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東城寺を捜せ

「いない」

「ねえ、ミナト君♡、今回の大河ドラマのオープニングはどう思う? いないわねー」

「結構好きですよ。いない」

   :

   :

「いねーし」

「あらぁ、バイオリンのところね。やっぱり私とミナト君♡好み似てるかも。いないわ」

「ですね。いない」

   :

   :

「いねーじゃん」

「ほらほらほら、旋律がラーラーラ―の部分、ぽーんと音が飛ぶの好きなの。いなーい」

「ああ、あの部分ですか。いない」

   :

   :

「いねー」

「音の感じがブラームスっぽいってゆーか、どう思う? ミナト君♡。いないわ」

「ああ、なんか分かるかも。低音が。いない」

「いねーじゃん」

「ねえ、ブラームスって14歳も年上のクララと」

「いませんね。ありがとうございました」


ぱっとミナトは立ち上がった。え、行く? 念のため音楽クラスも見てたけとこだからいーんだけどさ。


東城寺はいなかった。

2人の男から「東城寺」を聞かれたってゆーのに。ミナトなんて間違えられて。


ミナトは女の子から騒がれるだけあって肩幅が広くて手足が長い。要するに後ろ姿もイケメンオーラ全開。後ろ姿を「東城寺」に間違われたのも分かる。


なんとなくすっきりしない。



「飯だな」

「腹減った」


取りあえず昼食。


昼食は普通に教室に戻って食べる。食堂組もいる。普段と一緒。

高校生の体育祭なんてこんなもん。


ミナトはクラスが別だから2年の階の廊下で分かれた。


いつものメンバーで教室の隅の机を2つくっつけて、4人でイスをその周りに持ってくる。小田、相模ン、陸上部のヤツ。


「あれ? 小田、弁当可愛くね?」


小田のお弁当は、なにやら豪華。

くるくる丸めたサンドイッチパンがサランラップに包まれて、ギンガムチェックのリボンがついている。チューリップから揚げの足の部分には白い飾り。プチトマトにブロッコリーと見た目が綺麗。いつも茶色のがっつり肉々しい弁当なのに。


「カノジョの手作り弁当。お友達もどーぞだって」


小田はデレデレの顔。これ見よがしにオレ達にから揚げを1つずつくれた。


「小田のカノジョ優しー。ありがと」

「お礼言っといて」

「いただきます」


「まいうー」

「旨っ」

「おいしい」


ピリ辛がいい。サクサク感ならオレんちのから揚げだけど、これもアリ。


「優しいんだよー。羨ましいだろー」

「手作りのお弁当って憧れるよな」

「宗哲も作ってもらったりする?」

「ぜんぜん。料理はできないって言ってた」

「ま、応援団だったら忙しいもんな。朝早いし」


「へ? 朝も応援団って練習するわけ?」


聞いてない。


「してた。だってさ、夏休み明けてすぐじゃん、オレらの高校の体育祭って。練習期間短いって」

「確かに。前はもっと後に体育祭だったけど、進学率上げるために体育祭の日にち繰り上げたとかって」

「マジで?」

「オレも聞いた」

「それって、確か、オレらが受験するときに学校説明会で出てきた話じゃん」


つまり、本当に進学率のために体育祭を早く終わらせるようにしたのか。

そこまでする?


ねぎま、忙しかったんだな。

なのに毎日電話につきあってくれてたっけ。


さんきゅ。


「相模ンは後夜祭の準備、ばっちり?」

「おう。昨日やってみた。心配なのは風かな。小さいから風で飛ばされる」

「昨日やったのかー。見たかったなー」

「でっかいのでさ、GPS付きでやってみてーよ。予算的に夢のような話だけどさ」

「相模ン、かっけー」

「使ったドローンってさ、学祭終わったらどーすんの?」

「個人で買ったのは各自持ち帰り。半分は部費で買ってるから残してく」

「へー」


話題も普段とさほど変わらない。体育祭も幼稚園から数えて14回目。もう勝敗に熱くなる歳でもない。



食後の歯磨きを終わり、ぶらぶら歩いていると、ももしお×ねぎまがいた。

イケメンセンサーが付いてる2人なら、東城寺連みたいな生徒を知っているかも。


「うぃぃ、メシ食った?」

「宗哲クン」

「食べた。今、忘れ物取りに来たとこ。これ」


ももしおは応援に使う笛をピッと鳴らした。


「あ、あのさ、東城寺連って分かる?」

「うん。元東城寺ファンドのCEO。3年前にインサイダー取引で捕まった人でしょ? 冤罪を訴えてたのに刑期が終わって出てきたっていう」


さすが、ももしお。株がらみのことは詳しい。


「そーなんだ。私、俳優だったってことしか知らなかった。宗哲クン、東城寺蓮がどうかしたの?」


ねぎまは一般的な女子高校生。

 

「なんかさ、オレ、若い頃の東城寺連の写真見せられてさ。『東城寺君いる?』って聞かれたんだよ。すっげー本格的なカメラ持ってる人に。2人から。ミナトも間違えられて」

「「え?」」

「いねーよな。東城寺君なんて。写真はすっげーイケメン。芸能人レベルのイケメンなんて目立つし」


オレはももしお×ねぎまに同意を求めた。


「どーっかなー」

「実はいたりして。うふっ」

「イケメンってね、顔の形だけじゃないんだよね」

「だよね」


2人はいきなりガールズトーク。

そして、ももしおはイケメン論を語り始めた。


「イケメン認定って、一般的に総合評価なわけ。イケメンって、内面からにじみ出るものなの。顔が綺麗でも、覇気のない顔でしかめっ面してたらイケメンに見えないし、髪型だって、きっつい坊ちゃんカットだったら、それだけで雰囲気は固まっちゃう。体型もゆずれないよ。自己管理できてなくて太っちゃってたり、反対に骨と皮だったらアウト。だから、顔が東城寺蓮に似てるだけかも」


そっか? 今一つ納得できない顔をしていると、ねぎまが何気なく言った。


「ね、その人って、高校生の東城寺君じゃなくて、本当は東城寺蓮を探してるんじゃない?」


「は?」

「だって、未成年を写真に撮るなんてできないじゃない。生徒を探したいならカメラなんていらないし」


なるほど。


「そっか」

「今日は保護者が体育祭を見に来るでしょ? だから東城寺君を見に来た、東城寺蓮の写真を撮りたいんだじゃないかな?」

「それっぽい。納得できる」


「あ!」


いきなりももしおが大きな声を出した。


「なんだよ」

「どーしたの? シオリン」


「東城寺ファンドのCEOだから、私、結構ググってたの。2チャンネルだけど。その中に、『記者が出所を狙って写真を撮りに行ったのに、もう出所してしまってた』ってのがあったの。もう1つは『そのまま整形に行ったんじゃないか』って」

「ももしお、2ちゃんねるまで見てるんだ?」

「じゃ、シオリン、東城寺蓮の今の顔を誰も知らないってこと?」

「もし、それが本当なら」


ももしおが頷いた。

そして、ねぎまは推理を続けた。


「出所するところを写真に撮りたかったのに逃しちゃった。だからリベンジで記者が写真を撮りに来る。この学校には東城寺連の息子がいるってことなんじゃない?」


「息子?!」


ねぎまの推理は乱暴なんじゃね? ちょっと冷静に考えたい。


「それしか考えられないじゃん。息子を応援に来た東城寺連を撮りたいんだよ」


自分の推理に自信たっぷりのねぎま。推測できる範囲だけどさ、


「すっげぇそれっぽい。でも、東城寺連に息子がいるかどうかも分かんねーし。」


オレの言葉に何かを思い出したのか、ももしおの目がまん丸に見開いた。


「いる。いるよ。2ちゃんねるに書いてあった。関西の男子校の有名私立中学に通ってたって。東城寺蓮と瓜二つで、事件があってから学校に来なくなって気が付いたら転校しちゃってたって。バイオリンが上手かったから留学したんじゃないかって書いてあった」


うっわー。親が犯罪者って、有名人の子供は辛いよな。自分は無実なのにさ。あ、そっか、東城寺蓮も無実かもしれないのか。


「なんかさ、もし東城寺蓮の息子がいるならさ、せっかく平和に生活してんのに、バレたくないよな」

「だよね」


ねぎまは心配そうに眉間に皺をよせた。


「もし週刊誌ネタにされて犯罪者の息子って分かったら、辛ぇじゃん」

「週刊誌ネタかぁ。2ちゃんねるでは、女性問題とかセクハラとかパワハラとか黒い人脈とか、インサイダーに関係ないことまでいっぱい出ちゃってた。ってか、もうファンド会社のことは全くナシ」

「フェイクだろ。ももしお、2ちゃんねるなんか見るなよ」

「見てなかったら、息子がいたことも分かんなかったじゃん」

「そっか」


「私ね、東城寺ファンドの目のつけ方、尊敬してるの。東城寺ファンドってゆーより、東城寺連」


「ふーん。犯罪者なのに?」

「私、3年前の決算発表のこと覚えてる。もともと色んな証券会社のレーディングは高くって、がんがんに株価が上がってたの。売上見込みも冗談みたいな数字で『嘘でしょ。製造ラインにここまでの能力ないんじゃない?』って思うくらい。私だってね、信用取引ができてたら絶対空売りしてた」


「ごめん、なにしゃべってるか、オレ、なんも分からん」

「シオリン、専門用語」


「東城寺連は、私も冤罪だと思う。3年前の私なんて、株始めて数年しか経ってなかったピヨピヨだったの。それなのに『空売りしたいな』って思ってた。相場なんて海千山千のなん10年選手がゴロゴロいるの。あの銘柄見てたんだったら、他にも空売りで儲けた人はいっぱいいる。そんなの売り残の数字をみれば分かる」


オレは遠い目をしながら話が終わるのを待った。


「校門のとこで名簿見て来たら、東城寺って苗字のヤツは1人もいなかった。だけど、もし東城寺蓮の息子がいたらさ、バレないようにしてやりたいよな」


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