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限りなく馬鹿だった頃  作者: 京香
12/13

12 タイムマシンで

もしもタイムマシンで、その瞬間に戻れたら、

あたしは、自分が赤いポストに投函する封筒を奪っただろう。


何故なら、真治君に上げた、あたしの一番大事なものが、封筒に入って居たからだ。


それを封筒に入れるまで、あたしは一応何度か迷ったのだ。


本当にこれ?

何か間違って無い?

でもこれしかない!

あたしの一番大事にしている物が、欲しいと言われたのだ。


だったらこれだよ。

あたしが小学生の時、大好きな親戚のお兄さんが、あたしにくれた物。


蛇の抜け殻。

蛇の抜け殻。

蛇 蛇 蛇 〜〜〜

うすいうすい、繊細なふわふした、不思議な模様の・・・

透き通った衣。


アダムを誘惑した蛇が、脱ぎ捨てて行ったドレス。



あたしは・・・


良くそれを光にかざして、あきもせずに眺めていたのだ。


美しい。


…仕方無いじゃん。

本当にあたしには宝物だった。


だからティッシュにそっとくるみ、封筒に入れて切手を貼って、投函した。

赤いポストの向こう側の、限り無い闇に向かって。


だけど…


返事が無かった。


やっぱり間違ったか?

世紀の大誤算だ。


アハハッ。

この話をする時…あたしは、泣かずにはいられない。

哀しくておかしい。

おかしいのはお前だろと、言われる。

もしも、メールがあったなら…写メして確かめたかも知れない。

あるいは、お前ふざけんなよと、喧嘩の出来る関係なら、違ってたかも知れない。

あたし達は、二人とも相手に夢を見る17歳だった。


夢の分だけ、真治君は失望したのだ きっと。

あるいは、蛇の抜け殻を前にして、絶句したのだろう。

リアクションが分からなかったか、意味不明で、困惑したのか、とにかく、指輪に対して蛇だからねぇ・・・


そして、向こうから何も言って来なかったので、あたしもそのままになってしまった。

日が経つにつれて、聞くのも怖くなった。


嫌われた・・

それだけは分かった。

ハッキリと。



蛇の抜け殻ネタで、加部と貞子は、腹を抱えて笑った。

そして、又友達になった。

松子は気の毒そうな目であたしを見た。

「それってタダの嫌がらせだよ!」と、テル子までが言ったので、あたしはいつの間にか、校内で一番ダサい女になった。


卒業式の日は、涙が一滴も出なかった。

サイコな貞子までが泣いて居たというのに、やっぱりあたしは、何処かずれているのかも知れない。


真治君は大学生になって、さらにモテモテって噂を聞いた。


加部はしばらく遊んだ後、オッサンみたいな人と同棲した。


松子は卒業してすぐに、新しい彼氏が出来て、小泉君を捨てた。

捨てられた小泉君は、時々あたしに連絡して来てお茶をした。

お互いに淡々とした感情で、けして、ある一線より上には行かない付き合いだった。


「僕ね、自分ちが建具屋だから職人になるよ」と言って笑った。


貞子は奇跡的にコスメ販売員。


テル子は、風紀委員の片鱗も無い服装のk大生になり、夜遊びしまくったので女は怖いと思った。


飯田君は一人でポツンと立って居るのを、小田急線で見掛けた。

税理士の資格の為、経済学部で勉強しているらしい。

そして、飯田君と一触即発だった神崎将とは、新宿行きの電車の中で遭遇した。

髭が伸びて、心理学の本をイッパイ抱えていた。

あたしを覚えて居たのか、そばに寄って来て一言、

【押忍】と言たので、あたしも【ウッス】と答えた。


そしてそのまま、振り向かずに、人込みに消えた・・



ドンケ。

ドンケはどうしたんだろう?


ドンケ・・

小池 精気という名前がありながら、一度もその名前で呼ばれた事が無く、誰もが蔑視を込めて「ドンケ」と呼んでいた。

ドンケが何処で何をして居るか、誰も知らなかった。

ただ思い出すのは、あの声と真っ黒な顔だ。


「逃げな!」

あのたった一言が今でもよみがえる。

鈍くて要領が悪くドンくさいヤツ…


ついてないヤツ。

空気読めない。

だから殴られると思ってた。


あたしには、男だとも見られて無かったドンケ…彼は、あたしに殴られても、へーっちゃらで年賀状を寄越した。

媚びて居るわけでは無く、それがドンケなのだ。

砂浜でボコボコにされた時も、

普通ならもっと大騒ぎするか、トラウマになったり、何百倍もの言い訳を女子逹に並べるんじゃないだろうか?

初めて会った女子逹の前で、メンツ丸つぶれの事件に遭ったのだから。


それなのに、ドンケときたら、「いたたっ」だけ・・・


彼はただ、


飯田君のような機転と説得力を、不幸にも持ち合わせて居なかったのだ。

しかし、窮地に陥った時、

ドンケの発した言葉は【きゃあ】でも【許して】【金払います】【マジかよっ!】

でも無かったのだ。


助けてくれる人も居ない、砂浜に響いたドンケの言葉は、青空を突き抜けて、あたし達三人の体を動かした。


『逃げなっ!!』


今たった一人と会えるなら、

ドンケに会いたい。


彼は殴られたのではなく、守ってくれたのだ。


だからあの頃の私が、置き忘れて来たままの言葉を届けなくては。


殴ってごめんね。

そして、

助けてくれて、

ありがとうございました。


ドンケが幸せに暮らしていますように・・・

それが、限りなく馬鹿だった私の願いです。











お読みいただきましてありがとうございました。

蛇の抜け殻を送らなくても、多分振られていたことは間違いありません。

私の勝手な話お付き合いいただきまして感謝です。

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― 新着の感想 ―
こういう結末だったのですね! もし好きな子から抜け殻が送られてきたら 嫌われたと考えてしまいますね、きっと… 10代の時の恋って、大人になって思い出すと、とても恥ずかしいことばかりですよね 17歳ら…
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