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二話連投その1
グウェイが混乱しつつも、荒事に慣れた人間特有の直感でか、突き飛ばしたテツに文句を言うことも無く慌てて立ち上がり、テツからすれば児戯のようなファイティングポーズをとる。
少女はそんなグウェイ見て明確な嘲りを込めた微笑を浮かべるが、グウェイには伝わらなかった。
「おい坊主、てめぇサンドリバーの息子だな?」
少女の一挙手一投足を逃さぬように目を逸らせないテツにテリウスが話しかけてくる。
正直、話しかけてこないで欲しかったが頷いて視線がぶれるのも嫌だったので「はいそうです」と答えた。
「知ってる奴か?」
「まさか、こんなのだって知ってたら見かけた時点で逃げてます」
「そうか、そうだな、俺もそうするわ」
「むしろ今からでも転がってるの回収して逃げられます? たぶん彼女プロですよ」
そう問いかけたテツにテリウスが感心したように唸る。
「俺たちは邪魔かい」
「正直に言って良いなら」
テツの答えにグウェイが何か巻き舌で聞き取りづらい汚い言葉を言ったような気がしたが、それは結局テツの耳には入らなかった。
最小の動きで振り抜かれた鉄靴と倒れたモカの頭部の間に間一髪で剣を差し入れる。
治安維持の任に付く騎士が使う剣は、非殺傷用の武器として使えるように剣を鞘に入れたまま使えるようになっている。
悠長に鞘から抜いていたらモカの頭はちょっと見るに堪えない感じになっていただろうなと、柄に伝わってきた衝撃にテツは眉をひそめる。
素直に下がってくれ。
半ば祈るような気持ちで剣を押し返すように振ると思った以上に軽い重さで押し切れる。
軽やかな身のこなしで一歩後退した少女が嬉しそうな顔で自分の顔を見ていた。
こんな状況でなかったら、その顔を見るためなら自分はなんでもしたんじゃないかと一瞬考えるが、次の瞬間にはそんな事を考えた自分を呪いたくなる。
少女の右手に鞘に収められたままのレイピアが握られていた。
短剣とレイピアの二刀流。
テツは少女の構えからそれが伊達じゃないと理解する。
嫌な汗を流しながらもテツはグウェイがテリウスの命令を受けてモカを引きずって下がるのを邪魔させないよう、視線と重心移動で牽制する。
少女が更に嬉しそうな顔をするが、テツは彼女がそういう牽制が効く相手だと分かって更に嫌な汗をかく。
「俺たちは下がるが坊主はどうする?」
意識を失ったモカをグウェイと二人で両脇から抱えたテリウスが尋ねてきた。
「貴方たちが逃げたら俺も逃げます」
そう答えたテツに対して少女が初めて声を発した。
「逃がすとでも?」
思った以上に見た目相応の少女の声だった。
一瞬だけはじろみながらテツは綺麗な声だと思った自分に苦笑する。
「だ、そうです」
苦笑のままテリウスに言外に行ってくださいと伝える、テリウスが少し唸り歩き出す気配を背後に感じてテツは腹の下に力を込める。
たぶんそんなに間は空けてくれないだろう。
背後からテリウスが大声で叫んだ。
「坊主!これは借りだ!必ず返す!」
返して貰える機会はあるのだろうか?
テツは自分の喉元に突き立てられようとするレイピアの切っ先を見つめながらそんな事を考えた。
二話連投その1




