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服を……脱いで

体育館の外階段を下り、体育館の裏へ回ろうとした。


「ごめん。ちょっとだけ」


東城寺蓮は立ち止まり、選抜リレー中のグランドを見た。


「見応えありますもんね」


違う。

そうじゃない。


「「「「「きゃーーーーーー」」」」」

「「「「「誰!? あのイケメン!!」」」」」」


黄色い歓声をバックにトラックを走っているのは、強風に前髪がオールバックになってしまったスーパーイケメンだった。


若い頃の東城寺蓮と同じ顔。


走ってたって、友達だから分かる。


タケちゃん。


タケちゃんこと西武は、恐らく東城寺蓮の息子。

タケちゃんは、白組のアンカーとして1位をキープ。

そして難なく1位でゴール。ゴール周辺は白組のリレーの選手や応援団の人だかり。

その様子を眺めていた東城寺蓮の口元が、嬉しそうに綻んだ。


「ありがとう。帰るよ」

「正門の方にはカメラを持った人がうろうろしてました。たぶん、保護者じゃありません」

「裏門はある?」

「そっちもムリです。こっそり外へ出られるところがありますから。こっちです」


と、そこへ、


「宗哲クン、大丈夫?」

「やっとチア、終わったの」


ももしお×ねぎまが登場。


そのとき「あれだ!」という声が聞こえた。

あ~あ。

こいつら、めっちゃ目立つんだよ。


なんだかカメラを持った数人の男がこっちに向かって走ってくる。ヤバい。

逃げろ!


「走ります。こっちです」


オレは東城寺蓮の腕を掴んだ。目的地は男子部室棟。


「きゃー! やめてくださいっ」


走り始めると背後でねぎまが大声を出した。

ちらっと振り向くと、カメラを持った男達を大勢の男子生徒が取り囲んでいた。ねぎま、ナイス!


男子硬式テニス部の部室に逃げ込んだ。

走ったのが応えたのか、東城寺蓮はずらっと並んでいるロッカーに背を預け、ずるずると座り込む。


「ありがとう。2年4組の……」

「米蔵です」

「米蔵君」


東城寺蓮は呼吸が整わないまま、チューリップ帽を脱いだ。

すっげーダンディ。年取ってもこんなにカッコいい男、いるんだ。刑務所ん中でも劣化しなかったのか。


「信用できる友達に、カメラを持った男がうろついてないか見てもらいます」


オレは迷わずミナトに連絡した。


しばらくすると、ミナトはまだカメラを持った怪しげな男達がうろうろしていることを教えてくれた。


コンコン


「オレ、ミナト」


かちゃ


ミナトはももしお×ねぎまと一緒にやってきた。

男臭い部室に女の子を入れることを一瞬ためらったが、東城寺蓮を見つけたのはももしおだ。


「どーぞ」


「競技が終わったから保護者は半分帰った。だけど、でかいカメラぶら下げたヤツが結構いる。7、8人」

「そんなに」

「さっき見つかっちゃったから、服を覚えられてるし」


ねぎまは眉根を寄せて困った顔。こんな顔でも絵になるじゃん。


そしてももしおは、東城寺蓮の正面にしゃがみ込んだ。

チアのミニスカートとお揃いの白。見せパンと分かってはいるが、そこまでパンツ全開ってどーなんだ。正面の東城寺連だって困るだろ。


「東城寺さん、私、投資家としての東城寺さんを尊敬してます。それに、あの時**製薬を空売りした人はたくさんいました。私だってしたかった。だから覚えてるんです。

 もしも**製薬の孫会社が不適切会計をしていなかったとしても、あそこまでの急落はしなかったとしても、どのみちあの株は下がってたと思います。

 東城寺さんは冤罪ですよね?」


「ああ。どれだけ訴えても、判決は覆らなかった。嵌められたんだと思う。情けない」


コンコン


誰かが部室のドアをノックした。

東城寺蓮について知っているのは、この4人だけ。いったい誰?


「隠れましょう」


オレ達4人で何個も並ぶロッカーの後ろ側に身をひそめた。そこには、得点ボードや大量のボール、ポカリの粉、鍋、卓上コンロ、プラスチック容器、割り箸などが所狭しと置かれている。


きぃぃぃぃ  パタン


誰かが入って来た。


と、その時、ももしおが、ばたばたばたっとポカリの箱を落としてしまったのだ。

咄嗟にももしおは、ロッカーの陰から出て行った。


「あのね、えーっと、ちょっと探し物してたの」


ももしおが入って来た誰かにする、苦しい言い訳が聞こえてくる。


「……」

「……」


その後、しばしの沈黙。誰だろう。ここからじゃ見えない。


「ねぇ、服を……脱いで」


ももしおーっ。まさかの色仕掛けか!

ふざけるな、いろいろやらかしてくれるけど、そこまでしなくてもいいって。


「……」

「早く、脱いで」


オレの頭は、上目遣いで男の胸にしなだれかかる、イケナイももしおを想像してしまう。


ぱさっ


相手は恐らく1人だ。いったいテニス部の誰なんだ。素直に服を脱いだみたいじゃん。

当たり前だ。あんな可愛い子に「脱いで」なんて言われたら、すっぽんぽんになってひれ伏すしかねーじゃん。


「ズボンも」


カチャ


とさっ


「スト―ップ!」


我慢できず飛び出すと、そこには真っ赤な顔をした体操着姿のタケちゃんがつっ立っていた。ももしおとの距離2m。

なーんだ。学ランの下に体操服着てたのかよ。


「そ、宗哲っ! /////// 」


「服ゲット♡」


ももしおは嬉しそうに、タケちゃんが脱いだ学ランとズボンを持ってロッカーの後ろに行った。


「あ、えっと、その、人を探してたら、百田が男テニの部室に入っていったから。気になって」


タケちゃんはしどろもどろ。


「たぶん探してる人、ここにいる。タケちゃんとそっくりの人」


「え」


ロッカーの影から黒いズボンに穿き替えた東城寺蓮が出てきた。

親子だけあって、背格好も一緒。ズボンの丈はぴったりだった。足長っ。

見えているアゴのラインも一緒。

今のタケちゃんは前髪が眼鏡の半分を覆っているから、肝心の目は比較できない。でもさ、走ってるとき同じだった。


「ありがとう。借りるよ」


東城寺蓮は、親子ということを明かさなかった。犯罪者の息子と烙印を押したくなんだろな。


「いいって。お父さん。もうバレた」

「ごめん」


「え、そーだったの?!」


ももしお、気づくの遅っ。タケちゃんの顔、見てねーのかよ。お前のイケメンセンサー、どうなってんだよ。

ねぎまとミナトは察していたようだった。


呆れたねぎまは、タケちゃんのメガネを取って、髪をオールバックにした。


「あら♡」


やっと納得するももしお。ってか、ねぎま、オレ以外の男に触んなよ。


「道路に人がいるかどうか見てきます」


オレは男子部室東横の垣根を越えて、道路に出てみた。

そこには、後夜祭のキャンプファイヤー用の材木を積んだトラックが停まっていた。怪しい男がウロウロしているという正門からの死角を作ってくれている。


『OK』


ミナトにLINEを送った。

テニス部の部室から東城寺蓮が出てきた。辺りを見渡して、ひょいっと生垣を越えた。一度後ろを振り返って軽く会釈し、道路を歩いて行った。直線道路の最初の角を曲がるまで見送った。無事。


問題は東城寺蓮と同じ顔とバレてしまったタケちゃんか。

でもさ、いつも通りのメガネに前髪だったら分かんねーんじゃね?



テニス部の部室に戻ると、ももしお×ねぎま、ミナト、タケちゃんが待っていた。


「大丈夫だった」

「ありがと。宗哲。みんなもマジで感謝」

「じゃ、チアの後片付けがあるから、私達、戻るね。行こ、シオリン」

「あ、西武君、その顔は隠したままなの?」


ももしおはドアの手前で振り向いた。


「父と同じ顔だから」


二度と忘れないほど整った顔って、キツイよな。誰だって振り向く。そしたら、東城寺蓮を知っているヤツは気づいてしまう。


「オレらも行くか」

「だな」


ぶらぶらと男3人で歩いていると、カメラの男が寄ってきてしまった。


「君、お父さんのことをどう思う?」


すると、まだこんなにもいたのかと驚くほど、わらわらとカメラを持った男達が集まってくる。

最悪。もうメガネと前髪で顔が見えなくても覚えられてしまったのか。

オレはタケちゃんの前に立ちはだかった。


「校内へは、関係者以外立ち入り禁止です。出て行ってください!」


声を張り上げた。が、


「あー、君、ちょっと邪魔ね」

「どけよ、坊主」


オレはぽいっとゴミの様にどけられてしまった。


すると、


「すみません。体育祭は終わりました。学校から出てください」


ずらっとPKのゴール前の様にタケちゃんをガードしたのは、サッカー部の皆さん。

学ランに白、赤、黄色、青の襷。声を発したのは中央の「抱かれたい男ランキング1位」の投げキス男。

ガタイが違う。迫力が違う。


首からカメラをぶら下げた男達は、後ずさりしてから逃げて行った。


「さんきゅ」


投げキス男は、礼を言いながらオレに向かって親指を立てた。爽やか。

あ、なんか、抱かれたいの分かるかも。いや、オレは抱かれたくねーけどさ。


「ありがと、宗哲、ミナト」


タケちゃんはサッカー部に軍団に取り巻かれて姿を消した。


ふー。

深呼吸を一つ。



「タケちゃん、どうなるんだろ」

「サッカー部のみんなが守ってくれるって」

「転校なんてしねーよな? 学祭終わっても、学校来るよな?」

「大丈夫だって。西武は、3年前の中学生と違う」


優しいミナトは、オレの不安を和らげてくれた。


「タケちゃんの親父、冤罪って証明できればいいのに」

「もう刑まで終わってんのに?」

「あんだけ有名なら、冤罪だったらスクープなのに」


もうオレの言葉に、ミナトは反応しなかった。


分かってる、オレだって。そんなのムリだって。


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