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恋愛テクニック

「シオリン、こんなこと聞いてどうしたの? マイマイにカレシができたから、カマって貰えなくて寂しいの?」


ぎくっ。そーなのか? 悪かった、ねぎまの心をオレでいっぱいにして。


「ううん。カレシくらいでマイマイが私のことほっとくわけないじゃん」


……カレシくらい。


「そーだよね。面倒見いいもんね、マイマイ」

「東横君なら、3回目が合ったら妊娠できるから、大丈夫だよー」


東横の元カノは爽やかに手をひらひらさせて立ち去った。

女子の会話、怖っ。

そして、恐るべし、東横。



東横のインスタを見てみた。最新のアップは、カフェでの朝食、クロワッサン。

なんつーの、コイツ、女子っぽい。

そのうち、ネイルとかアップされるんじゃね?

オレの朝飯なんて、家でババア(母)が作ったもの。でもって、東横がオシャレな朝飯食ってるとき、テニス部の朝練中。


オレの周りって、ヲタクはいるけど、サブカル系いねーかも。

ヲタクもサブカルかもしんねーけど、ちょっと違うと思う。




部活後、友達とのつき合いは半分に減った。これもカノジョもちのなせる業。

今日もねぎまと並んで下校。坂道を下る。

狭い歩道で肩を寄せ合って指を絡める。至福。


だったはず。

今でも手を繋ぐってことでカノジョの一部に触れられるのは嬉しい。

だけどさ、まだ暑いんだよ。汗かくわけ。でもって、繋ぎっぱなしはメンドクサイ。


手を繋ぐってさ、恋愛のステップアップポイントだよな。あれもこれも経験した後に、わざわざ「手を繋ぐ」って必要ない。世の中のベテランカップルが手を繋がないことに納得。

オレの場合、触れる程度のキスはしたけどさ、まだまだ恋愛のステップはぜんぜん。なのにこのメンドクサさ。めちゃくちゃ初心忘れてるよな。


でもまあ、女の子はこーゆーのが大事だって親友の小田が言うからさ、手を繋ぐ。


「これからは体育祭の準備で、一緒に帰れなくなっちゃうね」

「チアリーダー、頑張れよ」


ももしお×ねぎまは(きた)る体育祭でチアリーダーをすることになっている。


チアリーダーは、応援団によるスカウト制。ももしお×ねぎまは、1年4月の入学式翌日、すでにチアに入ることが決まっていた。


我が校の体育祭は伝統的に、応援団を野球部&サッカー部が占める。

他の部には女子部がある。だから恵まれない野球部とサッカー部に、せめて体育祭くらい女の子との触れ合うチャンスをあげようという理由らしい。嘘つけ。単に、昔っからはば利かせてたんだろーが。

大量の女子マネージャ抱えてるくせに。サッカー部なんて合コン三昧。


世知辛い。


「宗哲クン達は何か係りある?」

「男テニは道具係」


バスケット部は男女で得点係。男子硬式テニス部と陸上部男子は道具係。陸上部は分かる。道具を保管している倉庫を管理しているから。でもさ、オレら男テニは明らかにパシリ。

高校でのヒエラルキーを感じずにはいられない。

ちなみに、女子硬式テニス部は半分がチアリーダー。可愛くて脚の綺麗な子が多いから。更に、サッカー部のカノジョがちらほら。


「忙しいのは当日だけだね」

「まぁな。それはいーんだけど」

「けど? 一緒に帰れないのが寂しい?」

「ってか、気をつけろよ。特にサッカー部。あ、やっぱ野球部も」


サッカー部はチャラい。イケイケ。そして、ミナトから元カノを奪ったのは野球部。


「心配?」

「心配」

「うふっ。宗哲クンに心配されると嬉し」


きゅん


思わず繋いでる手にぎゅっと力を込める。やっぱ、手ぇ繋ぐっていーかも。


「あ、そーいえばさ、ももしおってどーなった?」

「ああ、アレ?」

「そーそー」


アレで通じてしまうくらい、2人の間で旬な話題。


「シオリンね、2日に1回は学食で食べることにしたんだって」

「それって、東横が学食だから?」

「そーなの。でもね、シオリン、学食だとカレーの大盛くらいじゃないと足りないのね。だから、3時間目と4時間目の間に早弁してからお昼に学食行ってるの。でちょっとだけ食べるの」


ももしおは、細いくせに大食い。


「早弁までして。女子で早弁って見たことねーし」

「みんなで隠してる」

「女子って友達思いだよな」

「シオリンが恥ずかしがるってこともあるけど、イメージが壊れちゃったら男の子達がかわいそうだから」

「そんな理由かよ」

「シオリンをそっと見てるだけの男の子たちって、なんかピュアな感じで」

「そーかも」


進学校ってのもあるけど、ヲタク率高め。半分は、女の子を観賞用にとどめている純情派。ま、そいつらの脳内まで純情とは思ってねーけど。すっげーエロゲーしてそうだしな。


「この間ね『ファーストキスは結婚式』って言ってる子いたの」

「天然記念物もんだな。明治生まれの人間って感じ」

「ね、笑っちゃうでしょ。そんな風だったら、結婚まで辿り着けないよねー」


うっわー。自分のカノジョなんだけどさ、ここまで正直ってどーなの?


「見合いだったらアリなんじゃね?」

「そっか」


そんな会話をしたもんだから、ちょっと学食に行ってみようなんて思ったのかも。

次の日に学食へ行ってみた。探すまでもない。ももしお×ねぎまは目立つ。ヤローの視線の先には2人がいる。でもって、華やかで目を引く7、8人の女の子で群れている。


ももしおのオープンな性格からして、友達集団には東横宣言をしているだろう。


たまたま、通路を挟んで隣のテーブルに東横が座った。東横は友達と2人、オレは4人でいた。

テーブルは8人掛け。だいたい友達同士で近くに座るが、相席は不自然じゃない。むしろ、開いていた席に自然に座るシステム。


東横とそのツレは蕎麦。なんつーの、女には肉食でも、食生活はがっつりじゃねーのな。

蕎麦って、オレの場合は間食のポジション。

ちなみにオレはカレー大盛。



ももしお×ねぎま軍団が肘をつつき合いながらやってきた。

ねぎまはこてっと首を傾けて、オレににっこり微笑む。オレも手を軽く挙げて返す。


「あーあーあーあー。宗哲、いいなー」

「あんなキレーな子」

「うるせーよ。お前らだってカノジョいるじゃん」

「オレ、いねー」


おっと。一人、いないんだった。ヲタク度がちょい入ったヤツ。相模ン。


「大丈夫。そのうち宗哲が飽きられて捨てられて、仲間増えるって」

「自分はどーなんだよ」


などとアホな会話をしていると、隣のテーブル、東横の真ん前にねぎまが座った。通路を挟んで、斜め前の席。

ねぎまの向こうにももしお。ももしおはちらちらと東横を気にしている。ついでにももしおの向こうや、東横と反対側の斜め前には、ももしお×ねぎまの友達。


「あ、東横君だ。インスタ見てるよ」


あっさりとねぎまが話しかけた。しかも親し気。聞き耳を立てるオレ。


「あ、どーも。最近、学食?」


ねぎまは「喋れ」とばかりにテーブル下でももしおの膝をぽんぽんと叩いている。


「そーなの。あ、インスタの字『求』だったね」

「はは。百田さんもインスタ見てくれてるんだ? ま、もうネタ切れ」

「うん。見てる。『濃密』とか『白夜』とか『時雨』とか、歌詞みたいだなーって思っちゃった」

「恥ずいから。言われると」

「ごめんなさい」


ミナトやオレに「ごめんなさい」なんて言うときは、ペロッと舌を出すくせに、今のももしおは、極上笑顔の「ごめんなさい」。女って怖っ。

おー、ももしお、結構頑張って喋ってるじゃん。


「なんとなく。ふと目に入ったものをイメージして字にするから」


へー。「濃密」って、いったいどんなもの目にしたんだよ。


「じゃ、例えば今だったら、どんな文字?」


ねぎまが聞いた。東横は、ももしおの目に視線を合わせて一言。


「『可憐』かな」


はー。東横がモテるわけじゃん。これ、絶対アピってるよな。


「え」


ももしおが可愛く東横を見つめ返す。

でもオレは見逃さなかった。ももしおがテーブルの下で親指を立てながらガッツポーズしたことを。


「気のせいかな。最近目、合うよね?」

「え、あ」


東横に言われ、恥ずかしそうにももしおが俯く。本当のところは「狙ってたのバレてたか」って感じなんだろうけど。


「じゃ、またね」


隣のツレが食べ終わったタイミングはベスト。東横はツレと一緒に立ち去った。

ももしおはめちゃ嬉しそう。

すかさず東横とそのツレがいなくなって空いた席に、ももしお×ねぎまの友達が移って来た。

なんだかきゃあきゃあ盛り上がってっし。


オレと一緒に学食にいた小田もその他の友達も、しっかりと東横とももしおの会話を聞いていた。


「あーあ。モテる男ってちげーのなー」

「んだんだ」

「真似できん」

「せんでいい」


地味なオレ達はそっと席を立った。


「宗哲クン」

「あ、なに?」

「カレー付いてる」


すっと、ねぎまが近づいてきて、オレの口の横をハンカチで拭いた。

学食のほぼ中央。恥ずい。恥ずい。恥ずいって!


「さんきゅ」


言った後、オレは即行逃げた。


「宗哲ぅ、愛されちゃってんじゃね?」

「あ~あ、勝手にやってくれよ」

「わざと? わざとか?」


たぶん、わざと。

最近確信していること。ねぎまはかなり独占欲が強いってこと。今日みたいにみんなに知らしめるようなことを時々する。

思い返せば、それは出会って間もないころからだった。テニスコートまで走って来たこともある。決して女子が寄り付かなかった男子部室棟へもオレを迎えに来た。

恥ずかしいけどさ、鼻の下、伸びる。


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