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書架の魔道士  作者: 綾 翠
流星の魔道士編
8/13

フエルサ

 祐佳は書庫にある椅子に座っている。

 目の前には手紙を読んでいるゼータがいる。


 先程受け取った学院からの手紙を彼女に渡したのだ。



「…樹の枝、魔法石。」


 ぶつぶつとゼータが呟く。

 眉間にしわを寄せ、何か考え事をしているように見える。

 すごぶるご機嫌というわけではなさそうだ。


 祐佳は居心地が悪く、身じろぎをした。




「………あの、ゼータ師、何故その二つが必要なんですか?」


 祐佳が意を決して質問する。


 すると彼女は、手紙から祐佳に向き直り、微笑んだ。



「それはね、杖を作る為だよ。」


「杖?」


「あぁ、樹の枝を削いで形にして核となる魔法石を埋め込むのさ。」


 魔法石。

 それはマナを抱く精霊と交渉しやすくする媒介だ。

 精霊の血を引く妖精はともかく、精霊などと交渉おろか、彼等を見つけることすらままならない人間はマギアを使う際、魔法石が必須になってくる。

 もちろん、生来、精霊と交渉できる人は魔法石を使わずともマギアが使える。


 そして樹の枝。

 これはオドとマナを編み込み、マギアとして昇華させるために必要な道具だ。


 この二つを合わせた杖はマギサの誇りだ。マギサは杖を持つ義務が生じて、それはまたマギサであることの証明書でもある。

 そして、罪を犯したマギサは杖を剥奪されるという。



 ゼータは祐佳に説明した。


「それじゃ、その二つをこれから集めるんですね?」


 納得した祐佳は頷きながら確認した。


(樹の枝はそこら辺にあるからいいとして、魔法石はどこにあるんだろう?)


 考える祐佳を見たゼータはフッフと笑い声を漏らした。


「この二つとも特別な場所で手に入るんだよ。そこら辺にはないぞ。」


 言われて祐佳は頰を赤くした。


 言われてみれば杖に使うようなものだ。そこら辺にあったら困る。



「これらはね、フエルサというところで採れるんだ。」


「フエルサ?」


「あぁ。」


 フエルサとは精霊や妖精がたくさん身を寄せている場所だという。妖精がたくさんいると彼等から放出されるマナがその土地を活性化させ、魔力を帯びた樹々や魔法石が誕生するらしい。


「でも、大抵のフエルサには妖精たちの主…竜が縄張りにしているからね。業者じゃなきゃ近づけやしないよ。」


 ゼータが嘆息した。


「じゃあ、店に行って買うんですね?」


 祐佳は合点がいった。


 ゼータが微笑む。


「そうだよ。普通はね?」


「普通?」


 祐佳は首をかしげる。


「ハァァァ、全く、近くにある魔導具店が廃業したんだよ!国内の魔導具店は他に王都(シャングリラ第二都市(レガリアしかないんだ‼︎」



 ゼータが机に突っ伏し、呻く。



「あ、あ、あぁ、どちらともここから遠いですもんね。馬車だと代金が………」



 突如、腰に手を当て睨んでくるクレラが頭に浮かんだ。

 祐佳は身震いをする。



「…あの、マギアは使っちゃ…」

「だめだ。」


「……はい。」


 恐る恐る提案したが速攻で切り捨てられてしまった。


 ゼータは滅多にマギアを使わない。

 今まで祐佳が見てきたマギサは何かとマギアを使おうとするが彼女は違う。

 まるでマギアを使うことを躊躇うように。


(昔、マギアを失敗したのかな?)


 マギアを失敗させてそれ以来マギアを使うことが怖くなるマギサは少なくない。


 マギアを使うという行動は大きな力を編み出す分リスクも大きいのだ。


 彼女はそうなのだろうか。



「そういうわけで、今この二つを入手するのが難しいんだ。」


 ゼータの声が祐佳を思考から引き戻す。


「…それって、どうすれば?」



 彼女は手を顎に当ててうーんとうなった。


「方法としては、クレラに全力でお願いして金を借りるか…」


 祐佳の頰が硬くなる。

 学院の試験の際色々と彼女から金を借りた。これ以上の借金は御免だ。


「…他には、フエルサに直接行ってこの二つを集めるか、だね。」


 選択肢は一つしかなかった。



 ○*○


「絶対に大声を出すんじゃないよ。竜に睨まれたら厄介なことになるからね。」


 ゼータが祐佳の耳元で囁く。


「厄介どころか、丸焦げになるか、爪で八つ裂きにされるか、はたまた子竜の餌にされるかだぞッ!」


 ロッカルが唸る。


「それをどうにかするのが、私とお前のマギアだよ。」


「………はいはい。」


 ロッカルは腹を括ったようだ。


 彼はフエルサに行くと言った時、猛反対をした。契約者のゼータがフエルサという危険な場所に行くのだから、契約妖精である彼は同行するのが基本だ。

 けれども彼は首を縦に振らなかった。

 ゼータと祐佳を止めようとしたのだ。



『なんでそんなところに行くんだよ‼︎クレラから金借りゃいいだろ⁉︎』

 

『クレラから借りた金はかなり…ある。これ以上はかりるのはよしたいんだ。』


『だからってなんであんなとこ⁉︎おいおい、竜がいるんだそッ⁉︎竜だぞ⁉︎竜⁉︎』


『………そうか、ロッカルは反対なんだな?』


『当たり前だ!あんなところ危険過ぎる‼︎』


『じゃ私と祐佳でいく。ロッカル、お前は留守番してなさい。』


『………はぁ⁉︎』


『いいんだ、私と祐佳だけで行くから。』


『……………………じゃぁ、俺もいく。』



 最後まで反対していた彼だったが結局、ゼータに言いくるめられ渋々同行することにしたのだ。


 なんだかんだで、彼は二人のことを心配しているから。



 というわけで今三人はヨタから一番近いフエルサに来ている。

 正確にはフエルサの周りにある森林に、だ。


 ここには背の高い樹々が生い茂って日光が届いないない。

 それでも周りが明るく見えるのは精霊達がルスを抱いて辺りを漂っているからだ。


 三人は祐佳の胸元まで伸びている草を掻き分け、ほんのりと覗くこの森の向こうに注ぐ陽の光を目指して歩く。



「祐佳、注意しておけ。妖精の戯言に耳を貸しちゃダメだ。」


 ゼータは深妙な顔で言う。


「…なんでですか?」


 祐佳は首を傾げ、猫妖精(ロッカルを見つめる。


「ロッカルは今でこそこうだが、昔はもっと荒れていた。ここの妖精達もそうだ。」


「あ、荒れていた?」


 祐佳はギョッとする。


 それを聞いたロッカルが心外だと言わんばかりに口を挟む。


「俺はアイツら程荒れてなかったぞ。」


 それを聞いたゼータが微笑む。


「当たり前だ、もしお前が私にふざけたことを囁いていたらお前は妖精界(ティル・ナ・ノーグに還されていたさ。」


 変わらないゼータの微笑みにロッカルは慄いた。


 妖精界(ティル・ナ・ノーグは祐佳たちが存在する世界との平行世界の一つである。そこには妖精達が住みついており、稀にこの世界から人間が迷い込んでしまうことがあるらしい。そして、その人間達はほぼ帰ってこない。帰ってきたとしても、妖精となってしまうらしい。何故かは分からない。とにかくそこは恐ろしい場所なのだ。


 本で読んだ事を思い出した祐佳はロッカルをまじまじと見つめた。

 ロッカルは身震いをしていた。

 猫妖精であっても、妖精界(ティル・ナ・ノーグは恐ろしい場所らしい。


(妖精が怖いなんて思えないけどなぁ。)


 祐佳はロッカルを見ながら思う。

 彼とは非常にウマが合う。日本からこの世界に来てあまり孤独に苛まれなかったのも彼が居たからだ。


「…祐佳、ほかのヤツらを俺と一緒に思うな。俺やほかの契約妖精は言ってしまえば、かなり…異端なんだ。」


 そんな祐佳の視線に気付いたのかロッカルが苦々しく言う。

 彼にしては珍しく祐佳の思考をよく汲んでいた。


「………うん。」


 祐佳はそれ以上何も言わなかった。


 彼に言葉をかけてはいけないような気がしたからだ。



 居心地の悪い沈黙の中で三人は黙々と草を掻き分け、前へ進んだ。


 陽の光が近づいてくる。



 ○*○


 そこは恐ろしい程に美しい場所だった。


 樹々が風に触れられ優しく揺れ、小川が陽の光を受けて眩しく光っていた。

 辺りには妖精や精霊がふわふわと漂っている。


「綺麗なところですね。」


 祐佳は感嘆の声を上げた。


 それを聞いたゼータは隣で複雑そうな顔をした。


「………確かにここは美しい場所だ。でもね、祐佳、見た目に踊らされてはいけないよ。」


 祐佳はゼータの言った意味がわからなかった。

 近いうちにこの意味を知ることなるのだが。


「それじゃ、適当な樹の枝を取って来な。何本か気に入ったのを持ってくるといい。」


 祐佳はゼータの言葉に頷くと、直ぐにフエルサに植生する巨樹に向かって走っていった。

どこまで書くか予定を決めていても、祐佳達が私の手を引いて思えない場所に連れて行ってくれます。


私はその手に引っ張られすぎないよう精進しなくては………

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