表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/52

五・梨央とシャノン

 朝食を終えると、私とシャノンさんは先程私が眠っていた部屋へと戻ってきた。

 私達は、四人掛けテーブルの椅子に、向かい合って腰掛けていた。

 シャノンさんに「気になる事があったら何でも聞いてね」と言われたので、私は彼女に色々と聞いてみる事にした。


「シャノンさん」

「ん? 何?」


 ……これは、聞いていいのだろうか。

 怒られるのを覚悟で、私は質問を口にする。


「あの……ハーヴェイさんとは、どういう関係なんですか?」

「あら。ハーヴェイの事が気になるの?」

「あ、異性として気になるとか、そういう意味じゃないですよ!?」


 私が慌てて両手を左右に振ると、シャノンさんはいたずらっぽく笑った。


「ふふっ、わかってるわよ。彼はね、地の精霊なんだけど、私の幼なじみで護衛役なの」


 あ、幼なじみだったんだ。そんな風には見えなかったけど……。


「いいなぁ。幼なじみって、憧れちゃいます」

「そう? まあ、悪くはないわね」


 幼なじみ同士で恋仲になるとかだったら、乙女ゲームとか恋愛小説みたいですごくロマンチックだけど……この二人はどうなんだろう。恋愛感情は持ってないのかな?

 気になるけど、シャノンさんに聞いたら怒られそうな気がするので、やめておこう。

 代わりに、他の疑問を投げかける事にした。


「シャノンさんは、このお屋敷で暮らしてるんですか?」

「ええ。私はこの屋敷で母さんやハーヴェイ、使用人達と一緒に暮らしてるの」


 すごいなぁ。護衛がいたり、使用人がいたり。

 と、そこで私は、ある事に気が付いた。

 あれ? そういえばシャノンさん、今お父さんの事を口にしなかったな……。いないのかな?

 まあ、理由があって言わないんだろうし、あんまり突っ込んで聞かない方がいいよね。

 私が思考を巡らせていると、シャノンさんの口からこんな言葉が飛び出した。


「あなたも、これからここで暮らす事になるのよ」

「えっ!?」


 こ、ここで暮らす!? 私が!?


「そ、そこまでお世話になる訳にはいきません!」


 私は思わず椅子から立ち上がった。

 しかし、シャノンさんは心配そうな表情でこう言う。


「だって、リオは行くあてがないでしょう? この世界のお金だって持ってないだろうし……」


 確かにその通りだ。私はこの世界に頼れる人なんていないし、お金も持っていない。


「そ、それはそうですけど……でも、申し訳ないです!」

「そんな事、気にしなくていいのよ。困った時はお互い様でしょう?」

「う……で、でも……」


 なおも食い下がる私に、シャノンさんは少し困った様子で、顔に手を当てる。

 しばらくして、シャノンさんは何かを閃いたように、ポンと手を叩いた。


「じゃあ、提案があるんだけど」

「え?」

「あなた、ウェイトレスの仕事に興味はある?」

「ウェイトレス?」


 何故ここで突然ウェイトレスの話になるのだろう。

 私は椅子に座りながら、首を傾げた。


「ええ。実はね、私とハーヴェイは近くの喫茶店で働いてるの。陽光っていうんだけど」


 喫茶店で働いてる?

 それってひょっとして、さっきの喧嘩(と言うより、一方的な暴力だったけど)と関係があるのかな。昨日、無断欠勤したとか言ってたし。


「だけどハーヴェイは昨日、無断で仕事を休んだのよ。全く、人手が足りないっていうのに……」


 やっぱり、そういう事だったんだ。


「それでね、もし良かったら、あなたにも陽光で働いてもらえないかなって思ったの」

「え?」

「こっちは人手が増えて助かるし、あなたもお金が手に入るでしょう? とりあえず、お金が貯まるまではこの屋敷で暮らして……お金が貯まってから、ここを出て行くのか、それともここに住み続けるのか、考えても遅くはないと思うわ」


 確かに、それは魅力的な提案だ。

 けど……私にできるかな?


「でも私、今まで一度も働いた事がなくて……」

「大丈夫よ。私や他の仲間が、一から教えてあげるから。安心して」


 私は少し思案した後、答えを出した。


「……わかりました。私を、その喫茶店で働かせてください!」


 私の返事に、シャノンさんは満面の笑みを浮かべた。


「決まりね」


 シャノンさんは、壁の時計を確認する。時刻は午前七時二十八分だ。


「実は今日、店が定休日だから、九時頃にその喫茶店のマスターとウェイターがあなたの様子を見に来るのよ」

「え? そうなんですか?」

「ええ。アールヴが、あの二人だったらリオの力になってくれるだろうと判断して、事情を説明したの。後、ハーヴェイにもね」


 私がこれから働く喫茶店のマスターとウェイターさんかぁ。どんな人達なんだろう。きっと、良い人達だよね。

 私は期待に胸を膨らませる。

 と、そこで突然、シャノンさんが何かを思い出したように声を上げた。


「あ……そういえば、すっかり忘れてたんだけど」

「え?」

「あなた、変わった格好してて目立つから……私の服で良ければ貸すけど、どう? 体格もあまり変わらないみたいだし、サイズは大丈夫だと思うんだけど……」


 私から見たら、シャノンさん達の方がよっぽど変わった格好してるんだけど……私の格好って、そんなに変なのかなぁ。まあ、異世界だし仕方ないのかな……。

 この格好で外を歩いてて注目を浴びたりしたら嫌だし、シャノンさんのお言葉に甘えよう。


「じゃあ、シャノンさんの服、借りて良いですか?」

「ええ、もちろんよ。じゃあ、一緒に私の部屋に行きましょう」


 そう言って、私達は椅子から立ち上がった。


 * * *


「うん、すごく似合ってるわ!」

「そ、そうですか?」


 シャノンさんの部屋にて。

 シャノンさんの数ある服の中から、私は気になった服を借りて試着してみた。

 真っ白なミニワンピースに、淡い桃色のカーディガンという組み合わせだ。

 これが一番、私が普段から着ている服に似ていて、しっくり来るのだ。


挿絵(By みてみん)


「その服、あげるわ」

「えっ、良いんですか?」

「ええ。あなたにすごく似合ってるんだもの」

「あ……ありがとうございます」


 私は、自分の頬が熱くなるのを感じた。


「一着だけじゃ困ると思うから、あと何着かあげるわ。さあ、好きなものを選んで!」

「えっ、でも、そんなにもらう訳には……」

「いいから、いいから!」


 シャノンさんは、とても楽しそうだ。

 私も、つられて自然と笑顔になる。


「ふふっ。私、女の子の友達って初めてだから、すごくドキドキするわ」

「え……友達?」

「ええ。私達、年は少し離れているし、まだ出会ったばかりだけど、もう友達でしょう?」


 シャノンさんのその言葉に、私はすごく嬉しくなった。

 友達。この世界に来て、初めての。

 嬉しさのあまり、視界が滲む。


「……はい! シャノンさんは、お友達です!」

「ふふっ。友達なんだから、敬語はやめて」

「あ、はい……じゃなくて、うん!」


 その後も、私達は一緒に何着かの服を見繕った。

 この世界に来て、最初は戸惑ったし、今でもまだ不安だけど……。

 友達になってくれたシャノンさんのおかげで、前向きになれるような気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ