Yggdrasil
俺と義兄弟の杯を交わしたことはやはり問題になった。
「兄上、巨人のやつらがいかに邪悪で醜悪な存在か、兄上が一番ご存じのはずでしょう!」
「そうです。よりによって彼の一族を取り込むんど、正気の沙汰ではありませぬ」
「・・・お主等の言うことは間違っておらぬ」
長い沈黙の末にようやくそれだけの言葉をオーディンは吐いた。
「「では!」」
弟達の声に若干の喜色が混じった。
「だが、親がどうであれ、ロキは私が引き取ったのだそれを都合が悪くなったからと放り出すのは醜悪な親の巨人と同じではないかね?」
「…わかりました。兄上がそう言うならもう何も言いません。ですが、私たちは巨人の末共と一緒に暮らす気にはなれません。兄上が意地を通されると言うなら我々はここを出ていきます」
「・・・。」
オーディンは弟達の言い分が間違っていないことを理解していた。
「どちらも誤る道ならば、己の信じる方を選ぼう」
とは言え、弟たちと分かれたい訳ではなかった。
なんとか引き留めようとしたが彼らの足を止めることは叶わなかった。
オーディンは2柱の姿が見えなくなるまで背中を追った。
そんな問題もあったが、アースガルドは少しずつ形を成していった。
各地で勧誘した者たちが集ってきて、イザヴェル(不滅の野)と呼ばれる平原を中心に広場を作り、神々が集まる神殿を拵えた。オーディンの高座、それに続く十二の神々の座を用意した。これをグラズスヘイムといい、別にもう一つ女神たちの神殿ヴィーンゴールヴを造った。
彼らは広場に集まりオーディンの言葉に耳を向け、国を整えた。
かつて、オーディンら3兄弟が大地を創り出した時、1本の木が急速に丈を伸ばした。宇宙樹ユグドラシルである。奈落の底へと根を伸ばし、天へと枝葉を伸ばすその木の枝の上に作った天上の大地にアースガルドはある。
すなわち、死者が訪れる世界があり、その世界へと至る奈落の裂け目とその裂け目を挟むように、その地で生まれた巨人族しか暮らせないような極寒の凍土と灼熱の大地が広がっていた。
オーディン達はその奈落の穴や生活に向かない地を覆うように大地を作り、人の住む土地とし、さらに上空に自分達の住む大地を作った。
死者の世界を除いて、3層に分かれているというわけだ。
天上の大地には黄金や銀が大量に含まれており、美しい黄金をアース神族は好んで館や生活用品に使ったのである。