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第1話 学園

 ──【ルース王国】にある魔法学園の1つ、【バルファラ学園】は世界的に有名である。


 学園内の施設は充実。全寮制で寮というよりはご立派な宿泊施設が建ち並ぶ最早街とも呼べる空間が広がるその学園に、俺は学生として過ごしていた。


 先月に入学したばかりの新入生だが、漸く学園生活に慣れてきた頃である。


 ……とはいったものの、俺自身は現在進行形で受けている授業という名の悪魔には一向に慣れないままだ。


 幾度となく睡魔が襲っては必死に耐え忍んでいた。いやもう、ひたすら眠い。瞼がどうやっても重く感じるし気付けば閉じる。


 早く終わんねぇかなぁ……。面白くないし。


 心の中で本音を漏らし、態度が悪いことを自覚しつつ頬杖をついて窓へと視線を移す。


 何棟かの園舎を超えた先に聳える立派な時計台。その指針は俺の願いを叶えるまでにきていた。


 お、と思ったのも束の間、嬉しい音が鼓膜を震わせる。授業の終了を報せる、時計台に設置された鐘の鳴る音だった。


「もう終わりですか。もう少しルース王国の素晴らしい歴史について語りたかったのですが……。仕方ありません。ここまでにしましょう。この後は担任の先生から連絡事項がありますので、このまま教室で待機してください」


 教壇の上でひたすらに口を動かしていた女史は物足りなさげに表情を曇らせたが、そのまま指示だけ残して教室を去っていく。


 扉が閉まると同時に、気が抜けた空気が広がる。窮屈から解放された生徒達がざわざわと騒ぎ始めた。俺もその1人だ。


「あー、やぁぁっと今日の授業が終わったぁぁ……!」


 1日中座学はキツイ。背凭れに体重を預け、得も言われぬ喜びが予想外に大きな声となってしまった。


 あ、ヤベ。と瞬時に悟る。


「五月蝿い」


 背後から怒気を含んだ少年の声と何かが風を切る音が聞こえたと思えば、教科書、或いはノートの角で殴られたような攻撃が見事に後頭部へ直撃した。


「〜〜〜〜っ!」


 痛む部分を片手で押さえ、少しの間歯を食いしばり悶える。くっそ、地味に痛い……!


 流石にこれは一言文句を言いたい。頭を擦りながら身体ごと振り向く。


 視界の先には眉を顰め、不機嫌な表情を隠すことなく露わにした少年が教科書で肩を叩いていた。


 名前は、《エルヴィス・ハクヤ》。


「ルヴィ!今のは痛い!角でやっただろその教科書で!」


「拳で殴ったら俺も痛いし。でも教科書の平面で叩いたところで威力は無い。という訳で角にした」


 目も合わさず、淡々と述べながら手持ちの教科書と机上に置いていたノートを横に掛けている鞄へと仕舞っていくルヴィ。


 反省の色は毛ほども見えなかった。やっぱり俺の意見は受け入れてくれないよな……。


 ルヴィだけに限らず、俺の扱いは基本的に行動を共にする面々でも大体同じだった。特に最近は理不尽な暴力だって当たり前になってきている。


 彼の返事を聞いて直ぐに俺が言葉を発しなかった所為で数秒、会話に間が開く。


 気まずい沈黙でも無いし相手はよく喋る性格でもないのでおかしくはないが、逆に俺がよく喋るので不自然に思ったのか無言で顔を上げた。


「どうした?ハル」


「別に、なーんでも。つーかまだ痛いんだけど。角の威力ってすげーな」


「どうでもいい」


「ひどっ!」


 分かりやすく傷ついた表情を浮かべた後、笑う。これが俺、《ハル・ガルナー》だ。


 ふ、と俺達の側に1つの気配が近づいてくる。2人揃って視線を上げると、長い銀髪の髪を揺らした少女が頭を摩る俺を見てきょとんと琥珀色の瞳を丸くしていた。


「ハル、頭が痛いの?」


「コイツに殴られたの!」


「殴らせた原因はお前だろ」


「そうなのエル?じゃあハルが悪いじゃない」


「あー……もーいいよそれで……!」


 ガクリと肩を落とす。はいはい、どうせ俺に味方はいません。その間に彼女、《ユウナ・セオッティ》はルヴィに楽しげな声色で色々話題を振っていた。


 ユウナは学園でも有力の美少女で、既に幾人もの男子に告白されているらしい。そしてその全てを丁重に断っているとも。


 彼女の想いは既に、ルヴィへと向かっているからだ。


 指通りの良さそうなさらさらの黒髪に、深紅の瞳。基本的に仏頂面のクールな美少年でありながら、時折見せる微笑みを間近で見てユウナは恋に落ちたとか。


 とはいえ、なぁ……。


 背凭れに腕を置き、顎を乗せて2人の会話を眺める。ルヴィが話を聞いて優しげに笑った時、ユウナの頬が赤く染まる。


 うっわ、顔面凶器と俺が思った時。


「どうしたユウナ、顔が赤いが……体調が悪いのか?」


「な、何でもないわ!」


「……無理するなよ」


 はいきたー、″鈍感″。他のことには敏感なクセに、恋愛ごとには超が付く程鈍感な眼前の少年に対して思わず冷めた視線を送る。


「どんまい、ユウナ!」


 俺は唇を尖らせた彼女に満面の笑みを見せ、明るく励ましてみた。俺で機嫌が直ることはまず無いんだけれども。


 案の定、こちらへ勢いよく顔を向けギロリと鋭い目付きで睨まれた。


 小刻みに震える拳が視界に映る。


「余計なお世話!」


 怒りの、俺にとっては理不尽極まりない鉄拳が、顔面へと放たれた。


 濁った悲鳴を上げ、あまりの威力に後ろへと吹き飛ぶが窓に激突し、床へと伏せる。


 身体のあちこちが尋常ではない程痛み、起こそうとしたら激痛が走った。嫌なぶつけ方したもんな、受け身とってないし。


 意識も朦朧とし始める。ルヴィとユウナの声が聞こえた。


「ピクピクしてる……そんなに?」


「気持ち悪いなアイツ」


 こんにゃろ、好き勝手言いやがって……!


 とはいえ、本気でこのままだと気絶する。これが放課後だったら良かったんだけど……。


「おらおらー。さっさと席に着けー。じゃねぇとお前ら全員塵にすっぞー」


 げ、もう来た!


 教室の扉が開く音と同時に、怠そうな担任の声が放たれた瞬間に脳内の警鐘が鳴り始めた。


 俺だけでなく、クラスメイト達を教師とは思えない発言で震え上がらせる。


 無駄に元気の良い返事を斉唱した彼等は慌ただしく己の席へと戻っていく。


「やばい、私も戻るわ!」


 ユウナも同じく慌てた様子でルヴィから離れるが、問題が。


「ぐっ!?」


 な、何でだ?わざわざ俺を踏みつけていく必要無いだろ、無理矢理にでも席に戻ろうとしたのに……!


「全員座ったかー?……ハクヤ、前の席にいる筈のガルナーは何処だ?」


 最悪だ。俺がいないことに気付かれた。死刑執行を待つのみだ……質問されたルヴィが上手く誤魔化してくれれば別として。


「床で寝てますよ」


 無理だった、予想してた。寝たくて寝てる訳じゃねぇよ。


 へぇ、と担任の声がする。見えないのに顔が引き攣ったのが想像できた。


 さーて……死ななきゃいいが。


「<<グルーヴ>>」


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 魔法名が唱えられたのを切り目に、俺の身体に電撃が走った。まるで断末魔のような悲鳴を上げる。


 気絶したくてもできず、どこか冷静な思考回路で鬼畜すぎると絶叫しながら胸中で罵った。


 電撃が止み、数秒すら持たずに意識が途切れる。


「あ、気絶したか……面倒だし放置決定だな」


 最後に、我らが鬼畜担任の零した独り言が微かに、だが確かに聞こえた。





























 そして俺が目を覚ましたのは、誰もいない夕暮れに染まった閑静な教室だった。


 身体を少し動かしただけで激痛に襲われ、ハァと息を吐き出す。


 倒れ伏せた姿勢のまま、周りの気配を探る。教室を始め付近の廊下、両隣の教室に人はいない。


 ……<<ヒーリング>>。


「よっと」


 無詠唱で回復魔法を自身に施し、すっかり元通りの元気な身体を取り戻す。軽い掛け声と共に立ち上がる。……よし、制服も大丈夫。


 壁にある時計を見やると、気絶してから50分程が経過していた。割と長く意識無かったんだな、俺。


 そして、誰も起こしてくれなかったと。


「……帰ろ」


 溜め息をつき、鞄を手に取り教室の扉へと向かう。


 ──その時、裏用の携帯電話が鞄の中で振動していることを感じ取った。


 時が停止したかのように、俺の足はピタリと歩みを止める。纏う雰囲気が一瞬で変化したことを自身で感じ取りながら、倦怠感を振り切って携帯を取り出し、通話ボタンを押して耳に当てた。


「もしもし」


『よーす。3日ぶりだな、ハル!』


 間髪入れず響く元気な若い男の声に、無性に通話を切ってやりたい衝動に駆られた。


「前置きはいいから。依頼だろ?詳細は」


『せっかちだなおい!まぁいいや。聞いて驚けよー?依頼主は陛下からだぞ』


「陛下?ガンラか……。アイツの依頼面倒なの多いんだよなぁ」


『ハハッ、陛下を呼び捨てかつアイツ呼ばわりできるのはお前くらいだよ。……で、依頼内容はな、とある盗賊団の壊滅及びリーダーの抹殺だ』


 とある、盗賊団。心当たりがあった。王都から離れた所にある村の幾つかがソイツ等の所為で滅ぼされたんだっけか。村の金品を奪い尽くし、村人は全員残らず殺されて。


 捜索からじゃないってことは……アジトが掴めたってことだな。


 詳細を聞き、通話を終える。


 今日は疲れたしもう風呂入って寝ようと思った所に……仕方ない、さっさと終わらせよう。


 【ゼロ】の恐ろしさを感じる隙も無い位に。

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