アプリ起動
「不良グループにボコボコにされたら、鬱憤たまってると思ってさ」
ネットゲームならいいストレス解消になるよ、と響。
「お前は、阿呆か」
松葉杖をついて、霧夜が後ろを向く。
「あれ、ひょっとしてネットゲームってコントローラとかキーボードがないと無理だと思ってる?」
残念なものを見るような響に
「てめぇ」
霧夜は口元を引きつらせる。
「やっぱ、喧嘩売ってるだろ」
怪我をしてるくせに松葉杖を振り回して来そうな勢いだったので
「ストップ。そんなつもりないって」
響は顔を横に振ると
「今の時代、お年寄りでメールを打てる人もいれば若くてもメールやパソコン使えないってあるよ」
興味ないことに詳しくないのは普通だよ、と響は言った。
「……」
「スマホぐらいは持ってるでしょ」
霧夜は視線を逸らし
「……持ってねぇ」
「あ、ひょっとしてガラケー? 思った以上にアナログだね」
「うっせぇ、院長先生がアナログ……って、何言ってるんだオレは」
「黒坂って、どっかで聞いたと思ったら黒坂孤児院か」
確か、有名な宗教団体が支援をしている。
「アプリもダウンロードされてるから、僕の予備のスマホを貸すよ」
「……」
「遠慮しなくても、予備は四個あるから」
「おい、ひょろ眼鏡。どういうつもりだ」
霧夜は響を睨みつける。
「てめぇみたいなボンボンが、俺みたいな奴に接触するなんて裏があるに決まってる」
「……そうだね。もちろん裏はある」
隠すことなく、響は素直に語った。
「手伝ってもらいたいことがある。本当は、誰でも良かったんだけど」
霧夜は眉を寄せ
「だったら、何でオレに声を掛けた」
「うーん、多分……君なら、夢中になると思ったからかな」
「やっぱ、阿呆だろ」
調子が狂う、と霧夜は深いため息をついた。
放課後・視聴覚室
「……なんで、視聴覚室」
「ここ、ターミナルだから」
そういえば、先に数人の生徒が入っていたのを見たが姿がない。
「ターミナル?」
霧夜に聞かれ
「multiple personalityに接続できる場所。漫画喫茶とか図書館とか、最近では結構増えてるけど」
スマホにダウンロードされているmultiple personalityのアプリを起動するように促され
「オレ、怪我人なんだが……」
ゲームなんて出来る状態じゃない、と霧夜。
「松葉杖振り回す元気があれば大丈夫。というか、向こうでは関係ない」
multiple personalityのアプリを起動。
まるで、水の中に潜るかのように二人はネットゲームの世界に転送された。