探偵事務所アンドロマリウス
喫茶店サザンクロス二階・探偵事務所アンドロマリウス。
「あら、お兄様。お帰りなさい」
シスター服の少女が水晶玉を覗いている。
「百合子、来てたのか」
「そろそろ診察の時間なので、ログアウトするつもりです。午前中の依頼は、机の上にあります」
「助かるよ」
「あら……」
響の後ろの青ジャージ、霧夜を見て
「お友達ですか?」
珍しくこともあるんですね、と百合子は目を丸くする。
霧夜は鼻を鳴らすと
「友達じゃねぇっての。よくわからんネットゲームに、勝手に連れてきやがって」
「クラスで浮いてた不良君だよー」
あははは、と棒読みの響。
「ずいぶん、仲が良いのですね。霧夜さん、兄をよろしくお願いします」
それでは失礼します、と百合子は一礼してログアウト。
「き、消えた」
眉を寄せた霧夜に
「現実に戻っただけさ」
「お前の妹、どっか悪いのか?」
「昔から体が弱いんだ。肉他的に制限されている現実より、こっちは自由だからさ」
最近では病院で治療の一環として使われている、と響は語る。
机の上の資料に目を通し
「……ところで、さっそく手伝ってもらいたいんだ。祖父からネットゲームの運営権を譲り受けたのはいいけど、何かとネットゲームは問題が多い」
「てめぇが、探偵してるのと関係あるのか?」
霧夜は肩を竦めると
「オレだって馬鹿じゃねぇ。こういうタイプのネットゲームは、魔物とか倒して楽しむためのものだ」
その中で探偵というのは異質だ。
響は頷くと
「……確かに、異質だけど。相談はしやすいと思わない?」
この方が運営側としてもやりやすい、と続ける。
「で、雑用を手伝えと?」
「まあ、そんなとこ。ルール守ってないプレイヤーを注意したり、喧嘩の仲裁とか」
霧夜は頭を掻くと
「……ああ、マジなんでテメェ何かについて来たんだろうな」
だが、自由に動ける体というのは魅力的だ。
(今の体の状態じゃ、何やったって無駄だろ)
『……お前、相変わらず弱いね』
耳障りな言葉を思い出し
「あー、イライラする!!」
霧夜は壁を蹴り上げる。
「ところで、黒坂君は何かスポーツとかやってる?」
「はぁ?」
「適職って、だいたい現実で得意なものから選ぶから」
「……剣道なら」
院長に教えてもらったことがある、と霧夜。
今でも、たまに孤児院のチビたちに教えている。
「じゃあ、フェンサーでいいか」
響がスマホを操作すると
「初期装備、届いてるはずだから確認して」
職業・フェンサー
ボロい片手剣
ボロい鎧
以上を入手しました。
「……」
「そんな、初期からいい装備もらえるはずないって」