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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
55/65

揺れる黄の魔術師

更新遅くなって申し訳ありません。

いつも読んでくださる読者様ありがとうございます!

塔が揺れた。そりゃもう盛大に。床が砕け散って、塔が今にも崩れ落ちそうなくらいには。

これが敵の襲撃だというのは一目瞭然で、さっきまでステラを監視していた魔導器の鏡から聖女の顔がちらりと覗いた。随分と行動の早いことで。


『あぁ、お労しい・・・・っ!アシル様を、傷つけたあの者をっ、どうか早く!早く捕まえてください!!』

『了解しました!聖女様!』

どこから騎士を引っ張り出して来たのやら。神殿に居たのとは別の騎士達が澱んだ薄暗い瞳で聖女に向かって礼をする。

『そこに居るのは分かっています!今すぐでてきなさいっ陽依さん!!』

張り上げられた声。ヒヨリにありもしない濡れ衣を着せる声。


そして、王子が倒れたことを知らせる声。


「やっぱり、王子は保たなかったのね」

一瞬見ただけで分かった。王子の顔色の悪さも。それが自分に掛かった魔法を無理矢理解いたからだということも。十中八九。魔法は聖女お得意の精神魔法だろう。

精神魔法には少なくない負担がかかる。いくら使い手が天才だろうと、負担がかかることは避けられない。あの時の王子は、どうやらそれを自力で解いたらしかったのだから、その負担は計り知れない。


「黄の魔術師様っ!!」

「よかった、無事だったのね」

部屋に飛び込んできたステラが顔色を変えてこちらに駆け寄ってくる。この部屋の惨状はきっとどこの部屋よりも悲惨らしい。

私の寝室だから、念入りに結界を施していたはずなのだけど。

「この部屋はもう駄目です!すぐにあちらの部屋へ!」

「そうね、確かに今にも床が抜けそうだわ」

笑ってみせるとステラに早くと急かされる。それでももう少し待って、と言いながら部屋の隅のクローゼットに駆け寄る。

クローゼットから取り出したのは古びた小さな鞄。懐かしい、深い紺色の生地。安物ではなかったおかげが、時が経った今でも使えそうだ。


何もかも投げ捨てて、逃げ出してしまいたいと願って、幼い頃に私が作った魔法の鞄。

「もう、逃げ出したくなることはないと思ってたけど・・・・人生何が起こるか分からないわね」


ただ、中にあるのは広い空間。

それは私が幼い頃に家出しようとして作った、ただの家出鞄なのだから。それでも最高位の幼い頃をなめてもらっちゃ困る。容量は荷車2台分はあるし、口は狭いけれど物に押し当てればなんでも入る。



きっと、もうここには居られないだろうから。



冤罪をなすり付けようとする聖女に、先ほどから魔導器の通信が妨害されているらしく、助けを求めることも不可能らしい。

「ステラ、」

「はいっ」

「・・・・何があっても私はヒヨリの味方よ。だから・・・・・私を信じなさい」

「・・・・どうか、されたのですか?」

「ううん、少しだけ離れることになりそうだから」


え?とステラのその口元が疑問を口にしそうになった時。再び強い衝撃が結界を襲った。

来たか、と少しだけ天井を見つめる。その間にも今にも抜けそうだった床は崩れ始めていた。ステラの居た場所がどうやらギリギリの境界線だったらしく、私の居る場所は既に傾いている。

「魔術師様っ!」

こちらに懸命に手を伸ばす姿が見えたけれど、その手が私に届かないことは容易に想像できる。崩れ落ちる瓦礫の中でひとり笑った。

ほとんど布面積のない真っ赤に変わった服をずる剥けたように着ているヒヨリをベッドから抱え上げてそっとシーツに包み込む。私の大事な弟子。大切な愛弟子。そっと肩から小さめの青い鞄を掛けてやる。いずれあげようと思っていたのだ、やはりこの子は青が似合う。


「ちょっと、この子のことお願いするわね」


腰かけていたベッドが傾いていくのが分かる。突き放すように近づいていたステラに向かってヒヨリを投げた。自分で言うのもなんだけど、枝みたいに貧相な私の腕から出された予想外の力にステラが目を瞬いているのにまた笑った。


塔の天井が割れて、空が覗く。からんとした、どこまでも真っ青なそれに目を細めた。そこから覗いた黒い人影にやはり、と口元が弧を描く。


「やっぱり、あなたの魔力の気配がしたから」


手を翳すように伸ばせば、暫くして尋常じゃない重みが体に加わって、塔の床に叩きつけられると同時に私が居た塔の片側だけが地面に向かって砕けた。

「魔術師様っ!!!!」

ヒヨリをその両手にしっかりと抱えてくれた優秀な侍女は、瓦礫と共に落ちていく私の身を案じてくれている。本当に、良い子を侍女にもらったわね。

現実逃避のようにそんなことを考えながら、視線を前に戻す。



陽の光に輝いた切っ先。それが何かなんて、問わずとも私は知っていた。


『父上が、誕生日に初めて持つことを許してくれたんだ』


あの時とは違う意味合いで、それを私が目にする日があろうとは思いもしなかった。それでも迷いなく振り下ろされた剣を静かに受け入れる。私と一緒に落下していた瓦礫に血が飛び散った。




「おず、わるど・・・・?」




その手は震えていた。見開かれた青い双眼が、絶望に染まっていくのが見えた。自分の手のひらと剣をべっとりと染めた血を見てまた顔を青ざめさせている。

けれどもそっと、私に剣を突き刺したその人の背中に手を回した。


「だいじょうぶ、大丈夫だからね、」


纏わりつくようだった気持ち悪い魔力が弾ける。お決まりの精神魔法。これじゃあ犯人が誰かなんて考えるまでもない。

「く、ろえ?」

「あなたが塔に遊びに来てくれるなんて、いつぶりかしらね?」

そう笑いながら背中から離した手で彼の胸元を押す。


「"浮かべ"」


さっき見たステラみたいな青ざめた顔で、オズワルドが手を伸ばす。それでも、どうやら彼は随分と動揺しているらしく、私の魔法を振りほどく程の気力はないようだ。

「やめてくれ、クロエ、頼むからッ!」

空中に彼だけ取り残したまま、私の体は落ちていく。ばらばらと、瓦礫と一緒に落ちて、やがて視界が黒に染まった。

何も見えない。体の感覚もない。ただ地面に近い場所に埋もれたらしく、嫌な聖女と騎士達の声はした。




「や、やだっどうしましょう!ヒヨリさんまで潰れてしまったかもしれないわ!早く探して!私はそんな、殺すつもりなんてなかったのにっオズワルド様がっ塔に強すぎる魔法をぶつけたから・・・・!」

あぁ、と嘆く声がした。

「クロエ様もお探して!お怪我でもされたら、あぁ、どうしましょう・・・・っ」

「聖女様、お気を確かに。とりあえずウォーベック殿を探してまいりますので」





「心配には及びませんわ」





よっこいせ、と体を起こす。自分に重なっていた瓦礫が崩れ落ちる音がした。ちゃんと腕や足がくっついてるか確認しながら、瓦礫の上に改めて腰を下ろす。

さっきまで着ていたいつもと違う黒いローブが、レースで溢れる。せっかくのお客様だもの、もてなさなくては。

「この通り、私は無傷ですので」

黒いドレスの真っ赤な血はきっと見えないだろうし、現に私に既に先ほどの傷跡は残ってないわけだし。気にしなくてもいいですよ、と笑いかけてみせる。


「本日はいったい、このわたくしの寂れた城にどのような御用かしら?随分な部屋のノックの仕方だったのだけれど」


丁寧かつ、睨めつけるように。声は静まり返った塔の残骸の上に響いた。

「お、お邪魔しておりますっアンブローズ様!こちらに犯罪者である少女が居るはずです!すぐにでも引き渡していただきたいっ」

「まぁ、犯罪者ですって・・・・?一体、誰のことを言っているの?」

不快だわ、と続けて口元を敵に塔に落ちていた扇で隠して目を細めれば空気が今度は凍りつく。

すぅ、と細めた目で怯えたのか、続きを話さないまま固まった騎士を見つめる。


「い、異世界の客人でありますっ!サカタという名であなたの塔によく出入りしているところを確認しております!客人が訪れていた場所は限られますので、既にここ以外は調べ尽くした後ですので・・・」

「最後はここ、というわけね。でもまさか・・・ヒヨリが犯罪者?ありえませんわ!あなた達はあの子にどのような罪があると言うのです!」

声を荒げ、扇を叩きつけるように勢い良く閉じて、有る限りの怒りを表現する。ビシビシと緊迫感が伝わるように。ここから、一刻も早く出て行きたくなるように。私が優位である空間で、誰もが怯んだ。誰もが口を閉ざした。


ただ、一人以外は。


「クロエ様!お怒りにならないでくださいっ、事実なのです・・・・アシル王子が、目の前で、陽依さんにっ・・・!」

透き通った可愛らしい声。その大きく黒い瞳を涙で潤ませながら、騎士達を押しのけて前へと進みでる。ほろり、ほろり、と宝石のような雫がその頰を滑るたびに、周りの騎士達は息を呑む。

私みたいな上位の貴族の名前をいきなり呼ぶという無礼を侵したくせに。周囲はそんなこと気にもしないのね。呆れたものだ。


「目の前で?ヒヨリに何をされたというのです?」

だからなんだ。

美しいから。愛らしいから。だから何。

そんなの関係ない。こいつの正体はもう分かっているのだから。本当にアシル王子に止めを刺したのはある意味自分だろうに。それを如何にも悲しくて口にできませんというような表情を作って乗り切ろうとするその姿は賞賛に値すると思う。


けれども。


「申し訳ないのですが聖女様・・・・あたくしには一般の人間のような美的センスが整っていませんので。貴女の顔芸に騙されてあげられませんの」

一瞬きょとん、とした顔で固まった聖女様を庇うように騎士達が前に進み出てきた。どいつもこいつも面倒臭いもので。私が聖女に敵意を向けたと感じ取るや否や、我先にと私につっかかる。

「し、しかしっサカタ様には悪魔への情報漏洩の疑いもかかっていまして・・・」

「悪魔への?」

「はい、ここ最近我が城の機密事項が漏れ出しているのは、どうやら、そのサカタ様が先日の悪魔と交渉して、情報を売り渡している可能性がとても高いのです」



「それは、変ねぇ」



あら、という風にまた口元を扇で隠した。今度は、笑みが抑えきれなくて。

確かヒヨリのお友達にもそのような罪を着せていたというのに・・・些か使い回しが過ぎないだろうか。

それに私は知っている。




「きっとそれは冤罪だわ。だって、本当の犯人は私だもの」




誰もが呆然として、沈黙した。先ほどからうるさかった聖女でさえもだ。これに笑みをこぼさずはいられない。みんなしてこんな面白い顔をしているんだもの、しょうがないと思う。喉から漏れ出た、堪えきれないとでも言うような笑い声に聖女がはっと我に返った。

「み、みなさんっ!この人を捕らえてください!」

「捕らえられるとでも、お思いかしら?」


植物が一斉に飛びかかった。死んだ振りもできるなんて、なんてうちの子は優秀なんでしょう。瓦礫の中から戯れのように髪やら武器やらを引っ張られ、一瞬にして阿鼻叫喚の図。ただの植物だとなめないでほしいわね、この子たちの中には肉を喰らう子だっているし。

「な、なぜ!?なぜ悪魔に情報を売ったのです!」

その両腕を植物に捕らえられながら、髪を振り乱して叫ぶ美少女。これでも可愛く見えるのだから、愛らしいその顔はなんとも得をしている。


「なぜ?」

首を傾げてから笑みを浮かべた。塔にふわりと黒い影が舞い降りたのが見えた。


それでも口を開いた。





「それは、私が人ではないからよ」





目を見開いたあの人と、目があった。

人が嫌いだった。自分が人ではないと気づいてから、その想いは余計に膨らんだ。



それでもあの人と出会った時、人を初めて愛おしいと思った。



「最初はね、私も自分のことを人だと思っていたの」

もう、ずいぶん前の話になるけれど。

普通の貴族のお屋敷で、普通に育てられていた。治癒術の素質があることと、人より魔力が多いことを除けば、私は普通の女の子だったんだ。

「でも、違った」

私のお母様は、ある日告げた。私のお父様は別に居るのだと。


『クロエ、どうか許してちょうだい。愚かなこの母を、許してちょうだい』

絨毯の上で這いつくばって、幼い私に頭を下げたお母様は静かに泣いていた。


悪魔との間に子を宿したことを。その私を、お父様の子だと偽ったことを。私が、人とは違う時を生きなければいけないことを。

懺悔するように私の前で全てを吐き出すように、お母様は叫んでた。


私に治癒術の才能があるのは、お母様の家系にその血があったから。

私の魔力が人より多いのは、私の半分は魔族だから。


ほら、全てぴったりと噛み合うじゃないか。すとん、と納得した時お母様は私の胸にナイフを突き刺した。一緒に死にましょう、って。柔らかな絨毯が私の体を受け止めて、お母様が自分の喉元を切り裂いた。

温かな血が降り注ぐ。気持ち悪い。生ぬるい。



けれども、ちっとも痛くなかった。



気づけば、私は血だまりの中一人で座り込んでいた。お父様が私を発見してくれて、お母様だったものを見て涙をこぼした。お父様は大丈夫と繰り返しながら私を抱きしめてくれたけれど、この温かな体は、この私を撫でる柔らかい手は。人だ。私とは、違うものだ。


「ね?」


あの時と同じように、騎士の持っていた長剣を自分の胸に突きさせば、派手に血が噴き出たけれどちっとも痛くなかった。私は人ではないから。

「う、そだろ・・・?」

本当だよ。

嫌なタイミングでここへ戻って来てしまったオズワルドを労わるように微笑めば、悲しげに顔を歪められた。

あなたが愛おしかった。

同時に、いつばれてしまうんだろうって怖かった。


でも、もうそれも終わり。この城が、この国が、私が次に愛おしいと思ったあの子を害するのなら、私は全力で戦うと決めたから。


「オズワルド、さようならね」


柄にもなく照れて頰を染めながら、花の咲いた庭でお茶を飲んだ。花に負けないくらい、妹のことを、友人のことを、楽しそうに話すあなたに恋をした。



遠い、あの日。いつの間にか、遠のいたあの日。



「あぁ、こんなにも手が届かなくなってたんだね」

伸ばしたその手は、彼には届かない。それは私が人ではなかったからなのか、それとも単に意気地なしだったからなのか。




「さぁ私を捕まえれるものなら捕まえてみなさいよ!悪魔との混血の災厄の魔術師を処刑できるかしら?」

悪いのは私。

「この首欲しいのなら、私を跪かせることね。悪魔に精神魔法は効かないし、私はあなたのこと大っ嫌いだから、自分から処刑されあげようなんて思わないわよ!」

ヒヨリを照らしたハイライトを私のものにする。





「さぁ、聖女様。鬼ごっこを始めましょう?」





そう笑いかけてから、私はオズワルドに向かって手を翳す。今度は後悔するためじゃない。

決別するために。


「クロエ・・・・?」

「ごめんなさい」

目を見開いたオズワルドの胸のすれっすれの位置に持っていた短いナイフを突き立てる。現状での一番の脅威はオズワルドの力と、聖女の持つ浄化の魔法が不発した際にもたらす恐ろしい爆発。おそらくヒヨリがあそこまでボロボロになったのもそれが原因だろう。


だからこそ、私はここからあの子達を連れて逃げるために、オズワルドに止められるという可能性を潰さなくてはならない。

「チィッ」

オズワルドにまた精神魔法をかけて操ろうとでも思っていたのだろう。体が動かなければ駒は動かない。小さな舌打ちと、今にも殺されそうな睨みを聖女様から頂いた。


ナイフを抜いた際にあふれた真っ赤な血は、私の愛しい人の一部。

本当はごめんなさいって死ぬほど謝って、すぐに治癒術をかけたい。けど、死ぬような傷ではないはずだし、一度聖女に精神魔法をかけられているオズワルドは一緒には連れて行けない。いつ裏切られるかなんて、そんなリスクを犯しながらヒヨリを守れるわけがない。


とんっと突き放した胸を見つめていう。目なんて、とてもじゃないけど見れないから。


「私は悪魔なの。人間じゃ、ない」


傾いたオズワルドの体が地面に叩きつけられるのが、やけにスローモーションに見えた。倒れたその体はもう、動かなくなった。急所すれすれを刺したから、死にはしないだろう。

それでももう、一緒には居られないの。貴方を守りたくて強くしたこの力を、まさか貴方を傷つけるために使うことになるとは思わなかった。




反撃されない内にすぐさま塔の上に残っていたステラとヒヨリのところへ戻るとすぐに転移した。

未練など、感じさせないように。



「ほら、初恋は叶わないって言うじゃない」

苦し紛れの微笑みは、ステラにどう見えたのだろうか。



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