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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
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きっと、誰かのためならば

剣を振り下ろす男の姿が片目に映った瞬間、後ろに飛びのくようにしてその剣を避ける。驚くローブの男を視界に入れながらも、もう片方の目の内で真っ赤な血が飛び散るのが見えた。

私が斬られたわけじゃない。この片目の向こうに居る誰かが斬られたんだ。


突如として頭の中に響く悲鳴に、思わず顔を顰めた。


「おい。まだ動かないほうが・・・・」


伸びてきたローブの男の手を潜り抜けてから、目を押さえる。


「この、場所に・・・・赤と白の花の絵が飾られてる、豪華な部屋、あるでしょ?」


訳が分からないというようにローブの男が眉間に皺を寄せている。


「あるでしょ!?この建物の中に!!そこに誰かが捕まってる!酷いことされてるの!!」


痛い、痛い、痛い、と悲鳴を上げてるのはその誰か。

流れ込んでくる言葉をそのまま口から流し続ける。

頭の中で響く声がいよいよ激しくなってきて、こちらも理性を保ってられない。


「泣いてるの!!何かを、守らなくちゃ、って!叫んでるの!大好きなお母さんに頼まれたお願い事だから!絶対に!絶対に守りたいの!」


牢屋の中に私の甲高い声が響く。


「私をここから出して!あなた達が部屋を知らないなら私がそこを探す!そこを探して私が助け出す!」


「おいっ落ち着けって!何言ってるのか意味が分かんねぇよ!」


ローブの男が伸ばしてきた手に捕まって、身動きが取れなくなる。

がっしりと掴まれた片腕はどれだけ暴れても振りほどけない。


「離して!見捨てることなんてできるわけないでしょ!?このままじゃあの子達死んじゃう!あの子達、―――――ドラゴンも!ドラゴンの卵も!」


私がそう叫んだ瞬間、ローブの男が掴んでいた手が緩んだ。


「ドラゴン、・・・卵・・・・?」


信じられない、とでも言うように硬直している男の手を解いて牢屋の奥に走って距離をとった。

片目の中では今でも酷い惨劇が繰り広げられている。

お母さんに、守を頼まれたのだとその子は言ってた。

だから、自分がその卵を守るんだって、自分の大切な家族だから、って

そんな想いを踏みにじることなんて、絶対に許されない。少なくとも私は許さない。この世界であの生物がどんな扱いを受けてるのかなんて知らない。

もしかしたら、この世界ではああいうのは当然のことなのかもしれない。

だけど、私はそんなの許さない。

鎖に縛り付けて自由を奪って、大切なものを傷つけるなんて、許せない。


「ダ、から・・・わ、たし・・・い、かな、きゃ・・」


ぐるぐると視界が回り始めた。

今すぐに目の前に居る人たちを潜り抜けて、牢屋を飛び出したい。

そう思ってるのに、体は酷いだるさに襲われてあまり動かない。


「ごめ、・・ね?」


自分でも、なんで不意に謝ったのかは分からない。

けれども、次の瞬間自分の目が熱くなるのを感じた。

まるで泣きそうになる直前みたいな、つーんとする感覚。

目が少し痛い。


「おいっお前その目ッ!」


ローブの男が血相変えて駆け出してきた時にはもう遅かった。


「私を、・・・ココ、から・・・連れ出して。」


ゆっくりと、はっきりと、けれどもそう大きくない声で。

言い聞かせるように呟いた声が牢屋に響いて、次の瞬間には私の後ろにあった壁は崩れ去っていた。


「・・・・ありがとう。」


崩れた壁の向こうから顔を覗かせたのは真っ赤な真っ赤なドラゴン。

御伽噺で出てくるその巨体を目いっぱい屈ませて、私を大きな丸い目でじっと見つめてる。


『お前が・・・私を呼んだのか?』


言葉がすぅ、と頭の中にしみこんでいく。

目の熱さはもう止まってた。


「来てくれてありがとう。さ、早く行こう?あなたの子供を助けに。」


ドラゴンの言葉は私にしか理解出来ていないらしい。

後ろに男達が慌てふためいている声が聞こえてる。


「おま、その力は・・・・」


ちらり、と一度だけ後ろを一瞥して答えた。


「私の大切な、・・・大切な魔法使いの友達がくれた、贈り物なの。」


大切な大切な友達がくれた。

トキがくれた。

16歳の誕生日プレゼント。


「きっとこれを誰かのために使うことで建物を破壊しても、彼は怒らないと思うわ。」


一応謝っておいたけど、ドラゴンが壊した壁について謝罪の意思を向けておく。

ただそれだけ言っただけで、私はもう振り返ることはしなかった。

崩れた壁を潜り抜けて、赤い月の光が降り注ぐ芝の上に降り立った。

少し上の方に見えるのは、威厳たっぷりに聳え立つお城。


「・・・・・あの中に居る。」


チカチカと、あの城の中で何かが光っている気がした。

それに向けてそっと手を差し出す。


『あそこに・・・私の子が?』


「えぇ、そうみたいね。」


なんでそんなことが分かるのか?それは私もよく分からない。

けどなんか直感で、そんな気がする。

私に助けを求めた誰かは、絶対にあそこに居る。


ここは離れの牢屋だったのか、周りは木々に囲まれていて城へ行くには少し遠いようだった。


『全く・・・人とはだから面倒くさい生き物なのだ。』

「うわ、」


可愛げもない声を上げる私を、ドラゴンはひょいと頭の上に乗せた。

ごつごつとした鱗を手でしっかりと掴みながら、急に高くなった視界に驚く。


『さぁ、行くぞ。』


ぶわ、と

巨体がものともせずに浮き上がる。

どんどんどんどん視界が上へと上がる。

近づいてくる赤い月をチラリと見てから、しっかりとまたドラゴンに掴まった。


今助けるからね。


呟いた言葉が聞こえていたかのように、ドラゴンは一気に加速して城まで飛んでいく。

夜の冷たい風がビュンビュンと私の後ろへと行くのが分かる。

ファンタジー。不可思議。

言いたいことはたくさんあるけど、私にとってこういうのは初めてじゃない。

何回かトキと一緒に世界を渡らせてもらったこともあったし、魔法だって見たことないわけじゃない。


ただいつもと違うのは。


私の隣にトキが居ないことだけ。


この期に及んで甘いことを考えている自分を叱咤して、若干弱く光始めた赤い光をまた見つめなおした。


トキ、私はひとりでもやるからね。


意外に心配性なトキに向かって、私はそっと心の中で呟いた。



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