9 キス・・・?
ちょっと放課後に出て来てくれないかな?」
しばらくして小泉君から電話があったので、あたしはびっくりした。
だって物静かな小泉君とは、ほとんど話した事がないからだ。
「何であたしだけ?」
「ワケは会ったら分かるから」
「今テストで忙しいよ」
「ちょっとでいいんだ 、お願い」
小泉君はあまり感情を出すタイプじゃなかったので、誘ってくるのが不思議でならない。
約束の駅に着くと、私服の小泉君が微妙な顔で待っていたが、あたしを見て、凄く安心したよ、みたいな笑顔で近付いて来た。
「ごめんね、舞子ちゃん、ちょっと歩くんだ」
「一体なに?」
デートじゃないのは分かった。
小泉君から甘い雰囲気は、一切感じられなかったからだ。
夕闇の迫る公園の入り口に来ると、彼はベンチを指差した。
「ほら、行きなよ」
あっ…
あたしは体が硬直した。
「仲直りしなよ、俺は消えるから」
「でも・・・」
困惑するあたし。
「行きなよ、俺は飯田に頼まれたんだ。 全く世話が焼けるよ、2人とも」
小泉君はあたしの肩を押し出すと、SMAPの吾郎ちゃんみたいな顔でバイバイした。
仕方がないのでベンチに近付く。
飯田君はなぜか、アッチを向いたままだ。
「飯田君…?ここで何して居るの?」と聞いてみた。
そしたら、
『小泉の奴に、君がここで待って居ると聞いたから』だと、なんだそれ?
呼び出したのそっちでしょ?
と思ったけど、もうどうでも良かったので、そっと隣りに座った。
今思うと、彼も不器用なのだ。
17歳なら当たり前だった。
私は自分だけが、もうどうしょうもなくカッコ悪く、異性と対峙しているのだと・・・どもったり、つっかえたり、本心とは真逆の行動に出たり・・・
「飯田君・・髪の毛切ったんだね」
あたしは必死に話題を探した。
「ちょっと切りすぎたよ、床屋で誰かさんの事を考えている内に、短くされちゃって」
飯田君の表情も少し和らいだ。
「松子とテル子の事だよね?
何で三人別々に会っていたの?
みんなを試していたの?」
「誤解だよ、あれって加部に頼まれたんだよ!
テル子が・・・俺を選んでいるって。 だから、舞子と付き合う為に、カモフラージュしたんだ」
それで松子にも声を掛け、スクランブルにしておけば、周りにバレないからと飯田君は釈明した。あたしは頭が混乱した
「だからさ、二人とはボランティアなんだよ」
「ボッ、ボランティア~っ!」
飯田はナルだからって、加部の言葉がフラッシュバックした。
「それに不公平になるじゃないかぁ」と飯田君は強調した。
なっなんか変だよ。
こいつ。
でも、あたしには好きって気持ちの方が強かった。
ふいに、飯田君の両手があたしの顔をはさんだ。
ひえ~っ!
何?
何?
飯田君の指の熱が、あたしのほっぺの温度を上げる。
あたしの目がゆるゆるして来て、飯田君の顔が大きくなった。
てか、アップ!!どあっぷ。
「舞子ちゃん」
◇捕捉
この展開になる前、飯田君は私に歌を歌ってくれたの。
私と松子 テル子 。
それぞれ違う歌だったので…何のこだわりだったのさ?
飯田、女の好みバランバランなんやけど !
く、くる、
来るよ~っ!飯田君は、あたしの顔を挟んでじっと覗き込んでいた。
きっ・キス?キスなのか?舌は入れるの?どうすんの?それとも最初はやらせない?誰か教えて~っ
「舞子って・・・
やっぱり、赤ちゃんみたいだね」
「はい?」
赤ちゃんて何?それって、ほめてる?バカにしてる?
飯田君は、あたしから手を離した。
肩透かしかよっ!?
巴投げでビューンて飛ばされたみたいじゃないか!
その時、何故飯田君が、あたしの顔から手を離したかが分かった。
公園の端のブランコに、学生らしき黒い集団が居て、こっちを見ていた。
嫌な予感。
そして4、5人のその集団は、ゆっくりとこっちに歩いて来たのだ。
全員目付きが悪い。
「見ちゃ駄目だよ」飯田君が小声でささやいた。
いつかのドンケの姿が浮かんだ。
ボコボコにされて、可哀相なドンケ・・あたしの心臓が早くなる。
あの時は松子とテル子がいた。
皆が居たから、何も考えずに夢中で逃げれた。
それにあの時は、ドンケが逃げな!!と叫んでくれたのだ。
自分が殴られる寸前に・・・
だから体にスイッチが入った。
あたしの脇の下に、緊張の汗が流れる。
怖い・・
「おい、お前」
今時丸刈りの、ガタイのいい丸顔のおっさんみたいに老けている男が、
「今俺達に、ガン飛ばしてたよな? アアッ」と吠えた。
「見て無い」
飯田君の目の色も変わっていった。
ある意味そっちの方が怖かった。
男たちは飯田君をぐるりと囲んだ。殴る気満々の空気。
全員制服で、胸にkと言うバッチが光っていた。
(k、 ○士体館だ!)
バリバリの硬派!
噂は知ってるけど、電車通学中、たまに見かけたりする程度。
男子校のせいか、女の子と一緒なんて事もない。
彼らは屈強な男だけの集団で、周りを威嚇するイメージが強い。
絶対絶命だ!
続く




