表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/30

後夜祭の夜

後夜祭。

相模ンは張り切っていた。ドローンを様々なところにセッティングしてあるそうな。


『あの子達、持久力ないんだよね。だから、派手に見せるには工夫がいるんだよな』


なんて言ってた。


優勝が白組と発表され、応援団による余興のダンス。

心配したタケちゃんは、ちゃんと学ランを着て踊っていた。足首と手首が出ていたから、人に借りたんだと思う。


大音響のBGMと共に、プロジェクターマッピングのショーが始まった。


何の変哲もない鉄筋の校舎がホーンテッドマンションのような、コウモリが羽ばたくひび割れレンガの建物に早変わり。BGMはおどろおどろしい。窓がパタパタと開いたり閉じたりしたかと思うと、今度は下から蔓の映像が伸びて来る。そして花が咲き乱れて中央に今日のハイライトシーンの静止画像が映し出された。


応援団、50m走、障害物競争、綱引き、部対抗リレー、すっ転ぶ教師、棒倒し、騎馬戦、などなど。

自分の勇姿がアップになって恥ずかしがったり、人気のある生徒が登場して歓声が上がったり。

トリは選抜リレーでタケちゃんが1位でゴールする上からの画像と、そこにみんなが集まってくる静止画像がコマ送りの様に映し出された。ドローンで撮ってたんだ。


相模ン、お前らすげーよ。

ついさっきまで、体育祭だったじゃん。それをもうデータ入力して映してるんだ。


すると今度は画面が青くなって、夕暮れに変わっていく。暗がりの中に青白い灯りが浮かんでいる映像。それにちらちらとブレる青白い光が混ざり、観衆の方へ飛び出してきた。3Dではなく、オレもちょっとだけ作った、マイクロドローン。


プロジェクターマッピングは、パタパタとライトが瞬くようにBGMに乗って激しくなり、ダンスタイム。

マイクロドローンは約7分間、円を描いたり音楽に合わせて揺れたり、アクロバットなショーを見せてくれた。


相模ン、神。パソコン部、すげー。


更には別の大きめのドローンが写真撮影。

踊りながらドローンに手を振った2-4の友達とのオレの写真が校舎に映し出された。

後夜祭、サイコー。



後夜祭の後は、クラスの打ち上げ。場所が限られてるから、会場は色んなクラスが一緒になる。ミナトと同じ店だった。


タケちゃんは女子に囲まれていた。

なんだかなー。掌返しだよな。女子の態度変わり過ぎ。

どうも「イケメン」には気づかれても、まだ、東城寺蓮の息子とは気づかれていないらしい。東城寺蓮の若かりしころの顔をしっているのは、オレ達の親世代より上だからかも。


「助けて」


タケちゃんはオレや小田のところへ逃げてきた。


「羨ましーぜ」


小田の言葉にタケちゃんは首を横に振った。


「怖い」

「そーゆータケちゃんが好き」


オレは笑った。



騒いだ後、会場の外に出ると。

開始時間が同じだったミナトのクラスもいた。


「あ、オレ、帰る。じゃ」


小田のカノジョはミナトと同じクラス。小田はすっげー嬉しそうにオレ達に別れを告げた。

打ち上げで焼肉食ってるときから、小田、なんかスマホばっか気にしてたんだよな。


「弁当うまかったってお礼言っといて」

「から揚げ、ごちー」


いそいそとカノジョと消えていく小田の後ろ姿を見送っていると、陸上部のヤツもこそこそとスマホでやり取りしている。


「この後、約束あってさ」

「「「うぃぃぃ」」」

「じゃな」


カノジョだろーな。

女の子ってなかなか夜遅くなるのが難しいらしい。9時や10時じゃなく、次の朝ってレベルで。

つまり、こんなイベントの日はチャンスなんだってさ。小田が言ってた。


「クソリア充」


相模ンの妬ましい声が聞こえた。

残されたのは、相模ン、タケちゃん、オレ。

2-4のサッカー部連中は女子に囲まれていて、タケちゃんはオレ達の所に避難してきたまんま。


「宗哲」


ミナトが近づいてきた。


「うぃぃ」

「相模ン、ドローンのショウ、すげかった」

「おう。さんきゅ」


ミナトと相模ンは1年のときに同クラ。もともと相模ンとオレはミナト繋がり。

相模ンを労った後、ミナトは声を落とした。


「なあ、あれ、昼間学校にいたヤツじゃね?」


数メートル離れた場所で男がタバコを吸っていた。カメラを持ってはいないが、昼間「東城寺君いる?」と聞いてきた男。

それを見たタケちゃんは、震えはじめた。オレのシャツを掴んだ手が小刻みに揺れているのが伝わってくる。


「大丈夫? タケちゃん。家、つきとめようとしてるかも。一人暮らしだよな?」

「今、父がいる」


後をつけられたら、アウトか。


相模ンは何のことだか分からないといった顔。


「今日はオレんとこ来る? 宗哲も相模ンも来いよ」


ミナトが提案してくれた。


「それって」

「すぐ近く。みなとみらい。親も誰もいないから」

「後つけられたら?」


タケちゃんはミナトに不安気に聞く。

分からない顔をしている相模ンに、タケちゃんがストーカー被害っぽいのに合っていると説明した。


「オレんとこのマンションなら後つけられても別に平気だろ。不審者はシャットアウトだから」


確かに。ミナトのコンシェルジュ付きタワーマンションなら安心。

ミナトの親が所有するタワーマンションの1室がみなとみらいにある。6月から空室らしく、ミナトは鍵を持っていて気ままに使っている。あんなことやこんなことに。くっ。羨ましい。



4人で歩き始めると、案の定、男はつけてきた。

それでもオレ達は、呑気にお菓子や飲み物、翌日の朝食、下着を購入した。


マンションに入ると、男の姿は見えなくなった。

どれくらいしつこいんだろうか? こんなこと、経験していないから分からん。

しつこいのは当然か。飯のタネだもんな。



4人で交代にシャワーを浴び終わったころ、やっとタケちゃんは落ち着いた。

シャワー後、タケちゃんは髪を分けて顔をはっきり出していた。メガネもなし。ヤバいくらいイケメン。


オレがシャワーを浴びている間に、相模ンは今日のことを聞いたらしい。タケちゃんが東城寺蓮の息子だってことやインサイダー取引で逮捕されたことまで。


「オレさ、サッカー部ではたぶんバレてる」

「今日、追いかけられたの助けてくれたもんな」


「んー。前から」

「「「へ?」」」


タケちゃんの言葉に驚くオレ達。でも、東城寺蓮の息子がいるなんて噂、学校で聞いたことがない。


「サッカーするとき、メガネじゃなくてコンタクトだから、この父にそっくりな顔バレてっし。でも、誰も顔出せって言わねーの。サッカーってアイコンタクトするから、目って大事なのにさ」


「チームでやるスポーツだもんな」


テニスとは違う。テニスはせいぜいダブルス。団体戦でも、試合自体はシングルとダブルス。おまけにコートの大きさがぜんぜん違う。


「今日も、なんで追いかけられて父親について聞かれたのか、誰もなんも触れなくてさ」

「サッカー部、いいヤツばっかじゃん」

「だなー」

「ホント」


ミナトも相模ンも賛同。


「東城寺蓮って芸名?」


ふと聞いてみた。


「本名。『西武』は母の姓。もともと離婚しててさ。『東城寺』って苗字目立つから、事件の後は、オレ、戸籍上は母のとこに入ったんだよ」

「そっか」


「母はシアトルでカレシと暮らしてる。1年に1回くらいしか会ってなくてさ。

 父が捕まった後『一緒に住もう』って言われたけど、幼稚園の前しか記憶ない人が男と暮らしてるとこになんて、ちょっと」


そういえば、一人暮らしの男子生徒情報を集めてた時、『親がシアトルだかバンクーバー』って聞いたよな。母親のことだったんだ。


「複雑だよな」

「オレ、事件までは、父の兵庫の実家で祖父母に預けられてたんだ」


そういえば、2ちゃんねるに関西の有名私立中学に通ってたってネタがあったっけ。ももしお情報。


「なー、タケちゃん。ももしおがさ、冤罪かもって言ってた」


オレの言葉にタケちゃんと相模ンがぴくっと反応した。


ミナトはじっとりとオレの目を見つめた。

言いたいことは伝わってくる。「そんなこと、もうどうにもならないだろ」って。


「百田が?」

「百田さんが?」


こんなこと言ったって、ももしおが株をやってることはタケちゃんに内緒なんだから、これ以上話せない。

どうせ、株がらみのことなんて難しくて説明できねーし。


「オレにはよく分かんねーけど」


「ふーん。

 オレ、父が捕まったって聞いたとき、ぜんぜん違和感なくてさ。金儲けが好きで派手好きで。要領よくて。

 大好きだし、尊敬はしてた。

 でも正しい人間かどうかって聞かれたら、分かんね。

 狡猾ってタイプで。たまに連絡してくると、単に『若者の間で流行ってるかどうか』の確認だったりして。企業の見通しのリサーチに息子使うよーなヤツ」


「そっか」


「なのにさ、オレ、アホみたいにずっとメッセージやファイル、大事に保存してさ」

「なんだ、タケちゃん、好きなんじゃん」

「人に頼りにされると嬉しいもんな」

「西武、泣いていーぞ」


ミナトが笑いながら両腕を広げた。


「アホォ、男の胸で泣けるか」

「「「ははははは」」」


「な、ももしおちゃん呼ぶ?」


ミナトが急に提案した。


「もう遅いって。女の子だから家だって」


ももしお×ねぎまの実態を知らないタケちゃんは遠慮する。


「聞いてみよっか?」


とオレはスマホを取り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ