終わってない
『今どこ?』
もちろん、LINEの相手は愛しのカノジョ。ねぎま。
マイ『カラオケ。今日はオールになるかも』
なんだって? クラス仲良過ぎだろ。男子も一緒なのか? 聞きたい。でも、こんなこと聞いたら、キモイ男決定。
「カラオケ中って」
平静を装って、みんなに報告した。
カシャ
ぶぶー
ミナト『オレとこのマンションに男4人』
ミナトが、ももしお×ねぎま、ミナト、オレの4人のグループラインに、オレ達の写真を撮って送った。
4人のグループLINEにメッセージと写真が届く。
マイ『遊びにっていい?』
『ももしおは?』
マイ『マイク離したら一緒に連れてくね』
歌ってるのか。なんにせよ、男と一緒の可能性があるところからはねぎまを退避させないと。
「すっげー。宗哲って、ねぎまとつき合ってるんだよな。ちょっと尊敬」
オレがスマホでやり取りしているのを見たタケちゃんは羨ましそうに言った。
「オレの学校での生き甲斐を減らしがって」
許せ、相模ン。
「ももしお×ねぎま、こっち来るって」
「え!?」
タケちゃんは驚いて姿勢を正す。
やっぱ、タケちゃん、ももしおのこと、すっげー好きなんだな。
ミナトはそのこと、勘づいているんだろうか? クラスが違うから、ミナトはももしおとタケちゃんの絡みを見てない。知らねーかも。
あれ? だったら、なんでももしおを呼ぼうなんて言ったんだろ。
約30分後、ももしお×ねぎまはハイテンションでやってきた。歌いながら踊りながら笑いながら。酒も入っていないのに酔っ払いのよう。そして、私服。オールの準備万端だな。
「イエーィ。クラスの打ち上げの後、応援団の集団に合流したんだよねー、マイマイ」
「しー、シオリン、お口にチャック」
なんだって。
くっ。合コン状態じゃん。
でも、ここで嫉妬なんか見せたら、キモイ男、小さい男が確定する。我慢だ我慢。
ん? タケちゃん、なんか、さっきはでれっとしたカッコしてたのに。ちょっと違ぇ。
ちょこん
ももしおはオットマンにカエルのように座った。
ぽふっ
ねぎまはL字形のソファの短い方。
「なー、ももしおちゃん、西武に『東城寺さんが冤罪だと思う』って根拠、説明してあげて」
なんと、ミナトはそのためにももしおを呼んだのだった。
へらへらと笑っていたももしおは、いきなりきりっと別の顔になった。
顔は締まっても、脚は自然な感じに開いたまま。今日のももしおは短パン。すっげー気になって、うっかり脚の付け根に目が行ってしまいそう。応援団のヤツラ、この「見ちゃいけないけどつい目が」って気持ちを味わい続けたのか。気の毒に。
相模ンは好感度を保ちたいのか、ももしおの正面から脚の間が見えない位置に移動した。意外過ぎ。
タケちゃんの顔が赤い。
あ、タケちゃんが前髪を下ろした。そっか、髪の毛で隠しながらじっくり見る作戦だな。
「あのね、西武君、私、東城寺ファンドの業績はすごいと思ってたの。それは社長の東城寺さんの手腕だったから、経済誌をチェックしてたの」
「3年前なんて、百田、中学生じゃん」
「えーっと、私、小学生のときから投資に興味があって」
はっきり言えばいいのに。株やってるって。
「へー。みんなは知ってるんだ?」
タケちゃんの質問にオレ達は首を縦に振った。
「あのね、当時、東城寺さんが儲けた銘柄、**製薬は、他の投資家も同じように儲けたと思うの。たくさんの人が。だから、どうして、子会社の人とゴルフしたってだけでインサイダー取引ってことになっちゃったのか、私には納得がいかなくて」
「父は嵌められたって言ってた。自分の弁護士もたぶんグルだって。敵、多かったから。
でも、それはもう、終わったことだから」
タケちゃんは「終わったこと」なんて諦めたように言う。
「タケちゃん、無実だったら終わってない。現に、今日、東城寺さんは追いかけられたじゃん。タケちゃん、体育祭なんて晴れ舞台に、嫌な思いしてさ。刑期が終わったって、終わってねーよ」
言っているうちに自分の目に涙が溜まってくる。悔しいとか、そーゆーのじゃない。感情が高ぶると、声を押さえて平静を装っても、弱冠涙腺が反応してしまう。
「だよな。分かってる。でも、弁護士までグルなんて、もう、誰を頼ればいいのかも分かんねーよ。祖父母も泣いてた。父の名前が知れてた分、今はひっそりと生活してる。周りにたくさんいた知り合いが、潮が引くみたいにいなくなったって言ってた」
「ねえ、西武君。冤罪を証明したら、もう前髪で顔を隠さなくてもいいんだよ。お祖父様達も堂々と生活できるんだよ」
ねぎまも訴えた。
「私、調べてたから、インサイダー取引のことはちょっとは分かるよ。
うーんと、ちょっと待ってね。パソコンに古いデータがあるの」
ももしおがスマホを操作すると、みんなのスマホにファイルが届いた。
『3月31日 決算
4月15日 孫会社社長**化学重役がツイートしたとされる日
ツイートは50分間ネット上にあったとされる(上層部限定ツイッター)
4月30日 ◆ゴルフ
子会社**薬品重役 A氏
投資家仲間 B氏
5月10日 親会社、子会社、孫会社の上層部に不正解会計の通達
5月12日 東城寺ファンドが親会社**製薬の株を空売り
5月14日 親会社**製薬決算発表延期を通知
孫会社の不正会計を発表
5月15日 決算発表延期
株価暴落
東城寺ファンドが親会社**製薬の株を利確
5月30日 B氏、体調不良により参議院議員辞職
6月 5日 インサイダー取引疑惑浮上
7月25日 親会社**製薬決算発表
特別損失130億円を計上
不正会計報告
7月30日 臨時株主総会
8月30日 東城寺蓮、A氏、B氏逮捕』
ここには、オレの父が週刊誌で読んだ七夕みたいな名前の人が出ていない。孫会社重役って人のこと?
「決算発表って値動きするよな」
株をちょっと齧りかけたことがあるミナトが頷く。
「あのさー、ももしお。オレ、よく分かんねーんだけど、そんな重要なイベントのこと、子会社の重役が知らないもんなわけ?」
「んーっとね、それは、7月30日の株主総会のブログ情報によると、決算発表じゃなくて、決算の1ヶ月くらい前、んーっと、2月に極秘調査してたんだって。極秘扱いだったから」
こんな億のケタの話なのに。
「明るみになって、証拠を隠滅されると困るからじゃない? 知ってたら、子会社の重役、呑気にゴルフしてないかも」
なるほど。ミナトに言われて納得。
「詳しい内容だったら、ネットに不正会計報告が出てるよ。
不正会計ってゆーより、実質、孫会社の取引先の詐欺事件って感じ。資金循環ってゆーのさせてたらしいけど、あの時はよく分かんなくて。
船の積み荷ってことで架空の注文を発生させてたらしいの」
「シオリン、不正会計の内容も大事かもしんないけど、どうして嵌められたのかってのは、噂とかないの? 2ちゃんねるや週刊誌的なのでもいいから」
「うーん。東城寺さんのことばっかりだった」
すると、相模ンがスマホを見ながら言った。
「あのさ、4月15日にツイートがどうこうって書いてあるけど、これで知ったってこと?」
「でもね、すぐに消したんだって。でね、疑惑のA氏はツイートを見ていないって言ってるんだって」
ももしおが答えると、相模ンが首を傾げた。
「そんなん、弁護士だったらある程度調べられるんじゃない? スマホは押収されたんだろ?」
「へ?」
「詳しくは知らないけどさ、ツイッターの会社なら分かると思う。たぶん」
「タケちゃん、そーゆーの、調べられたか分かる?」
「スマホやパソコンのデータは調べられてない」
「「「「は?」」」」
意外過ぎる。
ここまで電子情報がはびこった昨今、容疑者のパソコンやスマホを調べるのは、もはや常識なのに。
「東城寺ファンド自体の調査はされなかった」
一瞬、その場に沈黙が訪れた。
全員が変だと思ったんだろう。
オレは沈黙をなんとかしたくて話題を提供してみた。
「このツイッターで呟いた人、七夕みたいな名前の人? オレんちの親父がさー、出張で会ったって言ってた。3年経った今ごろ、もらった名刺探して名前確認しててさー」
「宗哲君、3年前に私が調べたとき、ツイートした人の名前なんてどこにもなかったよ。守秘義務だかプライバシーだか知んないけど」
ももしおが怪訝な顔をした。
「でも親父が、この間週刊誌で名前を見たって言ってたから。あー、なんだっけ。名前思い出せねー。
でもさ、親父が会った日はこのツイートした日だった。ファイルしてあった名刺に日付のメモがあって。オレんちの犬の誕生日だったから覚えてる。親父その時、中国出張だったんだよ」
「はあああ?」
オレの言葉に相模ンがすっげー変な顔をした。
「オレ、なんか変なこと言った?」
「中国出張?」
相模ンはオレの言葉をリピート。
「うぃぃ」
「じゃ、ツイッターの会社に問い合わせる必要もない。ツイートは嘘」
「どーして?」
ももしおが相模ンの方に向き直って、目をまん丸にした。短パンの隙間からパンツ見えそうじゃん。
「中国はツイッターができない。FaceBookも」




