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彼女はかく語らず竜は囁く  作者: たけすぃ


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 それで一体どういう用件で来たのだ? とフレイから尋ねられた事でテツは兄気分に蓋をした。

 テツは近衛兵団にピレ男爵令嬢が助けを求めてきた事を説明した。

 一時フレイが「また女が出てきた」と不機嫌になったが、ピレ男爵令嬢が自分の母親の紹介で相談に来たと聞いて機嫌をすぐに直した。


「ゴブリン、魔物退治か」

 一通り説明を受けたフレイがそう呟いた。

「いやフレイそれは違う」

 その呟きを聞いたテツが王女の勘違いを正す。

「ゴブリンは魔物じゃない」

「そうなのか?」

「ゴブリンには魔石は無いからな」

 そう現代においても良く勘違いされるが、ゴブリンは魔物ではない。

 魔物とは体内に魔石を持つ動物を指す言葉であり、ゴブリンは体内に魔石を持っておらず、正しく分類するのなら陸棲の卵生哺乳類である。

 毛の無い緑色の肌、人に好感を与えない外見も相まって魔物扱いされる事が多いがゴブリンは動物であり、この時代では狼と共に人畜に被害を与える害獣の代表である。

 フレイが魔物であると勘違いしたのは無知からではなく、この時代では魔物と動物の分類は酷く曖昧で外見の良し悪しで魔物が動物扱いされていたりしている。

 逆にテツが正しく理解していたのは、平民の騎士にとっては職務として魔物や害獣を退治する事がある為であり、そういった知識を父親から教育されていたからだ。

 どちらかと言えばフレイの認識の方がこの時代では一般的だったが、テツがあえてフレイの誤解を正したのには理由があった。

「だから正直に言えばこの依頼を近衛兵団が受けるメリットは少ない」

 魔物であれば退治すればそこから魔石が手に入る。多数の竜を飼う近衛兵団としてはそれは十分なメリットたり得る。

 何せ竜とは魔石を喰う魔物である。

 魔物退治となれば魔石も手に入り近衛兵団としても十分動かすだけの理由になるのだ。

 テツとしてはフレイにそういった事を説明したつもりだった。

 つもりだったが当のフレイから返ってきたのは、お前は一体何を言っているのだ? と言いたげな視線だった。

 何か俺はマズい事を言っただろうか、自問するが答えは無い。

「テツ」

「何だ?」

 フレイの声は明らかに不機嫌だった。

 先程までの不機嫌さとは違う、冷たく真剣な怒りが含まれた不機嫌。

「お前、私に断る理由ばかり話してるだろ」

 テツはその言葉に黙る。図星だったからだ。

「お前がそういう事を言う場合はいつも同じだ」

 反らすことを許さない視線がテツの目をじっと射貫く。

 しばしの沈黙、フレイが不意にその視線を外し優美にお茶を飲む、まさに王国の姫然とした美しい所作で。

 そして片目だけで視線を送りテツに何事かを促し始める。その目は不機嫌にさせた仕返しだと言わんばかりの茶目っ気で溢れていた。

 テツはしばし悩んだ後に溜息を一つ、諦めたように吐くとこう言った。

「俺は助けたい、フレイ」

 頼む――と喉まで出かかった言葉は、結局は音にならずに霧散した。

「分かった、我らで助けよう」

 お前に頼む等言わせてやるものか、そうフレイは言葉にせず行動で示す。

「まったく、最初から正直に言えば良かろうに」

 呆れたような声に不機嫌さは無い。

「素直じゃ無い弟を持つと、姉としては大変だ」

 ヤレヤレと肩をすくめる姉気取りのフレイの顔に向けテツはお茶請けの焼き菓子を一つ指で弾いて投げてやった。

 易々(やすやす)とそれを口で受け取ったフレイがモゴモゴと何事か呟いたがテツは聞かなかった事にした。

 何が「可愛い奴」だ、カンベンしてくれ。

 テツは不機嫌そうに頬杖をついてフレイから顔を背けた。



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