8話 謁見
「国王様、勇者の皆様をお連れ致しました」
「ご苦労であった……。其方達が勇者か、今回は此方の勝手で呼び出してしまい、誠に申し訳ない」
最初に居た屋敷とは比べ物にならないくらいの装飾された通路を歩き、謁見の間へと足を踏み入れる。
入り口から王の座る玉座まで敷かれた赤の絨毯。
その上を歩き、玉座に座る国王と対面した。
歳は見た感じ50代半ば、皺が目立つ目付きは優しく、した顎まで伸びた白の髭がとても似合っている。
やはり王というだけはあるのか、左右周りにも貴族らしき人達や、鎧を着た軍のお偉いさんの方々、護衛の人達が集まっているが、一人だけ身に纏うオーラが群を抜いていた。
俺ですら気付いたのだ。他の生徒達も気付いたのだろう、唾を飲む音が聞こえた。
そして王の前まで行った俺達は、爺さんが膝を着き頭を下げたのを見て、直ぐに真似して膝を着き頭を下げた。
チラリと前を見ると、高橋達もちゃんと真似をしていた。
正直「国王テメェ!」とか言って殴り掛かりそうな予想を立てていたのだが、外れたようだ。残念。
国王が謝辞を述べた事で、一部貴族達が囃し立てると思ったが、そんな事は無かった。
よく物語では『いけません国王様! 王が頭を下げるなど……!』とか言っていたので少しだけリアル国王様いけません! を見てみたかったのだが、所詮物語は物語か。
と、変なところで感心していると、
「面を上げよ」
上から国王の声が掛かり、顔を上げる。
「此度の件は本当にすまない、早速で悪いが……もう答えは出ているのか?」
「………………」
誰も答えない。
否、答えられない。
当たり前だ。俺達はつい数十分前までは唯の学生だったのだから、誰も王様なんかと話した経験なんて無いに決まっている。
それにここにいるクラスの生徒全員の意見も聞いていないのに、答えられるわけがなかった。
「……うむ、そうか、ではまた後日、答えを聞かせてくれ。今日はここまでだ、其方達には各自部屋を用意してある。好きに使ってよい」
気を使ってくれたのか、王様がそう締めくくり、玉座を立ち謁見の間を去った。
それと同時に他の者達も部屋を後にしていく。
やっぱり異世界の人間とあっては気になるのか、何人かの人は俺達の方を一瞥してから退出して行った。
そして最後に俺達も部屋を退出した。
謁見って、意外に呆気ないものだったな。
謁見の間を出て行きとは違う通路を暫く進んだとこで、城に仕える執事やメイドの格好をした人達が現れ、部屋に案内された。
部屋の中は後2〜3人過ごせるような広い部屋だった。
豪華、とは言えないが上質なふかふかベットが1つと三段棚、3人掛けのソファが1つ。机、椅子が2つ、それから夜使うカンテラというものが置かれていた。
一応大きめの両開き窓も取り付けられていた。
また夕食の時にまた呼びに来るとのこと、その時に1度皆で話し合う機会が設けられるらしい。
正直俺には関係の無い話なので夕食だけ食べて部屋に戻らせてほしい。
俺が出たとこで別にどうなるわけでもないのに。
(全くもって面倒だ……)
それから俺は部屋のベッドでゴロゴロしているうちに寝てしまっていたらしく、起きた時には夕食の時間で、執事の人が起こしてくれた。
閉じようとする瞼を必死に持ち上げながら俺は寝癖を整えて、部屋を退出して執事の後をおぼつかない重い足取りで着いて行き、食堂へ向かった。