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テツがフレイとサムソンに竜が付いてきて欲しいと望んでいるようだと告げると、フレイは当然のように一緒に行くと言い、サムソンは当たり前のように反対した。
サムソンからすればゴブリン相手だと、たった四人でテツを森へと行かせてしまった後悔があるので何としてでも止めたいという思いが、強い口調となって口から出た。
「なりませぬ、姫様。竜は確かに人を襲う事は無いでしょう。ですがどこまで行くのかも分からないのです、万が一森の奥で迷えばそれまでです」
成る程、それはそうだな。
とテツが思っていると。
「もちろん団長、あなたもです」
と自分にも釘を刺される。
テツ個人としては竜に付いていってやりたい、と思うのだが実質的な近衛兵団副団長のサムソンにそう言われると、それは単なる我が儘にしか思えない。
それにサムソンの言う所も分かるのだ。
もともと日帰りでの調査が目的だったので、水も食料も少ない。サムソンの言う通り竜の付いてきて欲しいという所が森の奥だった場合、遭難は必至だろう。
そんな風にテツが考えていると、その思考に応えるように寄士竜が囁きかけてきた。
「サムソン、竜曰く場所はそんなに遠くないそうだ」
テツがそう言ったがサムソンは持論を変えるつもりは無いようだった。
それから静かではあるが熱の籠もったサムソンとの議論を重ねた結果、結局はフレイの何を言われても私は行くぞ、という身も蓋もない宣言によりサムソンは折れた。
竜寄兵の半数を同行させること、道すがら木に道標を残すことを条件としてサムソンは嫌々ながら折れる事となった。
テツ達寄士竜に同行する一行は、仲間達から水と食料を受け取って手早く準備を済ませる。
サムソンは残り半数の竜寄兵でこの場に残り、万が一の事態に備えると共にレトゥラトスの死骸の警護にあたる。
竜の囁きによれば往復しても日が落ちる前には戻ってこれるらしいが、出来る準備を怠るつもりはテツ達にはなかった。
「それじゃあ行ってくる、サムソン悪いが後は頼む」
そう言ってテツが出発の合図を送ろうとすると、眼前に竜の頭が降りてきた。
乗れと囁かれる。
テツが一瞬迷いながらも竜に跨がると、当然のようにフレイがテツの背後に収まる。
フレイよりも背の低いテツが前になると、まるで馬に乗れない子供のような絵図らになる。
いや確かに主を歩かせて自分だけが竜に乗るというのもアレだが、せめて前に乗るなりしてほしい。
そうなった場合、テツは前を見るのに苦労する事になるし、結局はフレイと同乗した場合どうやってもテツは乗せて貰っている側に見えるのだが。
逆恨みに等しい視線を一つフレイに投げかけるとテツは改めて出発の合図を出した。
そこは予想よりもずっと近かった。
あまりに近かったのでテツなどは準備にかかった時間の方が長かったのではと思うほどだった。
そこは小さな崖に囲まれた小さな広場だった。
空から射す光は優しく、地は柔らかな草に覆われひどく穏やかな空気に包まれていた。
だがその場所には、その穏やかな場所には一体の寄士竜の遺骸が横たわっていた。
テツもフレイも、兵達ですらも、その遺骸の前で、その遺骸に優しく鼻を寄せる寄士竜を前に、言葉を発せずにいた。
腹を晒すように横たわる寄士竜の遺骸は、胸が深く抉られていた。
辺りに荒れた様子もない事から、それが一瞬かつ一方的な襲撃の結果なのだと想像できた。
いったい誰がこの寄士竜を殺したのか? その答えは遺骸に供えるように置かれたレトゥラトスの頭が物語っている。
テツは竜の遺骸とそれに顔を寄せる寄士竜を見つめながら、この竜達の関係を思った。
家族だったのだろうか? 恋人、もしくは夫婦、それとも友人?
テツには分からなかったが、少なくともあの時に聞いた竜の囁き、あの深い悲しみと怒りの理由を理解して胸が潰れそうな程の悲しみを感じた。
ふと気が付けばフレイがテツの肩へと手を置いていた。二人は無言のまま見つめ合うと、ただ静かにうなずき合った。
フレイが静かに片手を上げ、それを合図に兵達が元来た方向へと帰って行く、各々(おのおの)の流儀で二体の竜に敬意を示しながら。
テツとフレイは最後までその場に残り、しばし竜の遺骸へと身を寄せる寄士竜の姿を目に焼き付けるように見つめると、静かにその場を後にした。
テツはあの寄士竜がなぜ自分をあの場所まで案内したのか分からなかったが、広場へと帰る道中にフレイが言った言葉が深く胸に刺さった。
フレイは言った。
「命令だ、私より先に死ぬ事は許さぬ」
テツは頷いた。
「分かった、お前の為に生きよう」
二人は互いの顔も見ることもなく。
ただお互いの言葉にうなずき合った。




