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彼女はかく語らず竜は囁く  作者: たけすぃ
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3

 嫌だ嫌だ嫌だ。

 テツ・サンドリバーは目の前に並ぶ兵士達の顔を見ながら心中で愚痴り続けていた。

 本陣の背後にある小さな林の中でフレイとテツは自分達の兵士を整列させていた。

 総勢は五十を少し超える程度で規模から言えば半個中隊にも満たない中途半端な数である。

 だがそれよりも奇妙なのは彼らが非常に若く、そして王国の姫が率いるにしては纏う雰囲気が粗野にすぎる事だった。

「どうしました兄貴? ついにウチの姫さんが我慢ならなくなったんですかい?」

 並ぶ彼らの先頭にいた青年が粗野な笑みを浮かべながらテツにそう尋ねると、その背後から忍び笑いが漏れる。

 尋ねた人物の名前はレイドリック、平民であるので性は無い。年齢は本人曰くおそらく十八とテツ達よりも三つほど年上だが、なぜか好んでテツの事を兄貴と呼ぶ実質的にこの集団を纏めている人物である。

 平民のレイドリックが実質的なリーダーを担っている集団である、当然ながらその集団を構成する者達もみな騎士爵すら持たない平民達であった。

 王国の姫たるフレイが連れているのが平民で構成された半個中隊にも満たない兵隊だというのだから、それだけでかなり奇妙な事なのだが。

 更に、そして何より驚くべき事は、彼らは皆正真正銘フレイの近衛兵として連れてこられているという事だった。

「まぁそんな所だ」

 テツは内心の愚痴が顔に出ないように注意しながらレイドリックに答えた。

 そんなテツの顔を見て兵達が、団長がやる気のある顔してんぞ、珍しい事だ、戦いだ戦いだ、等と秩序も統率も無く好き勝手に騒ぐ。

 そう極めつけはコレだ、俺だ。

 俺が団長というのはどういう事なのか?

 テツは騒ぐ兵達を見ながら途方に暮れそうになる。

 近衛騎士団を差し置いて姫が勝手に平民で構成された近衛兵団を組織しているのですら常軌を逸しているというのに、それを率いるのが爵位も持たない貧乏騎士の俺だというのはいったい何の冗談なのか?

 この頃では冗談ではなく他の貴族から暗殺でもされないかと命の危機を感じ始めているテツとしては何一つ冗談では済まされないのだが、これは悪い夢なのではないかと現実逃避したくなる時がある。

 特に今のような、強引に観覧と言って戦争に参加しておきながら、後は街を一つ落とすだけという所でしゃしゃり出る姫と一緒に戦場に出なければならない時は。

「そういうわけだ」

 思ったより力の無い声が出たのをテツは自覚した、が兵達は一瞬で口を接ぐんだ。

「総員、迅速に装竜し整列せよ」


 ハクソン侯爵は怒りに塗れていた。

 小娘が!小娘ごときが!王族であるというだけでこの私をここまで馬鹿にするなどと!

 怒りのあまり顔を真っ赤にしながら馬上で拳を握りしめるハクソン侯爵を家臣達が出来るだけ遠巻きに様子をうかがっていたが、それすらも不愉快だった。

 ファンガス伯が気遣わしげに二言三言を言葉をかけるものの真っ当な返事すら返ってこない有様だった。

 それ故にハクソン侯爵がその光景に気が付いたのは随分と遅れての事だった。

 後の世の歴史学者に字の汚さから乱筆伯、又はその偏執的な筆記量から記録魔と呼ばれ大層親しまれる事となるバルハドリー子爵は後にその光景をこう書き記している。

 それはまさに銀の炎が草原を黒く焼き尽くしていくかのような光景であった。

 多分に詩的に過ぎると言われる事となるこの文章であるが、他に残したバルハドリー子爵の文章に比べ詩的で情緒的であった為に一時は後生の創作ではないかと疑われたが、現在では彼の書いた物であると確証が取れている。

 実直な文章を書くバルハドリー子爵をして、詩的表現を使わざるえなかったその光景は、如何な物であったのかと今では想像を巡らす事しか出来ないが、少なくともそれを見た当人の言葉は現在にまで残っている。

 バルハドリー子爵はこう記している。

 ハクソン侯爵は陣中で最後にその光景に気が付くと、まるで貴族らしくない女子のような甲高い声を上げて叫んだ。

「オーガの傭兵隊だと!」


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