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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
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乱入者

いつも読んでくださる読者様、ありがとうございます。

私達を見つめる”黒”が優希ちゃんの言葉に嬉しさを滲ませたのが分かった。

溢れそうになる涙を拭いながらこちらを見て必死に頷いてる。そうだよ。私はあなたの友達だよ。って。


あぁ、なんで気づけなかったんだろう。最低だ。


「陽依!結界は!?」

「あとちょっと!!」

手にまた力を込めた時、ふと誰かが私の腕を掴んだ。身体の中で暴れだしそうな怪獣のような怒りを一直線に私の腕を掴んだ人物に向ける。邪魔しないでよ。


「だ、んちょ・・・?」

髪を振り乱して暴れていた優希ちゃんが動きを止めた。周囲の人も突然現れたこの人に驚いたように身体を固まらせていた。

「”団長”?」

優希ちゃんの言葉を復唱するように呟けば、その人は私の腕を掴んでいた手に力を入れて無理矢理結界から引きはがしながら口を開く。


「ユウキ、ヒヨリ様を連れてここを離れろ」

「ま、待って団長!」

「ついさっき上から連絡があった」

「話を、」

「結界はすぐに開く。総員突入準「団長!!!」


藍色の髪の毛がよく似合う背の高い男の人だった。もしこの人がユウキちゃんがいつも話す騎士団長だというのなら。歴代で最年少でその地位につき、その強さと容姿の良さも相まってこの国じゃ知らない人は居ないっていうあの騎士団長なら。


「ユウキ、我が儘を言うな」

「っ」


助けてくれるかもしれないってちょっと思ってた。優希ちゃんが尊敬してるんだ、って嬉しそうに言ってたその人にちょっとだけ期待してた。


まぁ世界はそんなに甘くない。騎士団長はすがる優希ちゃんを宥めるように頭を撫でると、護衛騎士の方へ肩を押した。私の腕も掴んだまま護衛騎士の方へ引っ張って行く。その容赦のない力に顔を歪ませれば、申し訳なさそうにその人は顔を歪めて少し力が弱くなった。


優しい人なのかもしれない。でも仕事だからしょうがないよね。この結界から私達を安全なところに逃がすのでしょう?だったら私も我が儘は言えないから。



自分で何とかするよ。



「だ、団長!上から結界の所有権が乗っ取られたとの報告が!」

「結界が開きません!!」

ほとんど感情を出さなかったその顔が、目に見えて歪んだ。驚きに染まるその顔を見て思わず口角が上がるのを抑えられない。性格悪いとか言わないでよ。


「優希ちゃん、」

油断した騎士団長の腕を振り払うのはそう難しくない。続けて捕まえようと伸ばされた手をひらりと躱しながら優希ちゃんの手をとった。目を見開きながらも優希ちゃんが私の手を握り返してくれたのが分かる。一瞬の勝負に鼓動が早くなる。結界に向かって一直線に突っ走る。結界を見上げれば青空が眩しい。目を細めながら伸ばした手を横へ振る。



「開け!!」



従順に私の命令に従って口を開けた結界に騎士団の人達がどよめいていた。少し気分が良かったけれど調子に乗ったせいだろうか、履き慣れない踵の高い靴に転びそうになる。


「さいっこうじゃん!」


繋いだ手を引っ張られて顔を上げる。優希ちゃんの金髪がきらきら光ってた。2人で半ば転びながら結界の中へ飛び込む。優希ちゃんが土ぼこりにむせながら笑う。私もなんだか気分が良くなって笑いが止まらない。


私に乗っ取られた結界に上の人達は右往左往しているようだった。実況の人が現状を理解できてないかのようにうろたえて、その声に稀に野太い貴族の声が混じって奴隷がなんだと言っている。


「だ、大丈夫っ・・・?」

倒れ込んだ私達の視界に薄い青のワンピースが映る。足首にはしっかりと刺青が刻まれててそれが尚痛々しかった。





「千里っ・・・・・!!」


勢いよく身体を起こした優希ちゃんに引っ張り込まれるように千里ちゃんの身体も傾いた。


千里ちゃん。召還されてからほとんど会ってなかったけど、まさか闘技大会に出てるなんて思わなくて見つけたときは心臓が止まるかと思った。何があったのか分からない。それでも何もなかった訳がないことは、その白い髪と傷だらけの足が物語っていた。


さらに痩せたその細い身体を優希ちゃんが優しく包み込む。千里ちゃんが戸惑ったのも一瞬で、次の瞬間にはその両手で優希ちゃんにしがみついてた。


「私っ、私よかった、よかったよ・・・!」

何が良かったのか。混乱しているであろう千里ちゃんの瞳からはぽろぽろと涙が落ちて行く。感動の再会っていうのはまさにこういう奴だなって思っていると、千里ちゃんが泣きながら私の両手を掴んで言葉にならない声でお礼を言ってくれてる。


「ヒヨリ!一体どうなってんだ!?」

駆け寄って来たオズ兄さんに驚いたように千里ちゃんが身体を固まらせていた。肩から掛けていたカーディガンを千里ちゃんに掛けてから、オズ兄さんに事情を説明しようと立ち上がる。

オズ兄さんは話をちゃんと分かってくれる人だし。きっと説明したら納得してくれる。あまりにも細くなってた肩。彼女を早く王城へつれて帰らないと。


「それが————「ウォーベック、何をやっている。早くその少女を捕らえろ」

響いた低い声は怒りを滲ませた。


ぱらぱら自分に降り注ぐ欠片に結界が砕け散ったことを悟った。一体、どうやって。何が起こったのかすら分からないこの状況で、騎士団長が悠然とこちらに向かって歩み寄る。鞘から抜かれた剣には鬱陶しいくらいの精霊が纏わり付いている。あぁ、確かにあれで斬りつけられたらひとたまりもないな。


「は?その前にヒヨリの話しを、」

「そんなこと言っている場合か?とりあえずはこの状況を沈静化するのが先だろう」

「団長待って!この子は聖女様の友達よ!そんな人に手を出していいと思ってるの!?」

千里ちゃんを庇うように背に隠した優希ちゃんが叫ぶ。騎士団長はその言葉に少し迷ったように王族の席の方に目をやった。


そこに居る王子の横には目深に帽子を被った雛ちゃんが座っていて、その黒く大きな瞳がこちらの様子を興味深げに見つめていた。



「ひなちゃ、っ」

『私、その人のこと知らないわ』

千里ちゃんの言葉は途切れた。


「だそうだが?」

「雛!?」

『私は城の外へ出た事がありませんから・・・・えぇと、どちら様ですか?』

マイク越しの雛ちゃんの声が千里ちゃんの心を確かにえぐった。中途半端に口を開いたまま凍り付く彼女に優希ちゃんが信じられない、と目を見張る。


確かにあの可愛らしかったボブの髪型は見る影もない。色の抜けた白い髪は見慣れない。でも。それでも。

「や、だ・・・!」

千里ちゃんが零れ落ちる涙を拭いながら、少しでも騎士団長から距離をとろうと走り出す。今離れたら余計に危ないのに。

「待って!!」

私が叫んだのが先か。優希ちゃんが叫んだのが先だったのか。




目の前で、閃光が走る。




「早く捕らえてって言ったじゃないですか」

気づけば後ろに貴族みたいなキラキラした格好の男の人が立ってて。とにかく良いものを食べたんだろうな、って分かるぐらいにでっぷりとした身体に気持ち悪さがこみ上げる。


怯えたようにその男の人の傍で腕を突き出すのは、今の魔法を放ったであろう魔術師。魔術師の中ではそれなりに若そうな彼は腕を震わせながらひたすら俯いていた。権力で脅されたのか。金で釣られたのか。


それでも彼は千里ちゃんを傷つけた。


「あーぁ・・・・・」

諦めにも似た感情が私の中でため息をついた。だからあまり私の感情を揺さぶらないで欲しいのに。

千里ちゃんの肩に掛かっていた私のカーディガンがまっぷたつになってた。

優希ちゃんが叫びながらその身体を抱き起こすのが見えた。

その背中に真っ赤な血が滲んでるのも見えた。


だからこれはもうしょうがないことだ。


「私が、力を、抑えられなくても、しょうがない、」


鳩尾から、手を離した。


「あああああああああああああああああ!!!」

身体が痛い。魔力に身体がついていかない。溢れ出す魔力の奔流にオズ兄さんまでもがよろめいたのが分かる。それでもかち割れそうな頭に手を当てながら、会場の地面を削って作った岩を貴族に向かって投げ飛ばした。


そんなことしたら死んじゃうとか、正直言ってどうでも良かったかもしれない。


「ヒヨリ!」

瞬時に展開された防御魔法。さすがオズ兄さん。でもまだ次がある。

そう手を構えた時。

私の魔力が誰かに引っ張られて行くのが分かった。



「いやいや、これ程の魔力があるとやっぱり入り口を作り易いねぇ」



背中に何かが這っていくような感覚に身震いして、吹っ飛ばそうとした岩の塊を反射的にそちらに投げとばした。

「ちっ」

当たってない。狙ったとこは良かったはずなのに手応えがなかった。魔力を外に出す事で幾分か落ちつく。

そして気づいた。


優希ちゃん達はさっきこっちに居たんじゃなかったっけ?


全身の温度が急激に下がっていくのが分かった。砂埃の向こうで千里ちゃんの身体を抱えたまま泣いていた彼女。おそらく2人ともあそこから移動してないはずだ。

駆け出そうとした私の前で砂埃の向こうで影がゆらめく。それは期待した私を裏切るようにたった1人の背の高い影で。それが優希ちゃんでも千里ちゃんでもないことは明らかだった。


「あーあ、そんな容赦なく攻撃しなくたっていいのに」

それはまるで言葉の出ない私を嘲笑うかのように目の前に現れた。オズ兄さんと同じくらい背の高い男。見た目はオズ兄さんよりも少し上くらい。白に近い金髪に青白い肌。


人。人のはずだ。

でも私にはそれが人の形をしている何かにしか見えなかった。


にんまり、と口元は笑みを描いたままそいつは私に向き合う。不自然に整いすぎたその顔には寒気がする。こいつは危険だと、私の本能が警報を打ち鳴らしている。


「あなた、何・・・?」

「あんたにとって、俺はグレーだ」

そういって何でもないように私の肩を叩いて笑う男。身体が動かなかった。恐怖。戸惑い。グレーって何?

それでも男がそっと身体を避けた先を見れば力が抜けた。


「陽依っ私達は大丈夫!」

無事だよ、と大きく手を振る優希ちゃんにその傍でけろりとした顔をしている千里ちゃん。一体何が起こったのか。派手に出血した様子があるのにちっとも千里ちゃんは苦しそうじゃ無い。

「あなた何したの!?治癒魔法・・・?魔術師なの?」

「違う違う。そんな人間くさいもんじゃない」

「人間くさい?」


私の言葉に思い出したように男は手を叩いて言った。

「そうそう!俺あんたにとってはグレーだけど、こいつらにとっては真っ黒なんだわ」


そう言ったのと、目の前が爆発したのはほぼ同時だった。

「オズ兄さんッ!!」

駆け寄ろうとした矢先に熱風に顔を叩かれる。何のモーションもない魔法だったけど、私の横に立っていた男がこれをやったんだ、って言われなくても分かってた。戸惑いと同時に沸々とわき上がる怒りに手が震える。

「なんで!?なんで、こんなっ・・・・!」

胸元を掴み上げれば血の通っていないような青白い肌が服の下から覗く。人間味のないその赤い双眼が私を見下ろして呆れたような笑みを浮かべる。


「何で笑ってられるの!?おかしいよ!こんな酷いこと、っ・・・・人間じゃないっ・・・・!」

男にしては細い腕が胸元を掴む私の手を外して暴れられないように力を込める。上手く吐き出せなくなった怒りに視線が鋭くなる。




「ま、正解だな。俺、悪魔だし」




目の前に居る人外はあっけらかんと言い退けた。



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