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ハゲるかも

なんだか和やかに世間話に花が咲いていた。相模ン以外。相模ンはまだ自分の世界に入り込んだまま。


「そーいえばさ、タケちゃん、親父さんから意見聞かれたとか言ってたじゃん?」

「あー、そーそー」

「どんなゲームが流行ってるのかとかさ、ネット通販はどこが人気かとか。基本、金儲けに繋がる意見。

 あ、でも違うこと聞かれたことある。なんか、世代や職業ごとに分類されてて、それぞれのカテゴリーの人は、どんな有名人の意見に左右されるのかとかさ。ファイル送ってきたんだよ。でもって、どう思うかって」


「へー。そのファイル、ある?」


みんなでソファやらラグの上にでれっと寛いでいたのに、ねぎまは突然、ずいっとタケちゃんの真ん前に身を乗り出した。こら、近すぎっ。脇を閉めるな、胸が寄る!


「どーした?」


オレが聞くと、お決まりのセリフ。


「純粋な好奇心」

 

至近距離にきたねぎまの胸に驚いたタケちゃんは、のけ反った。


「あ、えーっと、確かまだあったと思う。ちょっと待って」


タケちゃんはスマホを操作し、みんなに2つのファイルを転送してくれた。

1つはエクセルデータで、西武が言っていた通り、年代別、男女別、職業別に影響力がある有名人がランキング形式で10位まで記載されていた。

もう1つもエクセルデータ。過去5年間の「理想の上司」「理想の夫、妻、息子、娘、父、母」「理想の夫婦」「理想のシニア」など、好感度の高い有名人が列挙されているものだった。


頷ける人ばかり。

例えば、シニア層ではNHK番組で登場する人の良さそうな芸人がトップ。中年のおっさん会社員には社会派高視聴率ドラマで人気があった俳優。20代の女性にはに若手ニュースキャスターがランクイン。


「ふーん。これって、3年前?」

「だったと思う。どんな企業への投資を考えとったんか知らんけど」


「ファイル、LINEじゃなくて、メールで送ってくんない?」


おっと、自分の世界に入り込んでいたはずの相模ンが突然口を開いた。


「うぃぃ」


いいヤツタケちゃんは、相模ンにだけメール。


「西武んとこへ送られたのは、4月25日。ゴルフより少し前だな」


独り言の様に相模ン。


「すごいね、相模君。どうしてそんなこと分かるの?」


スマホでファイルを眺めるももしおが感心の名台詞。オレは相模ンの口元が微かに緩んだのを見逃さなかった。


「LINEじゃファイルのプロパティを確認できないけど、メールだとファイルの持ってる情報が少しだけ分かるんだよ」


おっと、相模ンが額の前髪をすーっと人差指で流している。


「有名人を列挙したファイルがテレビ局長になんとなく繋がっちゃうのは私だけ? しかも、ゴルフをする少し前」


ねぎまがオレに同意を求めた。


「例えばさ、製薬会社がCMを造るのに起用する有名人を考えたとか? で、テレビ局長が一緒だったのは、月曜8時の枠でとかゆーやつかも」


オレは推理を披露してみた。


「だけど、東城寺さんはB氏に頼まれてゴルフをセッティングしたんでしょ? だったら政治家がなんで?」


ねぎまにばっさり。


「このファイルがゴルフと絡んどるかどうかも分からへんのやから」


いいヤツ、タケちゃんがフォローしてくれた。そうだった。日付が近いというだけ。


「本当に排除したかったのは、東城寺さんじゃなくて、当時参議院議員のB氏なんじゃないかな?」


と相模ン。


「「「「B氏?」」」」

「なんで? 根拠は?」


ミナトが質問した。


「ゴルフは政治家発令だったんだろ? 政治家が単独で行動するとは思えない。組織的に何かしようとしてたんじゃないのか? 製薬会社やテレビ局長と繋がりたいようなことを。

 でもって、党の方針が変わったのか権力的なものなのかは分かんないけど、頓挫した。

 で」


タンッ


相模ンは首の前で手を水平にして舌を鳴らした。


「あ、なーる」


「根拠はもう1つ。6月5日にインサイダー取引疑惑が出る前の5月30日にB氏が参議院議員を辞職してる。

 インサイダー取引疑惑の話が党の耳に入ったってのも考えられるけど、準備が良すぎじゃね?

 B氏を排除するためにインサイダー取引疑惑をでっち上げたとも考えられる」


「すごいね、相模君」


ももしおは魔法の言葉で相模ンを絶賛。


「B氏に合って話を聞きたいよね」


ねぎま、身を亡ぼす好奇心だってば。

ミナトはオレの方を気の毒そうに見た。



その夜、ももしお×ねぎまはベッド、ヤローはリビングに雑魚寝。

1人はソファで眠れるのに、遠慮して誰もソファを使わなかった。


一つ屋根の下にねぎまが眠っているのかって、こんなチャンスないって、ほんのちょっとだけ下心が沸き上がったけどさ、睡魔の方に軍配が上がった。

みんな一緒なのに、なんもできねーって。

廊下でこっそり、おやすみのキスをするのがやっと。

最近思う。舌を入れるタイミングが分からん。


寝よ。



翌朝、散歩途中、海をバックに朝食をしてから分かれた。

西武の顔は晴れ晴、、、いつも通り、眼鏡の半分を前髪が覆っていた。




帰宅したオレは、リビングのソファに突っ伏して寝た。


昨晩、ももしお×ねぎまが合流したのが夜の10時過ぎ。

その後くっちゃべって、なんだかんだで寝たのは3時くらい。


今日は日曜。明日月曜は体育祭の振替休み。ってことで気兼ねなく眠った。


ん?


目が覚めるとダイニングの方から話声が聞こえる。


「やだなー、月曜日」

「もう、お料理ができないぃ。誰かが来たらどーすんの?」


両親の話声。


「仕事行きたくないー」


ソファの背もたれが向こうからの死角を作って、両親はオレに気づいていないらしい。


「お仕事嫌なの?」


母が父に聞いている。


「やだー。会社休んで貴美ちゃんとずっと一緒にいたいなー」


母の名前は貴美子。しっかし、どんな顔してあんな甘えた声出してるんだろ。親父、キモっ。

怖いモノみたさにそっとソファの陰から覗いてみれば、父は、キッチンで包丁を持つ母の腰に手をまわし、肩に後ろから顔をすりすりと擦り付けていた。

ゲロゲロ―。見るんじゃなかった。


「そっかぁ。じゃ、私がマックかコンビニでバイトしよっか。今まで頑張ってくれたんだもんね。今度は私が働くよ」


おいおいババア、時給どんだけで一家を養う気だよ。諭吉も入れて8人家族だぞ。タマを入れたサザエさんとこと一緒の人数なんだぞ。

兄はまだ大学生、オレは高校生、妹は中学生。親父、もうちょっと頑張ってくれよ。

ってかさ、ババアって公認会計士だったんじゃなかったっけ? ファーストフード店やコンビニじゃなくて、資格生かした仕事でがっつり稼ぐこと考えろよ。


「よしよしして?」

「よしよし。頑張らなくてもいいんだよ。ツカちゃん」


父の名は司。母は非公式にツカちゃんと呼んでいる。公式では「司さん」。


「がんばる。定年まで。はーっ。長ぇよ」


親父、大変なんだな。この間「そこそこでよかった」って言葉を情けないなんて思って悪かった。ごめん。

……。

オレ、いつまでここに身を潜めてりゃいいだよ。


ピンポン


インターホンが鳴った。ナイスタイミング。あんなキモい会話聞かされ続けなくてヨカッタ。


「あ、誰か帰ってきたみたい」


母とコリー犬の諭吉が玄関へ行く足音が聞こえた。


「ただいまー」


妹の声。加えてバタバタと忙しない足音。


「おかえり」

「あ、お父さん、今日はゴルフじゃなかったんだ」

「久しぶりにゆっくりしたよ。諭吉とドッグランへ行って、コストコ行って」

「お兄ちゃんは?」

「宗哲? 靴があったから部屋にいるんじゃない?」

「なんだ、宗哲は家にいるのか」

「私、お兄ちゃんに理科で教えてもらいとこあるの。お兄ちゃんの部屋行ってくる」


このまま寝とこ。


「わん」


いいって諭吉、教えなくって。


「あ、そこ? おにーちゃーん」


ぱたぱたぱたっとスリッパの音が近づいてきたと思ったら、


どすっ


「うっ」


妹がソファの上にいるオレにダイビングしやがった。

諭吉、恨む。


「あら、そんなとこに」

「いたのか、宗哲」


いたし。親父、聞いてた。ごめん。


「寝てた。ふぁぁぁ」


妹をどかして、しらじらしく伸びをするオレ。


「昨日、体育祭で頑張ってたな。テニス部のリレー、速かったじゃないか」


今更普段の父親の顔されても。



オレは疲れた体に鞭打って、寝転んだまま、妹の理科を見た。

つーかさ、妹って、オレより頭いいんだけど。何を教えろと?


「ねぇお兄ちゃん、もしね、もしもだよ、万が一、私とお兄ちゃんが本当の兄妹じゃなかったら」

「ねーよ。万が一にもねーよ」


どんだけ夫婦仲いいか。キモいくらい。それにさ、妹はほぼオレと同じ顔。


「だからぁ、もしって言ってるじゃん。もしも兄妹じゃなかったらどうする?」

「せいせいする」



軽く妹をいなして夕食。

本日も大学生の兄は不在。今ごろ、あのクソリア充はカノジョと一緒に食事してるんだろうなー。

オレも早く大学生になって、家に帰らないくらいねぎまと一緒に過ごしたい。


大学生?

大学生になったとしても、自宅生同士じゃん。今と状況変わんねーじゃん。

ん? 続くのか? まだ1年以上もあるぞ?


破局があるとすれば、オレが捨てられるパターンしかないけどさ。

その前に、ねぎまが他の男に狙われるって心配を、これから1年以上しなきゃいけないのか。

大学生までじゃないじゃん。ずっと。ねぎまとつき合い続けるってことは心配し続けるってことか。

オレ、ハゲるかも。


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