ぬいぐるみの馬からメリーゴーランドの馬へ
真夜中の時間、黒ネコのクログーの背中に乗り、遊園地まで来た茶色い馬のぬいぐるみの私はマイリーンと、黒い馬のぬいぐるみのリードルは、真っ暗の中、遊園地の中を回っていました。
明かりがないと、人間の目には真っ暗の遊園地はあまり見えないようですが、私たちの目には遊園地に明かりがついているかのように見えています。
遊園地のアトラクションにそれぞれ、看板と説明も書いてあったため、私たちはアトラクションのことがすぐに解るようになります。
「リードル、私たちがなれる遊園地のアトラクションってありそう?」
クログーがコーヒーカップの前を通ったとき、口を開いた私です。
「遊園地を回っているうちに見つかるさ。クログー、どんどん行けー」
私の後ろに乗っていたリードルも、クログーの背中をぽんぽんと叩きながらそう言います。
「あなた、偉そうね……」
リードルに呆れた表情のクログーは小さくため息をつきながら、遊園地の中を歩き回りました。
最初に通ったコーヒーカップになるにはまず、私とリードルでは難しいです。次に通ったジェットコースターになることも大きすぎて無理だと思っています。その次に通ったゴーカートや、そのまた次に通った観覧車もクログーに素通りしてもらいました。
「なかなか、私たちがなれるぴったりなアトラクションってないね、リードル」
「そうだな。諦めて帰るか?」
「ううん、帰らないわ。炉駈哉を懲らしめて、お姉ちゃんの芽衣亜に意地悪をするのをやめてもらうまでは」
と、私が言うと、リードルは目を閉じます。
「なあ、懲らしめたところで、炉駈哉は芽衣亜に意地悪するのをやめないんじゃないか?」
「そんなことないよ。ごめんなさい、もうしませんって反省するようになるって」
「甘いな、お前。ちょっと懲らしめたくらいで簡単に反省する子がいたら、どこんちの家族も苦労しねえよ」
「何よ、リードル、あなたが遊園地のアトラクションになって懲らしめてやるって言っていたくせに」
「オレは懲らしめてやろうぜって提案しただけだ。懲らしめてやるとは言ってないね」
「もう、お兄さんはこれなんだから……」
「………」
リードルは今の私の言葉を聞いて一瞬、不機嫌そうになりますが、高い声で笑います。
「みゃ、びっくり。どうしたの、リードル」
急に笑い声が聞こえ、びくっとなり、立ち止まったクログーです。
「はっはっはっ、クログー、もうちょっとあっちに行ってみようぜ。オレたちが絶対になれるアトラクションがあるからさ」
「何だ、リードル、知っていたんじゃない」
と、私が彼の方を振り返って言うと、
「今、思い出したんだ」
リードルはそっぽを向きました。
その後、クログーの背中に乗った私たちは、メリーゴーランドの前に到着しました。メリーゴーランドは私たちと同じ馬たちがたくさんいたため、これなら私たちはなれるかもしれないと希望を持ちます。
しかし、私とリードルはぬいぐるみの馬、メリーゴーランドはアトラクションの馬でサイズの大きさもあまりにもちがっていました。どうしたら、私たちがメリーゴーランドの馬になれるか、思い悩んでいたそのときのことです。
トンガリ帽子をかぶった三毛ネコが、メリーゴーランドの屋根の上から現れました。三毛ネコはメリーゴーランドの近くにあった木の枝へ飛び移り、空中二回転ジャンプして私たちのところに来ました。
「あんた、誰?」
リードルがぽかんとした表情で三毛ネコに何者か尋ねました。すると、三毛ネコは毛繕いを始めてしまったため、しばらく何も答えません。
「ちょっと、あんた、無視は良くないよ」
と、クログーが怒ってくれましたが、三毛ネコはまだ毛繕いをやめません。
「あの、三毛ネコさん」
私が声を掛けると、ようやく三毛ネコは毛繕いをやめ、
「何?」
と、私の方を見ます。その顔が可愛く、私はときめいてしまいました。
「ちょっと、マイリーン、私の方が可愛いんだからね」
しっぽが太くなったクログーです。
「自分の方が可愛いって、何言っているんだかな」
リードルが苦笑していると、
「だって、マイリーンがあの子を見て真っ赤になってるから」
クログーは怒った表情のままそう言います。
「妬くなよ、三毛ネコ相手に」
「リードルに言われると腹が立つー」
「わ、待った、待った、クログー、揺らさないでー、落ちるー」
「わ、わ、わ、わ、わ、わ!」
クログーが首を思い切り横に振っていたため、私たちは地面に落ちないようにクログーの背中の毛につかまっていました。
「あ、ごめんなさい。あなたたちを背中に乗せていたのを忘れてた」
「そこの茶色い馬のぬいぐるみさん、わたくしに用があったんじゃなかった?」
三毛ネコに声を掛けられたマイリーンは、相談をすることにします。
「三毛ネコさん、私たち、メリーゴーランドの馬になりたいのですが、どうしたらなれますか?」
「うん、わたくしの名前はミッケ。普通の方法でメリーゴーランドの馬になるのは無理ね。でも、わたくしのしっぽを使った魔法だったら、出来るかもしれない」
「私はマイリーンです。お願いします、どうしてもメリーゴーランドの馬になりたいんです」
「わかったわ。メリーゴーランドの馬の上に乗ってみて」
ミッケに指示され、マイリーンがクログーに頼み、メリーゴーランドの馬の上に乗せてもらうと、
「オレも頼んだよ」
リードルもマイリーンの横に並ぶかたちでクログーに乗せてもらいました。
「ニャン!」
と、ミッケが唱えると、不思議なことが起こります。メリーゴーランドが自動的に回ったのです。そして、メリーゴーランドは光り出したかと思うと、すぐに収まります。
「あれ、マイリーンとリードルは?」
「クログー」
「こっちにいるぞ」
きょろきょろしていたクログーを私たちが呼ぶと、クログーは目を丸くしました。
「みゃ、マイリーンとリードルが大きくなっているわ。メリーゴーランドの馬になってる」
「ほ、本当にメリーゴーランドの馬になれたの、私たち」
「にゃ、鏡を出してあげる」
ミッケが魔法で出した鏡を私たちが見ると、私は大きな茶色い馬、リードルも大きな黒い馬のメリーゴーランドになっていたのでした。
「やったよ、お兄さん、メリーゴーランドの馬になれたよ」
「ああ、そうだな」
私の言葉にまたなぜか一瞬、不機嫌そうになったリードルは目を閉じ、そのあとは企み笑いをしていました。
「じゃ、わたくしはこれで」
「ミッケさん、ありがとう」
私はミッケが帰るとき、よくお礼を言います。
「あとは、芽衣亜と炉駈哉の姉弟がここに来るのを待つだけね」
と、クログーが言ってから夜が明け、朝になったのでした。