表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

プロローグ 彼

 普段は人気の無い路地裏に、今夜は2つの影が闇の中を動いていた。


「死にたくない……!」


 声。震えた、恐怖に満ちた声。


「あーあ、いつまで逃げるんだか」


 声。呆れた、溜息混じりの声。


 足を覚束せながらも、狭く乱雑した道をひたすらに進む壮年の男。街灯も無く建物の間から差し込む月明かりに照らされた身体は、幾多もの裂傷により多くの血を流していた。


 特に傷の深い脇腹を抑え、彼は大粒の涙を流しながら足を動かしていく。最早走ることも叶わず、一歩ずつ踏み出していくだけ。


「死にたくない……死にたく、ない!私は生きる……んだ……死にたく、ない……っ!」


 時折血を吐きながらも漏らす言葉は、死の拒絶と生の渇望が如実に込められていた。


 追いかけている奴に最愛の家族がいることも知っているし、妻のお腹には子供が宿っていることも知っている。そりゃあ死にたくないだろうな、保身に加えて守るべき存在があるのだから。


 だが、それだけだ。


「あぁ……っ!?」


 前方で男が足を絡めて倒れる。起き上がろうともがいているが、限界が近いようで中々身体が持ち上がる様子は無い。


 <<転移>>を使い、背後から面前へと移動する。


 顔を上げた男の視線と俺の視線が繋がるとほぼ同時、足に縋り付いて懇願を始めた。


「お、お願いだ……助けてくれ……!」


 その様子を、目を細めて黙って見つめる。今回の依頼主の一言が脳裏を掠める。


 報いを受けろ、と。


「……そう言って泣いた1人の子供、殺したんだろ?窃盗を見られた口封じという理由で」


 瞠目し、衝撃を受けたように男の動きが止まる。思わず笑みを浮かべた俺は目線を合わせるように屈み、告げる。


「子供を奪ったお前を赦さない、だとよ。依頼主様は。お前にも窃盗する程の事情があったかもしれないし、それは同情するに値したかもしれないが……まぁ、運が無かったということで」






























 路地裏に1人佇む俺は、空を見上げる。


 仄かに明るくなった色を捉え、太陽が昇り始めていることを悟った。


「おはよう、太陽さん。今日もまたよろしくな」


 ……あー、そういえば課題放置したままだ。当てられる日だったか忘れたなぁ。


 寮の机に投げた何枚かの紙を思い出して顔を顰める。仕方ない、ルヴィに写させてもらうとするか。


 腕をぐぐっと上へ伸ばして身体を軽く解し、学園内にある寮へと<<転移>>した。


 ──暫くして、街は陽の光に照らされる。


 真っ赤に染まりきった路地裏が発見されるまで、後数分。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ