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Patera sanguinis

 ロキの出生の話です。

両親が巨人ということしか情報がないですが、

オーディンと血の杯を交わし、義兄弟となる経緯を書いてみました。

手直しする可能性も低くないですが…。

「おい、そこの薄汚いこそ泥。なぜ道の真ん中をどうどうと歩いてやがる」


 そんな声が飛び交ったが、その声をかけた相手は一切応じる様子はなく、歩き淀むこともなくすたすたと歩いていった。


「無視するんじゃねぇロキ!」


 肩を掴まれて名を呼ばれたところで、声をかけられた男は初めて足を止め、振り返った。


 男、ことロキはといえばそれでも無視したいところであったが、流石に肩を掴まれては気づかなかったことにはできないだろう。


「いやねぇ、"薄汚いこそ泥"にわざわざ声をかけるようほど暇なやつがいるとは思えなくてな。」


「なっ」


 ロキはと言えば嫌いな相手にわざわざ声をかけてくる相手の思考が理解できなかったので思ったままにそう言っただけだが、相手はからかわれたと思ったのだろう。顔を真っ赤に染めて憤怒の様子で殴りかかってくるのをロキは苦もなくヒラリヒラリとかわし続ける。


「悪いがあんた相手につきあってられるほど暇じゃなくてな」


 疲れきって屈み込んでしまった男を放置してロキは再び歩きだした。




 

 オーディンに呼び出され、仕方なく神々の国であるアースガルドまで来たロキであったが、正直ロキはうんざりしていた。

用が済んだのならとっとと出ていきたくて仕方なかった。

ただ道を歩いているだけで嫌悪感丸だしの視線を投げかけられたりするのだから当然だろう。


 最も多少は自業自得のところもあったのが。



「よう、おばちゃん、元気にしてそうだな」

 人界ミッドガルドへと降りたロキはかつて訪れた町の宿屋へと向かった。神族と人間とでは時間の流れ方が違う。気づいたら世代が変わっていたなんてこともざらである。ロキは世界を歩き回るのが好きなので頻繁にミッドガルドへと来ている方だ。


「あら、ロプトさんじゃないかい、久しぶりだねぇ。まだ旅人なんかやってるのかい?巨人に殺されちまうからさっさとやめて身を固めたな。なんならうちの娘なんてどうだい?」


「ちょっ、お母さん!」

 

 顔を見せた娘が顔を真っ赤にして抗議するが、母親はとりあわずカラカラと笑っていた。


「まぁともかく今夜一晩頼むよ」

 ミッドガルドではロプトと名乗っているロキも話の潤滑剤だとわかっているので軽く流す。


「ねぇねぇ、また旅の話を聞かせてよ」


「ああ、いいよ」


 ミッドガルドはその周りを柵で覆われ、外に住む粗暴な巨人族から守られている。人々の住む住む世界は限られている。

そうでなくとも大抵は生まれた地で定住するものが殆どであるから、旅人の語る話は最高の娯楽でもあったのだ。


 中でもロプトの語る話は特に人気である。

宿屋の1階では居酒屋兼食堂と言うと少々褒めすぎな食べるところがあって、普段であれば宿泊客がポツポツと姿が見られるだけだが、ロプトが来たとなるとその噂が町中に広まって部屋は人でいっぱいになり、人数制限がかかるほどだ。


 その人気の種は天上に住まう神々の話。


 世界の中心に聳える宇宙樹せかいじゅユグドラシル。

その根は地底の巨人族が住む世界を突き抜けて奈落へと。

その枝葉が伸びる先にはもう一つ世界があり、神々が住むのだ。


 ロプトの語る神々の話は、天地を創造する偉大な存在でありながらもどこか人間くささがあり、中には


「罰当たりなことをお言いでないよ。今にひどい目にあうよ」


 と言いながらも席を立たないおばあさんがいたりする。


 別の男は、次の話をせがみロプトに蜂蜜酒を奢る。

ロプトはそれで口を湿すと、次の話をし始めるのだ。

結局夜明け頃まで話は続き、眠る頃には太陽が昇り始めている。


 朝方まで参加していた農家の男が平気で働きに出ていたりするのを見て、驚くことも度々ある。

 宿の部屋から外を見渡せば、煩雑で、薄汚れた町並みであり、ゴミ一つなく輝かしいアースガルドとは雲泥の差なのだが、ミッドガルドにいるほうが心落ち着く自分がいた。






 この世に生まれて初めて見た世界を、聞いた音を覚えている者はそういないだろう。

ロキは覚えている。


だがしかし、それは決して輝かしい世界ではなかった。


「見ろ、この軟弱な体つきに優男の顔を。どう考えても神を名乗る連中の子だろうが。お前あんなやつらと寝やがったのか」

 男が憤怒の形相でそう言うのを,


「私があんた以外の男と寝るわけないだろう」

 困惑した女が答える。


 二人を見ていた少年……ロキは生まれながらに少年の姿だった。

生まれてすぐ目は見えたし、耳も聞こえた。何より見たもの聞こえたものを理解できていた。男の巨人がファールバウティ、女の巨人がラウフェイと言い、兄弟としてビューレイストとヘルブリンディというのがいるらしい。


「その子供を捨ててこい」


 ファールバウティがそう言って、ラウフェイもファールバウティに見放されることを思えば、奇妙な子どもを捨てることにしたようだった。どうやら自分は捨てられるらしい、と他人事のように思っていた。



      「ならばその子は私が貰い受けよう」



 突然そんな声がして、馬に乗った老人が姿を現した。

右手に槍を持った姿が妙にしっくりとしていた。


「おまえか、ラウフェイをそそのかしたのは」


「巨人族にもよい女はいる、が、その女がそうだとはまるで思えぬ。そこの子供、選ぶがよい。こやつらに捨てられ、一人で行くか儂と共にくるか。」


 中身の知れきった腐った親と、まるで知らぬ男なら、見知らぬ男の方がまだマシな気がして男とともにすることにした。歩くことにも困難はなかった。


「待て、曲がりなりにも俺の息子を連れていこうってんならそれなりのものを置いていってもらおうか」


 何を言っているのか。

先ほど捨ててこいと言ったのは自分ではないか。


「ふむ、これでよかろう」


 老人もそれを聞いていたであろうに金塊を取り出して男巨人へと放り投げ、土砂を巻き上げた。


「まるで足りないな。身ぐるみ置いていってもらおうか」


 男巨人が恥じらいもなくそう言うと、老人の顔が戦士のそれへと変わった。


「欲を張らねばよかったものを」


 ロキの視界が真っ暗になる。老人がマントで自分を覆い隠したのだと気づくのにわずかに時間がかかった。


 まずにぶい音がして、巨大なモノが倒れ、地を揺るがした。

そしていくらか時間をおいて同じように再び地が揺れた。


「我が槍を受けられたのだ。いかばかりかの金よりよほど光栄だったと思うがよい」


 足下が急に頼りなくなって、その次には馬上だった。

老人の腕に包まれるように乗せられていた。


「今儂は、自分たちの国を造ろうと思うておる。そのための同胞を集っている途中だ。お主も来るがよい。」


 頭上から聞こえた内容の突飛さに驚いた。


「そういえば名乗っておらんかったな。儂の名はオーディン。この世界を造った者だ。お主はなんという?」


 自慢げに自己紹介をする老人・・・オーディンに首を横に振る。

オーディンはそれを見て眉間に皺を寄せたが、


「ならば儂が名付け親になってやろう。」


 そう言うとうんうん唸りながらボソボソと何事かを呟きながら馬を進めるのは、少し怖かったものだ。


「うむ、決めた。ロキ、ロキだ。いい名前であろう」


 自信満々で言ったオーディンの表情にわずかにあきれながらも悪い気はしなかった。



 アースガルド、神々の国に一反帰るのだろうと思っていたら、なんとオーディンはそのまま旅を続けた。

狩りの仕方や火の熾し方など旅の必要なことはオーディンから教わった。多少スパルタだったが。

道中、気に入った者は巨人族であろうが構わずアースガルドへと誘うのだった。


 そして世界中を回っていよいよアースガルドへと赴いた。

オーディンの兄弟(ヴィリ、ヴェー)も天地の創造後世界中を回っていたのだそうだが、少し前にこの地に着いたのだそうで、途中誘った者たちと国を造っていた。


 オーディンが巨人族であろうと勧誘していたことで兄弟が揉めた。

そして当然俺も追い出すべきだと兄弟は言い募った。

結局その場では話がつかず、日を改めることになったがどうもオーディンのほうが無理を言っているようだった。

オーディンにしごかれて、一人でも十分に生きていけるだろう。

そう思っていると、オーディンが、


「邪魔をするぞ」


 と言って俺が与えられた部屋にやってきた。


「儂の方から誘ったのだ。都合が悪くなったからといって放り出したりはせぬ」


 そういって親指を槍の穂先に添えると、薄く皮膚を裂き、流れ出した血を、杯を出して溜める。


「ロキ、お前も同様にせよ」


 もう一つ杯を出し、俺へと差し出しながらそう言う。

困惑しながらも同じようにする。


「年のほどを言えば、親と子、いや祖父と孫のようだがな。血の杯を交わす、というのは義兄弟の縁を紡ぐということだ。儂は旅が好きでないずれ息子に族長の地位を譲って旅に出るつもりだ。お主を養子にした場合、相続で揉める可能性もある。まぁ、兄弟でも全く可能性がないわけでもないがな」


 苦笑しつつそう言い、


「まぁ、お前が我らの一族に加わるのを断り、自由に生きるというならそれでもよい。」


 一族に加わることで面倒くさいことになるのはわかりきっていた。

俺だけでなく、オーディンにとってもだ。

だから断るべきだ、と頭ではわかっていた。



 体は杯を差し出していた。


受けた恩を返すぐらいまでならいいだろう、と自分に言い訳をして。





 眼が覚めたら太陽が真上にある頃だった。

ああ、そういえば昨日は大騒ぎをして朝方に寝たのだった。

なんとも懐かしい夢を見た気がした。


ロキはアースガルドに屋敷を持っていない。

ほとんどミッドガルドで過ごしているからだ。

アースガルドに行く時はオーディンの館に泊まる。


 ふぅあと欠伸をして起き上がると顔を洗いに中庭の井戸へと向かう。


「おはよう、いやもうおそようだけどね。ようやく起きたのかい?まぁ昨日はお疲れだったからね。」


 階段を降りた先でおばちゃんに会う。

「昨日は儲かったかい?」


「ああ、おかげさまでね。ちょ、昼食を準備しておくからさっさと顔を洗ってきな。」


「あいよ。楽しみにしてるぜ」


「寝癖、ちゃんと直しておいでよ」


「え、そんなにひどいかい?」



こうしてまたロキの1日が始まる













 



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