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好きなわけじゃないけどカレシ作らないでください

寝る前の電話でつい「手ぇばっか見てた。タケちゃんの手、セクシー?」なんて柄にもない失言を披露してしまった。もちろん相手はねぎま。


『違う。指見てたの』

「一緒じゃん」

『バイオリンやってたのかなって』

「は? バイオリンやってたのはミナトだって」

『西武君もかも。ひょっとしたら、長いことやってたのかも。弦を抑える指の皮、硬そうだった。でも、触ってないから分かんない。それに、やってないと戻るって聞いたし』

「好奇心出さないでクダサイ。触らないで」


焦る。好奇心でもなんでも、他の男に触るなんて、ぜってーダメ。


『うん。私が触りたいのは、宗哲クンだけだよ』



あれ? なんか、生暖かい。


ぽとっ


鼻血じゃん。

オレ、別に、やらしーこと考えたわけじゃねーのに。


「お、おう」

「宗哲クン、どうかしたの?」

「なんでもない」


電話だったからセーフ。

ダサっ。




金曜日、今日もタケちゃんはいいヤツで、他のクラスのサッカー部のヤツに体操着を貸して、めっちゃ汗臭くなったのに着てた。


ももしおは、相当タケちゃんを気に入ったらしい。

遠くから「あ」って顔してタケちゃんを見つけたかと思うと、とてててててと走って来て、天然パーマのくしゃくしゃの髪の中にポストイットを入れたりする。見つけたときの様子は、うさぎ耳がぴょこんと立ち上がった幻覚まで見えてしまう。


「百田ぁ、ポストイット、デカいヤツにして。線みたいなのだと取れないって」

「あははは。ここ、ここ。ぷるぷるしたら取れるって」


タケちゃんが眼鏡を抑えたまま、ぷるぷると頭を振る。


「取れた?」

「まだ」

「取れよ」

「じゃねー」

「おい、百田っ」


じゃれているようにしか見えない。


タケちゃんと同じクラスのオレ達はその様子を見守る。小田、相模ン、陸上部のヤツ、オレ。

ちらっと相模を見ても、さして残念な様子は見受けられない。

納得してんだろうか?

タケちゃんは地味とはいえ、サッカー部。サッカー部、バスケ部の男子にはかなわないという目に見えないセオリーがある。

相模ンだって、チャラい書道部の東横は納得できなかったけどさ、サッカー部のタケちゃんだったら認めざるを得ないって感じなんだろな。


「相模ン、アレ、どーなった? マイクロドローンのときの」


他にも友達がいるから、ももしおが株をやってる話に触れないように聞いてみた。


「ん? ああ。上手くいった」

「さっすが相模ン」


ももしおとタケちゃんを静観してるけどさ、傷ついてねーよな?

もともと、観賞用って程度なんだから。


小田達は後夜祭で飛ばすドローンの話だと思ったらしい。


「ドローンでどんなショーすんの? オリンピク的なやつ?」

「そんな派手なの予算的にムリだって」

「予算的ってとこがプライド高いよなー、相模ン。技術的にとは言わないんだもんなー」

「技術的ならできるんじゃね?」

「プライド高っ」

「この間部室行ったとき、マイクロドローンはできたじゃん。結構いっぱいあったよな」

「今、新しいのまた作ってる。GPS付きに改良しようと思って。重量的にデカいの使って」

「相模ンすげー」



一方、東横は確実にももしおに近づいているらしい。インスタには「可憐」「残像」「逢」なんてアップされていた。チェックしていたのは、相模ン。


「宗哲、頼んだのに。『逢』ってどーゆーことだよ。もう会ったのかよ?」

「知らねーって」

「宗哲、使えねー」


どーしてオレがこんなこと言われるわけ?


「じゃ、相模ン、自分で行けよー」

「ムリ。つき合いたいとかじゃねーもん。好きなわけじゃないのに『カレシ作らないでください』とか変じゃん」

「まー、そーかも」

「告るとかつき合いたいって『好き』じゃねーんだよ」


なんとなく分かるような気がする。憧れのアイドルみたいなもん。


「どーしよーもねーよな」

「くっそう。オレの学校生活での生き甲斐が潰えてしまうぅぅぅ」


大袈裟な。

どうなったのか、ねぎまに聞いてみようと思った。ら、部活後、階段の踊り場でももしおにばったり。オレは課題のプリントを教室に忘れていたから取りに行くところだった。ももしおはチアの練習後だったらしく、かわいいミニスカート姿だった。


「そーいえばさ、東横とどーなった?」

「うふふふふふふふふ。ねーねーねー、聞いて。ついに今日、東横君ちに行くの」


嬉しそうにももしおは、持っていた黄色のポンポンをくるくる回した後、片手を上に片足で立ってポーズ。早っ。1週間経ってない。


「あっそ。気をつけろよ」


って変だよな。一人暮らしの男の部屋に行くってことは、覚悟できてるってことじゃん? しかも週末の夕方から夜にかけて。すでに今の時刻は午後6時過ぎ。

そうか。今のももしおが、オレの見る最後の処女のももしおなんだな。


「気をつける?」

「いや、その、いろいろ」

「やっと試せるの」

「は? 試す」

「帰りたくなくなるってシチュエーション。じゃね。ばっいばーい」


感慨深いオレとは裏腹に、ももしおは思い切り黄色いボンボンを持った手をぶんぶん振った。


「待て待て待て! シチュエーションのためだけだったら、リスクでかくね? 帰りたくなったらどーすんだよ」

「え? リスク?」

「まさかと思うけど、帰りたくなくなってナニするか分かってないはずないよな?」

「好きだったら大切にしてくれるんでしょ?」


「BAKA? 好きだったら、むちゃくちゃにしたいに決まってっじゃん」


あー。⤵⤵ 墓穴掘った。オレ、下半身男決定だよな。

目の前のももしおは、直立不動。

もう、そのまま放っておいた。

ももしお、危機管理能力なさ過ぎって、ちょっとは自覚しろよ。

ねぎまもねぎまだよ。こんな危なっかしいやつ、野放しにするなよ。



『ももしおが今夜、東横の部屋に行くって喜んでた』


ねぎまにメッセージを送ってみた。


マイ『聞いてない。大変』




ちょうどチアの練習が終わったところだったから、ねぎまと一緒に帰ることになった。


「あのね、泊まるかもしれないんだったら、私に連絡くれると思うの。アリバイ作りのために。そうじゃなくても、私には相談してくれると思ったのに。もう。酷いよシオリン。どーして宗哲クンに喋って、私には何にも言ってくれないわけ?」

「今、それよりも、ももしおに連絡」

「ぜんぜん。既読にならないし、電話も出ない」


「さっき校舎で会ったから、まだ学校かも」

「いなかった。靴箱に入ってたの、上履きだった」

「遅かったか」


「せめて東横君がどこに住んでるか分かれば」

「誰か知ってるんじゃね? 元カノいっぱいいるじゃん」

「私が聞くのって、変じゃない? 宗哲クンってカレシがいるのに」


おおー。カレシ。なんていい響き。


「オレが聞いてみる」


クラスのLINEで質問『東横ってどこに住んでる?』


『それって個人情報じゃん』


あっさり却下された。


『悪い、なかったことに』


すぐ取り消す気弱なオレ。が、ぶぶーとグループラインじゃない方に連絡があった。


『反町。オレと一緒。東横はすっげーいいマンションだけどwww』


おっとー、感謝。個チャで送ってくれたのは西武だった。


「宗哲クン、反町」

「ちょっと、反町のどこか分かんねーよ」

「聞いてよ。教えてくれた子に」

「教えてくれたの、タケちゃん」

「だったら、事情話してもいいと思う。だって、どう見たって、西武君はシオリンのこと好きだもん」


は?


「タケちゃんがももしおを?」

「西武君、シオリン見つけるとすっごく嬉しそう」


オレには逆に見えた。


「そーなの?」

「すれ違うときにノートで頭叩いていくし、チアの姿見て赤くなってたし。それにね、その時、シオリンが後ろ向いてるすきに、そっと気づかれないようにポニーテール触ってた」

「うっわー」


恥ずい。それ見られてたって知ったら、タケちゃん真っ赤んなりそう。


「部屋入る前にシオリンを捕まえたいよね。早く。宗哲クン」


ねぎまがオレの手をひぱって反町行きの電車の方へずんずん歩く。オレは手を引っ張られながら、タケちゃんに電話。タケちゃんはすぐに出た。


「オレ、宗哲だけど。東横のマンション、どこか分かる? できれば部屋まで」

『遊びに行ったことあるから知ってる。けど、なんで?』

「ももしおが危ない」

『は? 危ないって?』

「東横の部屋に行こうとしてる」


『それは、百田がそうしたいなら、どうしようもねーじゃん』


ごもっとも。


「だな」


スマホの会話はねぎまにも聞こえていたらしい。


「ちょっと宗哲クン、貸して」

「ん? うわっ」


ねぎまはオレのスマホをガッと奪い取った。


「友達が後悔するかもしれないのに、黙ってるなんてできるわけないでしょっ。もう少しマシな男だと思ってた。西武君こそ、後悔するかもね」


ぷっ


ふんっと鼻息荒く、ねぎまは通話を終了させた。オレ、今後ねぎまを怒らせるのはやめとこ。

「あー腹立つ」と眉間に皺を寄せるねぎまの横でびくびくするオレ。


反町まで行ったところで、東横のマンションを探すのは難しそう。

手詰まりじゃん? でも、ねぎまが怖くて帰ろうと言えなかった。オレって情けな。


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