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七・不思議な子

 その日の午後。

 シャノンさんのお母さんに居候の許可をもらい、昼食を取った後、私はシャノンさん、ハーヴェイさんと共に屋敷を出た。


「……」


 そこで私は、改めて実感する。

 ここは、本当に異世界なんだ……。

 石畳に、木造のおしゃれな建築物が建ち並ぶ、中世ヨーロッパ風の街並み。

 私は、アニメやゲームに登場するような、こんな街並みをいつか見てみたいと思っていた。

 だが今は、この景色を見ると、複雑な気持ちになる。


「リオ、どうした?」


 私の異変に気付いたのか、ハーヴェイさんが声をかけてきた。


「あ……私、こういう街並みを見るのが初めてで……」


 私の言葉に、今度はシャノンさんが声をかけてくる。


「リオ……辛い?」


 私の心境を察したのか、シャノンさんは心配そうな表情だ。


「辛くない……って言ったら、嘘になるかな」


 私は、自分の今の気持ちを正直に口にした。


「そうか……辛いよな。いきなり知らない世界に飛ばされたんだもんな……」


 ハーヴェイさんも、悲しげな顔をする。

 私は、二人に心配をかけまいと、精一杯の笑顔を作って見せた。


「でも、大丈夫です。元の世界に帰れるって、信じてますから」

「……そうか」

「……ええ、そうね」


 二人は、安心したように笑みを浮かべた。


 それからしばらく歩いて、不意にハーヴェイさんが口を開いた。


「……やっぱり、チョーカーがないと目立つな」

「そうね……」


 チョーカー? 一体何の事だろう。

 私が不思議そうな顔をしている事に気が付いたのか、ハーヴェイさんが説明してくれた。


「精霊は、自分が何の属性なのか示すため、属性によって決められた色の魔石のチョーカーを身に付けるんだ」


 ま、魔石? これまたファンタジーな言葉が飛び出したなぁ……。


「魔石って何ですか?」


 私の疑問に答えてくれたのは、シャノンさんだった。


「魔石っていうのは、魔力を秘めた石の事よ。これを持っていると、魔力のない人間でも魔法が使えるようになったりするの」

「へえ、そうなんだ……」


 言われてみれば、確かにシャノンさんもハーヴェイさんも、宝石のような石がはめ込まれたチョーカーを付けている。シャノンさんは赤い石、ハーヴェイさんはオレンジ色の石だ。


「リオは、チョーカーを付けていないから目立つのよ。これから買いに行こうかと思ってるんだけど……リオは人間だし、魔法も使えないだろうから、何色のチョーカーにすれば良いのか、悩むところね」

「うーん……それって、どうしても付けなきゃ駄目なの?」


 精霊じゃないのに、精霊である証のチョーカーを身に付けるなんて、何て言うか、恐れ多いなぁ……付けない訳にはいかないのかな。


「それは……考えた事もなかったわね。私達は、付けるのが当然だと思ってたから……まあ、壊れたとか、そういう理由で付けてない精霊はいるけど……あら?」


 シャノンさんが、前方を見て声を上げる。


「シャノンさん、どうしたの?」

「あの子……怪我してるわ」

「え?」


 シャノンさんにつられて前方を見ると、地面に座り込む一人の少年の姿があった。

 私達は、その少年の元に駆け寄った。

 見ると、少年は転んだのか、膝をすりむいており、血が出ている。

 私は、少年の前にしゃがみ込むと、できるだけ優しい声になるよう意識しながら声をかけた。


「ねえ、君。大丈夫? 転んだの?」


 少年は、泣きそうな顔で頷く。


「うん……痛いよぉ……」


 どうしよう。絆創膏なんて持ってないし、この世界にはそんな物ないだろうし……。

 私は、何とかして少年の怪我の治療をしてあげたいと思った。

 けど、私にはその(すべ)がない。どうすれば……。

 と、その時だった。ーー私の手が、勝手に動いたのは。

 まるであの時、魔法陣の浮かび上がった池に引き寄せられた時のようにーー私の手は、自然と動いた。

 そして、私が少年の膝に手をかざすとーー何と、手のひらの辺りから光が出現したのだ。


「「……!?」」


 シャノンさんとハーヴェイさんが、息をのむのがわかった。

 柔らかな光は、少年の膝を包み込み、傷口がだんだんと塞がっていく。

 そして、光が消える頃には、少年の膝の怪我は完全に消え去っていた。

 な、何これ!? 一体どうなってるの……!?

 私は驚きのあまり、口が開いてしまった。


挿絵(By みてみん)


「わあ……! お姉ちゃん、光の精霊さんだったんだね!」


 少年は笑顔でそう言って立ち上がると、私に向かってぺこりと頭を下げた。


「えっと、ありがとうございました!」

「え? あ……う、うん……」


 あまりの出来事に、私は呆然としてしまい、少年の言葉に何と返して良いのかわからなくなった。


「それじゃあ、僕はもう行くね! ほんとにありがとう!」


 そう言って、少年は走り去っていった。


 私は、信じられなかった。

 少年の怪我があっという間に治った事もそうだが、何より、その怪我を治したのが自分なのだという事が。

 私は、自分の両手のひらを見つめた。


「リオ! あなた、光魔法が使えるの!?」


 驚いたようなシャノンさんの声に、私は我に返った。

 私は立ち上がり、シャノンさんとハーヴェイさんの顔を交互に見ながら言う。


「光魔法……今のが?」

「ああ、そうだ。君、どうして魔法が使えるんだ?」

「え、えっと……よく、わからないんです。身体が勝手に動いて……こんな事、初めてで……」


 すると、シャノンさんとハーヴェイさんは、お互いに顔を見合わせた。

 この二人が喧嘩をせずに顔を見合わせるなど、天変地異の前触れかとも思ったが、今はそんな事を考えている場合ではない。


「あ、あの……私、おかしいのかな?」


 私は不安になって、そう尋ねた。


「おかしいって言うか……あなたは、不思議な子よね」


 それって、遠回しに「おかしい」って言ってるんじゃ……まあ、いいか。

 その後、私達は再び歩き出したものの、私の頭の中は先程の魔法の事でいっぱいだった。

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