プロローグ
「ねぇ、天城君って天城グループの御曹司でしょう」
ネットゲーム業界から医療品、食料品まで幅広く取り扱う天城グループ。
「MPの運営者ってマジ!?」
MPとはネットゲームmultiple personalityの略語。
中高生の間で、最近話題になっているネットゲームである。
天城響は、天城グループの会長である祖父の気まぐれによって、multiple personalityの運営権を引き渡された。簡単に言ってしまうと、ネットゲーム一つが自分のものになったって話だ。
成績優秀、容姿端麗、まさに御曹司を絵に描いたような存在。
人当たりもよく女子生徒からの人気も高い。
「祖父から運営権を譲り受けたのは最近です」
響は眼鏡のブリッジを押さえる。
「今度、パーティ組まないか?」
「あ、私も。ねえ、天城君の職業って何?」
「ああ、僕の職業はーー」
ガタン、と教室の扉が開いた。
左目に眼帯、松葉杖をついた小柄な少年。
「あれって、黒坂じゃね?」
「停学処分だったんじゃ」
「別グループの不良と揉めて、最近まで入院してたって話だろ」
口々に噂話が飛び交う。
響は斜め前の席に座った少年を見て
「病欠とか、そういうのじやなかったんだ」
「天城君は、転校してきたばかりだから知らないよね」
そういった女子生徒たちは
「黒坂霧夜、見ての通り不良よ」
「天城君とは、正反対の人間だし」
関わらない方がいい、と語る。
「……ふーん」
そういわれると関わって見たくなる。
天城響は、それぐらいには歪んだ人物だった。
「昼食が、菓子パンにココアって」
そんなんじゃ大きくなれない、と響に言われ
「……」
霧夜は隻眼で睨みつける。
「僕の見立てだと、155くらいかな。意外と低かったね」
「喧嘩売ってるのか」
「初めまして、黒坂くん。僕は、君が入院してる間に転校してきた天城響」
「天城……確か、ボンボンか」
霧夜は鼻をならすと
「教室に戻って、クラスメイトにちやほやされてろ」
担任の教室も響には一目置いている。
普通の人間から見れば鼻につくのだが、人当たりがいいこともあり響には全くそういうのがない。
「皆が僕に話しかけるのは、御曹司って部分を見てるだけだよ。その点でいえば、君のように根性捻じ曲がってそうな人の方が話しやすいかな」
響は霧夜に横目を向け
「……その怪我は」
「関係ねぇだろ」
「ところで、ネットゲームに興味ある?」
「はぁ?」
「multiple personality、まあMPの方が呼びやすいけど」
「……多重人格?」
響は頷くと
「誰だって、ネットの世界では別の自分に憧れるよね」
その辺りが中高生にウケている要因かな、と続けた。