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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
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私の選択

気づいたらまたお気に入り登録件数が増えてました。

読者様ありがとうございます!


”死神”それは、どこの世界にでもあるものだとトキは言っていた。”闇”という名前で存在していたものがこの世界にも別名で存在しているように、それは極自然なことだと。

私は元の世界で死神に会ったことはないけれど、トキは会ったことがあるらしい。まぁ、自分から会おうとは思わないけど。

そんなことを考えながら、目の前に居る死神をもう一度見つめた。私の上を舞っていたボロ布の正体はどうやらコイツで間違いなさそうだった。怖いくらいに白い頭蓋骨が夜の闇に浮かび上がって少し不気味。けれども不思議と恐怖を感じないのは、トキと一緒に居すぎてこういうものに慣れたせいだろうか。


「もう一度問いましょう。なぜ、あなたはそこまでして、この場の者を助けようとするのです?」

再び問われた同じ言葉に、私は急いで意識を引き戻した。なぜ、私がこの場のものを助けるのか。言葉を紡ごうとして、声が出ないことに気づいた。それどころか声の振動でさえ、今の私には苦痛となる。私の体はもうボロボロだった。

そんな私に死神はいち早く気づいて、私の喉をその骨の指で押した。

「これで大丈夫ですか?」

「・・・・・・な、なんとか。」

動かせる右手で喉を押さえて、何度か咳を繰り返した。やっと普通に声が出るようになり、私より背の高い死神を見上げる。どうやって治したのとか、色々気になることはあるけど質問が先だ。こいつをどうにかしないことには、助けに行くこともできない。

私を見下ろした死神の顔を見つめてから、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。


「私は・・・私を、元の大切な世界から引き裂いたこの世界が、大嫌い。」


キョトン、と固まったまま死神は仕方がないと思う。私がこの世界の人たちを助けようとしているから理由を聞いたのに、当の本人は嫌いだという。矛盾もいいところだろう。

けれども、どうしてこの世界を好きになれるというのだろうか。だって、あの幸せだった生活から私を引き裂いて、いきなり牢屋なんかに放り込んだんだ。好きになれるわけもなかった。

それでも


「私の夢はヒーローになることだから、ヒーローは誰にでも優しい、誰も見捨てない人だから。私は、この世界の人たちを見捨てることはしない。

いっぱい傷ついたし、私はもう・・・・元の世界に戻ることは出来ないと思う。私自身もう長くないし。」


ぐにゃりと曲がってしまった右足を見る。落ちてすぐはあんなに痛かったのに、もうほとんど痛みがない。どんどん感覚が麻痺してるみたいだった。死は、刻々と私に近づいていた。


「それでもね、今私にはこの場に居る人たちくらいは助けることができる力があるの。あのドラゴンを止めることぐらいなら、私でも出来るの。」


それは、少々力不足なことかもしれない。ただ私はドラゴンと話せるというだけ。ドラゴンの尻尾なんかに弾かれでもしたら、今度こそ確実に命はないだろう。でも、今の私の未来に待ってるのは、確実に死でしかない。だとするならば、簡単に死ぬよりも誰かの役に立ってから死にたい。

ヒーローに憧れている私の、死に際の最後の願い。


「・・・ほほぅ、興味深い回答をなさいますね。この世界を嫌いながらこの世界を助けたいという。その意思がただヒーローになりたいだけ。

あなたのような愉快な人には久しぶりに会いました。とても新鮮味のあるお話でした。」


カッチャカッチャと拍手するかのように、手を合わせる死神から骨のぶつかる音がする。奇妙なその音と幾分か穏やかになったようなその顔に、やっと助けに行けると安堵した。

しかし、その安堵を死神はいとも容易くぶち壊した。


「しかし、あなたのその力と体ではヒーローになるには少々無理がありますね。」


やはり、私の夢はどこへ行っても否定されるらしかった。ある時は性別で否定され、ここでは力と体を否定された。

確かに、私にはトキみたいな力はないし、この体は平凡な女子高生の軟弱な体だ。でも、簡単に否定していい夢じゃない。私にとって、この夢はたったひとつの希望だったものだから。


「そんな怖い顔をなさらないでください。私はあなたに死んでほしくないのですよ。」


どーどーとまるで馬を宥めるかのような仕草に余計に腹が立った。睨む目を鋭くしてやると、やれやれと言うように死神は肩をすくめた。

死んでほしくない。なんて手遅れすぎると思わない?この状態を見て私がこの先生きていけるはずがないのに。


「ですからあなたの望みを叶えるために、あなたに力を与えましょう。」


心の中で悪態をついていた私に、死神が言った言葉。

私の望みを叶えるために、私に力をくれる?どういう意味?まさかこれは何かの罠とかじゃないよね。


「そんなに警戒なさらないでください。私はさっきも言いましたように、あなたに死んでほしくないのです。愉快な人は好きですよ。最も人間の中にそのような方は少ないですけれど。だからこそあなたには死んでほしくないのです。」

「・・・・初対面の相手に、どうしてそんなことが言えるんですか?」

「・・・・さぁ・・・?なぜでしょうね?」


私の問いに、自分でも心底不思議そうな顔をしてから、死神はまた口を開いた。


「まぁ、そんなことはどうでもいいでしょう。今あなたが考えるべきなのは、私の提案を受けるか否かです。」

死神の言葉を簡単に信用してしまっていいのかは分からない。だって、会ってから数分もたってない相手だから、相手の考えが読めない。どうすればいい?どれが最善策なの?

じ、っと死神の目を見つめて心の中を探ろうとするけれど、骨にそんなことしても無駄みたいだった。

トキ、あなたならどうした?

あなたが、今みたいに力もなくて、それでも誰かを救いたいと願ったとき・・・・あなたならどうする?


『さぁ?それはお前の選択だからな。俺は知らん。』

何かを選ぶ時に相談すれば、トキは決まってこう言った。

きっと今トキが隣に居て相談しても、あなたは同じことを言うんでしょ?

だったら、私は。私の答えは―――――


「その提案。乗った。」


少しでも、多くの人を助けるための選択をするよ。



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