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書架の魔道士  作者: 綾 翠
流星の魔道士編
9/13

悪戯

短めです。


本当は一本で終わらせるつもりだったんですが、祐佳が思いのほか動く動く。




 祐佳は鼻歌交じりに樹々の下を練り歩いていた。

 まとわりつく可愛らしい妖精達を眺めながら目的の樹の枝を探している。


 けれどもなかなか良い枝が見つからない。

 地面には、小枝というほど小さいものがあれば祐佳の身長ほどの大きなものもある。

 樹の枝を折ってしまえばいいと思ったのだが、ゼータにそれはするなとストップがかかっているので、できない。


 ゼータの言葉に逆らうつもりのない祐佳は、地面に落ちている手頃な枝を取ってくるつもりだ。



「ネェネェアソボウヨ。」


 妖精が話しかけてくる。

 思わず、返事をしたくなるが彼等とは話をしてはいけないと厳命されているので無視をする。


「ネェネェ、アソボ、アソボ。」


 祐佳の良心はキリキリと痛んだ。


 妖精は駄々をこねる子供の様に祐佳の周りをグルグル回っていたが、彼が反応しないのを見ると興味を無くした様にどこかへ行ってしまった。


 その背中を見ると祐佳はほんの少し寂しくなった。


 少しなら話をしても良かったのではないかと思ってしまった。


 けれどもゼータの言葉を思い出し、首を振る。



 そんな風になんとか師匠の忠告を守ってしばらく経った頃だった。



「うわー、大きい樹だー‼︎」


 微かに小川の音が聴こえるひらけた草原に巨樹がそびえ立っていた。


 祐佳は思わず大きな声を出してしまう。

 はっ、とし、いかんいかんとかぶりを振るも、目の前の壮大な樹に向かって走り出す脚を止めることはできなかった。


 近くによると今までに見たことのないほど精霊や妖精が集まっているのがわかった。

 そのせいか大樹は淡いルスの光を纏っており、とても幻想的な光景が祐佳の目に写った。



 目の奥が熱くなった。

 喉から込み上げてくるものがあった。

 膝がカクカクと笑い、跪きたくなった。

 ずっと眺めていたいのに、どこか恐ろしい。


 大河の様に流れだす感情。



 嗚呼、これが畏怖なのか、と祐佳は悟った。



 ○*○


「おい、ゼータ。祐佳どっか行っちまったぞ。」


 大丈夫なのか、とロッカルは問う。


「ここのフエルサには大きな竜の気配はなかっただろう?」


「……ああ。」


「なら、そんなに心配することないんじゃないか?」


 川辺の小石をいじりながらロッカルに目も向けずにゼータが答える。


 いくら大きくないとはいえ、竜は竜である。

 まだマギアを使ったことがない祐佳はトラブルに巻き込まれても身を守る術を知らないだろう。


 けれどもゼータは近所の猫がネズミを捕まえた、とでも言うような調子で言ってのけた。


 ロッカルはそのなんてことない態度に腹が立った。



「おい、いいのかよ。あいつが危ない目にあっても。」


 なるべく普通の口調で話そうとしたが、低い声がでてきてしまった。

 そんな声を出した彼自身が束の間驚く。


 ゼータはようやく小石からロッカルに視線を向けた。



「大丈夫さ。可愛い弟子には少しの冒険を、だよ。」



 ロッカルは眉を寄せ、彼女の横顔をまじまじと見つめる。


 その顔はどこか遠くに向いていて、ロッカルに注がれているはずの視線すら、ここにはない場所を見据えていた。


 

 ○*○


 祐佳は困っていた。

 途方に暮れていた。


 祐佳はとにかく困っていた。



 先程まで明るかったが、今では日も暮れすっかり闇に包まれてしまっている。

 精霊の抱く僅かなルスの光を頼りに辺りを見渡した。


 はしゃぎ過ぎたのだろうか。

 ゼータと別れたところからかなり遠くまで来てしまったようだ。

 もはや、自分がどの方向から来たかすらわからない。


 祐佳は数時間前のはしゃいでいる自分を呪った。



「迷子………。」


 ポツリと呟く。


 その言葉を発すると途端に恐ろしくなった。


 静寂に包まれているこの空間にまるで独りで取り残されたような……。


 祐佳は身震いをした。

 地面に腰を下ろし、自分の膝を抱える。


 ゼータもロッカルも居ないここでどうすれば良いのか。

 ここはどこなのか。

 自分は帰れるのか。

 もしかして、このままゼータ達に会えないのでは………。



 思わず挫けそうになる心を奮い立たせる。


 冗談じゃない。

 こんなところで迷子だなんて情けない。

 早く戻らなくては。



 すくっ、と立ち上がり、自分がどこからきたのか手がかりを探す。


 辺りをゆっくり観察する。


 暗いところで目を凝らす彼は滑稽な顔をしていたのだろう。


 周りの妖精達はクスクス笑った。



 そんな妖精達を気にすることなく、グルグルと辺りを見回す。


 そこで祐佳は恐ろしいことに気づいた。


 おかしい。

 先程いた場所とはまた違う景色が見える。

 比喩ではない。僅かながら見ている場所が、いや、祐佳がいる場所が先程と違う。

 樹々の生え方や、より近く聴こえる小川の音とか。



 妖精達の笑い声が更に大きくなった。



(ここは、何処だ?何処だ?何処だ?)



 見れば見るほどに見覚えがないこの奇妙な場所に祐佳は寒気を覚えた。


 先程までいた場所から更に離れてしまった?

 いやそんな訳は………。



 じゃあこの場所はなんだ。



 心の声が祐佳に耳打ちをして現実逃避を許さない。



「大丈夫。ここを早く抜けよう。」


 自分で自分を言い聞かせ、心を落ち着ける。

 そして、足を踏み出………せなかった。


 何処に進めば良いのか全くわからない。

 もし、進んでいる方向がゼータ達がいる場所じゃなきゃどうするんだ。


 祐佳はチキンな自分を自嘲した。


 そんなことを考えてどうするんだ。

 早くあの二人の元へ。


 ゼータとロッカルの顔が急に浮かんだ。


 不思議と胸の辺りが暖かくなる。


 そうして、祐佳は足を踏み出した。



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