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王城は大きく分けて三つに分かれる。
国政に関わる家臣達が働く場所、王とその家族が住む場所、そして社交の場だ。
テツはフレイが時折用も無く顔を出している事がある家臣達の働く場所を念のために覗きながらフレイの部屋へと向かっていく。
途中貴族に何度か捕まり婉曲な罵倒や侮辱を受けたが、全て初老の男性だったので若い男性貴族のように目に殺意がこもっていないだけマシだとテツは流す。
二人の近衛騎士に守られている扉を顔パスで抜けると、そこから先は王家の為の空間だ。
王と家族、そして彼らの世話をする侍女や侍従、そしてその侍女や侍従に使われるメイド等しかいない王家のプライベート空間。
テツが初めてここに訪れた時はその豪華さに目眩を覚えたものだが、今では真逆の印象を受ける。
豪華さで言えばここは城のどの場所よりも質素に出来ているのだ。
それでも家具一つで平民の家族が数年暮らせるような物ばかりだが、歴代の王が華美よりも落ち着くような静かな美しさをプライベートな場所に求めた結果である。
冬の兆しが足下を撫でる廊下を慣れた足で歩いて行くとフレイの部屋の扉が見えてくる。
普段ならそのまま扉をノックするテツだったが、その足は困惑気味に立ち止まらずえなかった。
扉の前に先客がいたからだ。
品の良いドレスを着るその姿は間違いなく貴族のそれで、自分と同じか近しい年齢の貴族の少女となればそれはほぼ間違いなくフレイの侍女だろう。
それだけならまたフレイが侍女を邪魔だと下がらせただけだと思い気にもしなかっただろうが、その侍女が扉の前で思い悩むような仕草をしていればテツとて困惑せざえるえない。
驚かせないようにと出来るだけ落ち着いた声を心がけてテツは声をかけた。
「どうかされましたか?」
王族や大貴族の侍女となれば侍女自体も貴族の子女である。王族の侍女ともなれば侯爵令嬢であったとしても不思議ではなく、必然として平民であるテツとしては礼儀を気を付けなければいけない。
ともすれば王に対する時よりも気を付けている程だ。
栗色の髪を品良く纏めた小柄な少女はテツの顔をみとめると不安げな顔からパッと花咲くように笑顔を浮かべた。
珍しい反応だな、とテツは思う。
一人として名前を覚えていないがフレイの侍女は二十人程いたはずで、その全てに平民と蔑まれていたと記憶していたテツとしては笑顔を向けられただけで十分に困惑できた。
もちろん表情には出さなかったが。
「これはテツ様」
続いて少女が口にした言葉にテツは面食らった。まさか自分を様付けで呼ぶような侍女がいるとは思わなかったからだ。
辛うじて保てた笑顔が引き攣っていなければ良いのだが。
テツは貴族達から陰で、貴族を内心馬鹿にしているような笑顔、と呼ばれている笑顔を心配しながら少女の言葉を否定しておく事にする。
「私に様は不要です、平民ですので」
とりあえず自分を下げる、それがテツの王宮での処世術だった。
そんなテツの言葉に対する少女の反応はまたもやテツの予想を裏切る。
「そんな!近衛兵団団長様を呼び捨てだなんて出来よう御座いません」
なんてこった、たぶん本気で言ってるぞ。
声をかけても、どうせ無視されると思っていたテツとしては、少女の反応に困惑しきりだった。
「本当に様は必要ないのですが」
困惑がそのまま口を突いて出た。
こんなに困惑したのはいつぶりだろうかとか、それもフレイに散々困惑させられたせいで変に耐性が出来てしまったせいだ等と下らない考えが頭をよぎる。
その一瞬の沈黙をどう思ったのか、少女が慌てたように言う。
「申し訳御座いません、自己紹介もせずに失礼しました」
もはや貴族の娘が自分に謝罪する事に驚く余裕もなかった。
「私、クエル・フォーセスと申します」
出てきた家名にテツは思わず声を上げそうになった。まさかの侯爵家である。
それも現役の宰相を務める名門貴族である。
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