愚かなことをしようとは思わない、思わないが行軍している今、お前は私を褒めるべきだろう。

 フレイは最大限の自制心を発揮した。

 だがその自制心もレイドリックが合流し、更にはそのレイドリックと雑談しながら行軍するというテツの暴挙ぼうきょを前に瓦解がかいしそうになる。

 遂に我慢の限界かと思われる時、村が見え始め、テツが嬉しそうに村に残った竜寄兵に手を振っている姿が目に入った。

 フレイは思わず唸る。

 隣にいるヴォラ・サムソンが何事かとフレイを見るが、フレイは気が付かない。

 卑怯だ。

 フレイは思う。

 部下達とあんなに嬉しそうに笑うなんて。

 知らず拗ねたような笑みが浮かぶ。

 あんな笑顔はズルいではないか。



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