異人種のモテ男
小田と網の洗った部分を絞り、道具係待機場所に向かって歩いた。
「宗哲、小田、何してんの?」
「あ、タケちゃん」
「網汚れたから洗ったんだよ」
「どっか干すとこあるっけ?」
「あ、サッカーゴールに干す? ちょっと動かすか」
え、サッカーゴールを動かす? 3人しかいねーじゃん、ムリムリ。
サッカーゴールは体育祭の邪魔にならないよう、校庭の隅、体育館の横まで動かされている。体育館の陰になっていて現在日陰。
小田とオレが網を持っておたおたしていると、タケちゃんはイカツイ応援団一同に、
「ちょっとー、こっち」
デカい声を掛けた。
サッカー部と野球部で構成される応援団がどやどやと走ってくる。ガタイが違う。圧倒される。オレらってしょぼいかも。
「「「「「これ?」」」」」
「そう。あっちの日向へ」
「「「「「おう」」」」」
うんしょ、うんしょとあっという間にサッカーゴールを移動させた応援団一同。
「さんきゅ」
「「ありがと」」
「「「「「じゃ」」」」」
応援団一同は走り去った。タケちゃんは一緒に網を広げてくれた。
「「ありがと」」
「じゃ」
爽やかー。清涼飲料水のようなタケちゃんを見送った。
やっぱタケちゃん、いいヤツ。
顔が半分見えなくても爽やか。
あれ? 似てなかった? 気のせい?
タケちゃんって、東城寺連に、見えてる分、似てないっけ?
「これで昼からの女子の障害物には乾くだろ」
「だな」
走って戻って、道具係。
3年の騎馬戦は午前の部の仕事は終わって、特等席から観覧した。
応援合戦タイムはねぎまばっか見てた。
全校の男子生徒に目隠しをしたい気分。エロい目で見てるやついるだそうなー。オレもか。
午前終盤プログラム、部対抗リレーでのテニス部は、勝負はどうでもいいグループ。
1グループが吹奏楽部や将棋部などの文科系。
2グループが柔道部、空手部、弓道部、卓球部、バドミントン部辺り。
3グループがテニス部、バレー部、バスケ部など。
4グループが見応えある陸上部への挑戦。陸上部、サッカー部、野球部、水泳部。
テニス部は3グループの1位だった。ラケットがバトン代わり。
オレは3番目に走った。ちゃんとバスケ部のでかい男を抜かしてチームに貢献。アンカーはミナトで、女子の黄色い声が飛んでたっけ。
そうそう、男子の前に女子の部対抗リレーもあって、ももしおはバドミントン部のリレーのメンバーだった。しかもアンカーでぶっちぎりに速かった。陸上部と張るかも。
部対抗リレーの最終グループ。陸上部への挑戦が始まる。
陸上部、サッカー部、野球部、水泳部。意外かもしれないがここに水泳部が入ってくる。なぜなら、しがない公立高校の水泳部は外にプールがある。だから年間を通して陸錬が多い。さすがにここに混じると4位になることが多いが、2位に食い込む年もあったらしい。
登場からして華やか。1~3グループのときとは大違い。
だってさ、メンバー紹介あるんだぜ? 巻き舌のプロレスみたいな紹介。
お、サッカー部のメンバーにはタケちゃんもいる。野球部の方には、ミナトから元カノを奪ったエース、門川半蔵もいる。なんか目立つヤツ多い。
サッカー部のアンカーなんてさ、投げキッス。あれができるヤツっているんだな。
「「「「「きゃーーー」」」」」
女の子がすっげー声出してる。
「あれさ、抱かれたい男ランキングで1位なんだって」
小田が教えてくれた。
「ふーん」
なんつーか、ワイルド系。肌の色黒っ。サッカー部だもんな。
さっき、ゴール動かしてくれたヤツじゃん。
「あーゆー人種って、どうしたらなれるんだろな」
「小田ぁ、オレは今の小田がいい!」
悲しいことゆーなよ。
「なれねーから心配するな、宗哲」
「なんかさ、さっきゴール動かしてくれたとき、爽やかだったよな」
「おう。悔しいけど、女って見る目あるよな」
残酷なくらい。
モテる男は生まれた姿じゃなくて雰囲気の方が大きいと思う。コミュ力高いし。
投げキッスを軽々やってのける立ち位置はマジ尊敬。他のヤローには真似できない。
ピストルの合図で一斉にスタート。
クラウチングスタートは流石の陸上部に軍配が上がる。
第2走者のときには、随分と差ができた。陸上部とサッカー部の一騎打ちだな。
第3走者はタケちゃん。2位でバトンをもらってぐんぐんと追い上げる。速ぇーー!
アンカーの第4走者にバトンが渡ったのは、1位と同時。
スタートしたとき、陸上部とサッカー部が並んだ。が、陸上部のアンカーは必死の形相で走り、投げキッス男は2位。
盛り上がったー。
野球部が3位で水泳部が4位。
「なーなー、タイム測ったらさー、水泳部よりもテニ部の方がよかったんだって、今年。で、来年は最終グループが、陸上部、サッカー部、野球部、テニス部になるらしい」
ミナトが教えてくれた。
「へー。そーなんだ」
他人ごと。だってさ、来年は後輩が走るから。夏で部活動は引退だもんな。
「先輩、なんてことしてくれたんですか!」
「オレら、足遅いんです」
「来年、男テニ、公開処刑じゃないですか」
リレーメンバーのミナトとオレは、後輩に怒られた。
勝ったのにさ。どーゆーこと?!
一番責められたのは、1番足の速い、アンカーのミナト。気の毒。
後輩から逃げるようにグランドから退散。
あ、調べてくか。名簿。
「あれ? 宗哲、どこ行くの?」
校舎とは別方向へ行くオレにミナトが話しかけてくる。
「校門で名簿見て来ようと思って」
「名簿?」
「なんかさ『東城寺』ってヤツがいるかどうか」
「あ、オレ、間違えられた」
「え?」
「『東城寺君?』って聞かれた」
「は? なんで?」
「分かんね。後ろから声かけられて、振り向いたら『人違いだった』って言われた」
「変なの」
「オレも見に行く」
言う前からミナトはオレと一緒に歩いてっし。
「ミナト、東城寺蓮って知ってる?」
間違えられたミナトに聞いてみた。
「名前は聞いたことある。昔の俳優だっけ」
「その人にそっくりな高校生の東城寺を探してるみたいでさ。オレも聞かれた。カメラ持っる人に」
ミナトと東城寺はまったく似てない。イケメンでも種類は様様。ミナトはふわーっとして優しい感じの外見。東城寺連はワイルドフェロモン系。
「あ、オレのこと『東城寺君?』って聞いた人も、カメラ持ってた」
「カメラでかい?」
「でかい。でかかった」
どうも保護者の中に東城寺を探している男が紛れ込んでいるらしい。
「東城寺ってヤツの親から頼まれた親戚とか? ほら、忙しくて応援に行けないから写真撮って来てとかさ」
世の中、うちの両親みたいに土日休みのサラリーマンと年中犬と遊んでる暇な(本人が聞いたらめちゃ怒りそう)専業主婦の家庭ばかりじゃないだろう。
「親戚だったら顔知ってるんじゃね? 頼むんだったら顔知ってる人だろ」
「あ、そっか」
ミナトの言うことももっとも。
正門を入ってるすぐの場所にテントがあり、保護者は名簿にチェックをしてプログラムを貰うシステムになっている。別にさ、チェックしなくても入れるけどさ。
一般公開で、ただの見学もOK。すっげー来場者数。横浜駅のバス停に案内の看板が出るほど。
とにかく正門には全学年の名簿がある。
個人情報うんぬんが煩い昨今、普段は自分のクラス名簿のみしか見られない。
「お疲れさまです」
「あら、ミナト君♡」
音楽の教師がいた。30歳くらいのおばちゃん先生。オレもいたのに、視線はミナトにロックオン。
女ってさ、年齢関係なくイケメン好きだよな。
「たくさん人、来てますね」
オレは来場者数を数えるフリをしながら「東城寺」をこっそり探そうと思った。
「ええ、いっぱい」
「先生、東城寺君って聞いたことありますか?」
おい、ミナト、最近は個人情報のうんぬんが……
「さあ。私が受け持ったクラスにはいないけど」
あっさり。
「オレ、さっき東城寺君に間違われたんですよ。でも聞いたことなかったから」
「あらー」
オレは名簿の名前を見ていった。
「ほら、こっちに入ったら? 2人とも肌綺麗なんだから、日焼けしちゃダメ」
いや、オレら男だし。
「ありがとうございます」
営業スマイルで、ミナトは先生の隣の席に座った。
「私が受け持ってないのは、こことこことここと……」
5教科に比べてコマ数の少ない芸術部門、そのせいか、音楽教師は1人で何クラスもを担当していた。
音楽教師が担当していないクラスや、美術、書道選択クラスと混じっているクラスをチェック。




