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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
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契約

最近は私情で申し訳ないのですが、忙しい日々が続き中々更新できていません。

できるだけこまめに更新できるように努力します。

また、お気に入り登録・作品の評価とうありがとうございます。

とても励みになっています。

これからも読者の皆様のご期待に添えるよう頑張りたいと思います。

読者の皆様、ありがとうございます。

「人は、私のような神との”これ”を契約と呼びます。」


私の了承の言葉を受け取った死神は、私の体を支えるようにして広い場所に移動しようとしていた。どうやら私に力を与えるにはとある契約というものを成さねばならないらしい。


「まぁ、私的に言うと・・・友となるための儀式みたいなものですよ。」

「・・友達?」

「はい。色んな気持ちを共有できる友です。」


友達。その言葉で思い浮かぶ顔はトキを含めて数人だった。私は新しく家族が出来ても学校でも周りの人達に距離を置かれてしまって、友達と言える人は少なかった。

友達が欲しかった。一緒に思い出を作ったり、一緒にお弁当を食べたり、そんなことが出来る友達が欲しかった。

私には学校でそんなことが一緒に出来る人は、トキ以外に居なかったけれど。


「・・・・友達・・・いいね。私あなたと友達になりたい。」

ふふ、と思わず笑みを零せば、死神の表情が和らいだ気がした。


私が落下した花壇から離れて、少し広い場所へと移動した。辺りは相変わらず悲鳴に満ちているし、血の匂いが濃く漂っていた。


死神が私を支えていた腕をそっと離してから、私を地面に座らせる。節々が痛いけれど立っているよりはだいぶマシ。

カチャン、と骨と骨がぶつかる音がして、思わず上を向いた。


「・・・・では、始めましょうか。」


そう言った死神の手の平から、ブワリと何かが溢れ出す。その何かは青色で、ゆらゆらと死神の手の上で踊っていた。そう、それは青い炎。今に死神の手から落ちてしまいそうなぐらいに大きくなってたゆたう。神秘的なその炎に一瞬見とれてしまう。けれども、すぐに濃い血の匂いが私を現実に引き戻す。


「私の名前は、エリオス。死神のエリオスです。」

す、と差し出された片手を迷いながらも握る。もう一方の手にはまだ炎が揺れている。促されるような目に、少ししてから私も口を開いた。


「・・・・・わ、私の名前は坂田陽依。普通の人間の坂田陽依。」


揺れていた火が一層大きくなった。小さくなることなどまるで知らないように、揺れながら大きくなって死神―――エリオスの手から零れ落ちていく。

「え、嘘、わ、なにこれ・・・・!」

戸惑う私の手を、上から包むようにエリオスが強く握った。それは温かみのないただの硬い感触しかしなかったけれど、私を安心させようとする意思がはっきりと伝わってきた。

エリオスの手から溢れ落ちた綺麗な青い炎は、線を描くようにして私達の周りの地面に広がった。やがてそれは円を描き、細かな文様を描き・・・そして、私にとって見覚えのあるものへと形を作っていった。

「魔法陣・・・・?」

トキが何やら紙に書き込んで考え込んでる時がよくある。大抵の時それは新しい魔法を考えてて、白い紙の上へたくさんの丸やら何やらが描かれていた。それは魔法陣と言うらしくて、魔法を一から組み立てる時に便利だと言っていた。

この魔法陣には何を意味する言葉が入っているのかはよく分からない。魔法に関してはトキがたまに零す独り言や勝手に読んだトキの本くらいの知識しかない。けれども夥しいほどの文字が書きたされていくのを見て、この魔法の重みを知った。


別に今更契約するのが怖くなったわけじゃない。今にも死にそうなこの私に、エリオスは力を与えてくれると言ってくれた。こんな私にでも人を助けることができる。こんな私にでも誰かの役に立つことができる。それってきっと、とっても尊くて凄いことだと私は思うから。契約することに迷いなんてなかった。

私が元の世界に戻れる保証なんてどこにもなかったけど、もし元の世界に戻れたとして、私がこれから先生きてける可能性だってないかもしれない。ぐちゃぐちゃになったこの体は、そう簡単には元に戻りそうにないから。

もしかしたら。本当に小さな可能性だけど、もしかしたら。

私が力を手に入れて、この場所にいる人達を助けることもできて、そしてその力で元の世界に戻ることができるのなら。

私は喜んで元の世界に帰るよ。それくらいの想いはある。最高に良い環境だとは言えなかったかもしれない。恵まれた状況下に生まれたわけでもなかった。けれども。あそこには私には確かに分かる幸せが存在した。そう簡単に捨てきることのできないものが、存在してたんだ。

だから、私は希望を捨てない。諦めることをしないよ。


この契約を受けるのが、決して最期へ向けるものではないことを、私は確信しておかなきゃならない。この契約を結ぶのは、これからのためだ。少しでも私の、ここの人達の、これからを守るためだ。


「私は、目を背けたくないし。諦めたくもないもの。」


独り言のように呟いた言葉。頷くように首を縦に振った骸骨。

「やはりあなたは愉快な人だ。」

その直後。魔法陣は最後の呪文を書き込むのと共に完成した。


「我の力を共有せし者よ。汝求めし時、この契約を以て力を与えよう。我との深い鎖を結び、解けぬ繋がりを持つ者。今、ここに生まれん!」


一瞬。ほんの一瞬だった。エリオスの放った言葉の意味を理解するよりも早く、青い炎が柱を作るようにして燃え上がった。その間に地面からも火の手が上がり、私の体に纏わりついた。不思議と私は冷静で、静かにそんな状況を見つめていた。青い炎が私の足からあがり、頭のてっぺんまで包み込む。

一瞬とも言える時間に、私は私の記憶があるうちの人生全てを、一気に思い浮かべていた。いや、強制的に誰かに読み取られていた。ひとつひとつを鮮明に頭に浮かべさせられて、まるでそれは走馬灯のようだった。

瞼の裏へ浮かぶ映像。幼い頃からの辛い記憶。悲しい記憶。マイナスなものばかりだったように思える。けれども、それはやがて楽しい記憶ばかりに変わるのだった。そこへ出てくるのは決まってトキばかり。本当に、心の底から、トキには感謝しなくちゃいけないなぁ、って改めてトキにありがとうを言いたくなった。


全てを見終わって目を開いた時、さっきよりも視界が晴れた気がした。体の痛みも抜けきっていて、青い炎も魔法陣もなくなっていた。たださっきよりも少し視界が晴れた気がした。

「・・・今は、夜なんだよね?」

「明るく見えるのは契約がきちんと成された証拠ですよ。死神は闇に生きる者ですから、暗闇に対する耐性があるのですよ。」

痛みの抜けた体をキョロキョロと見回して、その傷跡がしっかり閉じているのも目にすることができた。それくらい、私の視界は明るいのだ。

「怪我も全部なくなってる・・・・。」

「一応神の部類に入りますからね、それくらいはできますよ。」

エリオスの手を借りながら立ち上がると、目の前の光景がよく見えた。ドラゴンは我を忘れて泣き叫ぶ。逃げ惑う人々。立ち向かうも炭になる兵士。

今更だけど、私にちゃんと助けれるんだろうか。契約をしたと言っても、見た目的変化は特に見られない。一部が骨になってるわけでもない。力なんてほんとにあるのかな?

そう思いながら、ふと視線を落とした。水道管が破裂でもしたのか、かなり大きめの水たまりが地面にはできていて、そこに満天の星空とよく見知った顔が写っていた。

「え・・・・わ、たし?」

信じられないことが起こっていた。水溜りの中に写ってる人は私と同じ顔をしているのに、髪色が全く違っていた。よく見えないけれど、白というか銀色というか、そんな感じの色に薄い青が掛かっていた。

「なななな、な、なにこれ!?」

「月の加護ですよ。」

動揺を全身から出す私に、エリオスはさらりと言い切った。

「死神は闇に生きるものですからね、月の加護を世界で一番受けることができるんです。契約の直後にはどうしても色が出てしまうモノです。まぁ、力を使いすぎない限り滅多に出ませんから。にしても・・・なぜそのような色になったのかは私にも分かりませんが、それはきっとあなたが異世界からいらっしゃったことに関係しているんでしょうね。」

「あ・・・・ムーンストーン。」

ふと浮かんだ言葉をそのまま口にした。元の世界にあった宝石で、名前の通り月に似ている。この髪色はそれとまったく同じだった。

私のすべてが、この世界に染まってしまったわけではなかったみたいだった。そう思うと、なんだか少し嬉しかった。


「・・・じゃ、エリオス。私そろそろ行かなくちゃ。」

空に浮かぶ月を見上げると、私の中から何かが沸き上がってくる気がした。

「・・・そうですか。では、最後に友に忠告をさしあげましょう。」

「忠告?」

「私は・・・死神は、災厄をもたらす神だと言われています。きっと、私と契約をしたことがばれてしまえば、たとえ生き残るためだと言ってもよくはとられないでしょう。」

そう語るエリオスの声は、どこか悲しげだった。

「戦争へ利用されるかもしれない。化物扱いされて、殺されてしまうかもしれない。だから、どうか、その力を他人に知られてはいけません。この契約までの過程は私の魔法で他の人間には見えないようになっています。しかし、それをずっとし続けられるわけではないのです。だから・・・あなたが生きるため、力を隠してください。」

ただ、私の身を案じてくれていた。私がこの世界に対してあまりにも無知だから、エリオスは私に忠告してくれてるんだ。

「力の使い方は自ずと分かります。きっと闇夜に紛れて今ならば誰にも知られないでしょう。分からないでしょう。だから、あなたが無事にこの場を乗り越え、これからこの世界に生きていくことになった時、この私の言葉を思い出してください。」

エリオスの言葉のひとつひとつを胸へとしっかり刻みつけた。人の前であまり使えないということは、きっと人を助けるには不便なんだろうなぁ。だから、もしかしたら。人を助けるために私はいつか人の前で力を使うことが来てしまうのかもしれない。そして、この世界に否定されてしまうのかもしれない。

でもね、エリオス

「私は契約したこと、後悔してないよ。たとえそれが原因で私の立場が、居場所が、なくなってしまったとしても。エリオスと友達になったことを後悔なんてしたりしないから。・・・・だから、そんな悲しそうな顔しないで。」

「・・・・・・私に表情筋はありませんよ。」

私に言い返せるだけ元気なら、きっと心配はない。

「私はいつでも、あなたのココに居ましょう。いつでも呼んでください。友のためにいつだって駆けつけてみせましょう。」

「うん、ありがとう。エリオス。」

トン、と私の心臓の上を指さししたエリオスは念を押すように私に言った。

そして、私が頷いたのを確認した瞬間、エリオスの姿が薄らいだ。空気に溶けてしまうみたいに、エリオスはそっと消えてしまう。


「あなたのご武運を祈りましょう。大切な、――――私の愛し子よ。」

最後の言葉の意味を問うことすらできなかった。

「ま、いいよね。」

だって、同じ世界に居るんだ。きっとまた会える。

同じ世界、別の世界。その差は大きくて、その距離はとても遠くて。そんなことよく分かってるけど、それでも言ってみる。


「トキ、見てて。」

小さく呟いた声は爆音によってあっさりとかき消されてしまった。爆風に巻き上げられた髪の毛がいつもの色に戻っているのを目で確認してから、私は一歩前に踏み出した。


これは、私の戦いだ。


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