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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
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親友と呼んだ人

更新が不定期になってしまい、申し訳ありません。

いつも読んでくださる読者様、ありがとうございます!

あぁ、人間死ぬのって本当に突然なんだなぁ。


死神に会った時も、ドラゴンと対峙した時も、死ななかったのに。まさかこんな訳の分からない出来事で死んでしまうなんて、人生ほんと何が起こるか分からないもんだ。


空気が少なくなった身体はゆっくりゆっくり、水の中に沈んで行く。


あぁ、こんなことなら今日はもっと優希ちゃんと話しとくんだった。

オズ兄さんとも、もっとたくさん話したいことあったのになぁ。意地悪でいつも喧嘩してるから言い出せなかったけど、魔法を使えるようになったらフィーともしてみたいことがあったのに。


全部全部、出来なくなっちゃうんだなぁ。


魔法陣が急に池に変わって溺死。なんて馬鹿らしい死に方。誰かが私を憎んでこんなことをしたのかな。その犯人すら分からず私は死んでしまうんだ。


蓋の上に誰かが立って私を見下ろしているのはかろうじて分かる。けれどもその誰かに心当たりなんてある訳もなくて、ただ頭の中に浮かぶ人達で無ければ良いと切に願った。


ふと沈む身体の真ん中で何かが光っているのを見つけた。今にも死んでしまいそうな私の見る幻覚なのか、胸の辺りが青白く光っている。何かそこに入れてたっけ?あぁそういえば、青い石を入れた袋を首から下げていたんだっけ。


そっと胸元から取り出せば、青い石が巾着から零れ落ちる。確かに光を放っているのはこの石でその光は心なしか暖かい。


ふと、小さな声が聞こえた。


誰かが話してる。それは蓋の上に立っている人物ではないのは確かで、私に話しかけているわけでもないようだった。ただ、切実に祈るようなその声を私は知っている。その声はだんだんと大きくなる。それと同じように強くなる石の光に気づいて、そっと掌からその石を取り出した。


この石からこの声は聞こえてる。掌から飛び出した瞬間光は四方八方に飛び散る。


『ヒヨリ、どうか生きて』


そう願う声を、人物を、私はかつて親友と呼んだんだった。


「セルってばそんなところに居たんだ」


くるりと身体を反転させれば、石の放つ光が蓋に影を作った。もう半分夢かもしれないと思う頭を無理矢理動かして、どうにか上へと這い上がる。


『私を!私を使いなさい!私はヒヨリに親友だと言われたのよ!?私の存在をフィーの代償としてかけるから!だからどうか、全てを奪わないで!ヒヨリの夢を、っ異世界に戻りたいと願う心まで消してしまわないで!!』


声が聞こえる。彼女が、セルが消えたのは私の思い出を守るため。私の願いを守るため。全部、私を守るためにしてくれたことだった。


『絶対に、夢を諦めないでくださいね?大切な人のことを忘れてしまっても、ここで私が言ったことは忘れないでください。あなたは元の世界に帰るのです。それだけは、絶対に諦めてはいけないのです』


うん、セルがそういってくれたから私は今でも諦めずに居られたんだ。ゆっくりゆっくり近づく蓋の自分の影に必死で手を伸ばした。


こんなにも簡単に諦めてたまるか。セルの想いを無駄にしてたまるか。こんな大切な親友のことを忘れてたなんて本当にどうかしてる。でも、もう思い出したから。二度と忘れない。セルが私にしてくれたこと、セルが私に願った事。


それは、私が何としても生きなければならないということ。


手が、影を掴む。

「セル、ありがとう」

振り返ると、水の中に白いワンピースを着たセルが浮かんでる気がした。


『ヒヨリ、どうか生きて。生きて、幸せになって』


その声を聞いたのを最後に、影の中を身体が潜り抜ける。ところどころに穴の空いた変な空間にまた飛び出る。私が出て来た穴は私の後ろでどんどん小さくなって行く。

「まって、まだ石が」

ふわり、とセルが笑ってこちらに手を振った。

これで、本当にさよならなのだと。もう、その声を聞く事もできないのだと。

穴に向かって伸ばした手は、塞がった後にぺたりと真っ黒な壁に触れただけだった。

「セルっ・・・・・・!」

どん!と壁を叩けば空しい音だけが暗闇に反響する。ずるずると壁にすがるように座り込めば、少しだけ自分の呼吸が落ちついた。頬をつねればやっぱり痛くて、私がまだ生きていることをそれは示していた。


「ふっ、う、っ、あ、ぁぁ、ああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」


私は世界一優しい親友を失った。

冷たい頬の上を熱い涙がぽろぽろと落ちてった。叫んでも、叩いても穴が再び開くことはない。きっと向こうに影が出来ない限り開かないのだろう。だから何をしても無駄なのだ。分かってる。そう、分かってるのに何もせずには居られなくて、しばらくその場で泣き叫んでいた。


声が出なくなって、嗚咽が次第に収まって、涙も枯れた頃には次に何をすべきか考え始めた。

服は相変わらずずぶ濡れ。でも今日は晴れてたしどこで濡れたのかと聞かれれば答えられない。異世界の聖女様と崇める人の友人が殺されそうになったとなれば、宮中は大騒ぎになるだろうし私はさらに身動きがとれなくなってしまう。


「どうしたもんかなー・・・・・」


小さく呟けば、目の端に水面の光が反射して出来るらしき影が見えた。ゆらゆらと揺らぐそれはどうやらそう深くないため池の影らしい。池に蓮のようなものでも浮かんでるのかもしれない。このぐらいの大きさだと通れそうだし、池から出て行けばうっかり落ちたってことですませられるかもしれない。


くぐり抜ける前に十分注意しながら深く息を吸い込む。さっきみたいに溺れかけるのは二度とごめんだから。くぐり抜けたそこは日差しの差し込む綺麗な池だった。近くに居るのは小さな魚ばかりで、警戒するような相手も居なかった。


これなら安全に上に行ける。誰かの見られても大丈夫な言い訳は考えててきたし、と底を蹴って水面へ向かおうとした時、水草が足に絡まりついた。まぁさっきに比べればそう焦ることでもないし、と足を振って水草を振りほどこうとした時。


水面で、泡が弾ける。


何かがこの池に飛び込んで来たのが分かった。その何かは日差しが強くて見えないけど、どうやら人のようで私に向かって手を伸ばしているのが分かった。私を助けようとしているようだった。


さっき殺されそうになったばかりで安心は出来ない、と思いながらも手を伸ばせばその人はしっかりと掴んで私の身体を持ち上げてくれた。敵じゃなくて良かった。水中戦闘とか嫌だし。


「ヒヨリっ!!お前っ!大丈夫か!?」

「え」

「というか馬鹿なのかっ!?こんなに水が冷たい時期に、飛び込むとか!命しらずにも程がっ!」


息絶え絶えの様子のその人は私を陸に引っ張り上げるなり私を怒鳴りつけ始める。まさか、この人が飛び込んで助けるとは思いもしなかった。


「アシル、さん」

「なんだっ!?」

文句でもあんのかコラ、ってその顔に書いてあるから逆らったら殺される気がするけど、一応ちゃんと考えた理由は説明しないと。ほら、折角考えたわけだし。

「いや、あの、足をこう、つるーんとね、滑らせちゃったわけですよ」

「阿呆か!何故こんなところをお前がうろつく!」

こんなところ、と言われて辺りを見渡せば一番最初に目があったのが、戸惑った顔をした雛ちゃんだった。はて、とさらに辺りを見渡せば顔を真っ青にした騎士が2人。王子の側近だろうか。それと見えるのはあまり見覚えの無い建物ばかり。うーん、ここはどこだろうね。


「道に、迷ってしまったんです」

「っ、・・・・はぁー」

何か言おうと口を開いたアシルさんは、結局を髪をぐしゃぐしゃとかき乱しながらため息をつく。すいませんねぇ、ご迷惑おかけしてしまったようで。

「ここらは神殿の建物だ。その中庭でお前が溺れるなんて、さすがに俺も焦ったぞ」

「私も溺れて焦りましたね」

暢気にそう返せばしばかれた。痛い。この人王子だからってやっていいことと悪いことがあると思うな、うん。まぁ、言えないですけどね。


「オズワルドと医師を呼んでくれ。この阿呆を回収してもらわねば」

「阿呆阿呆連呼しすぎです」

またじとり、と睨まれたからもう何も言わないけど。アシルさんがふと気づいたように私の頬に手を当てる。

「こんなに青白くなって、・・・・・・一体どのくらい潜水してたんだ?」

「水草が足に絡まっちゃって、離れなかったんです」

「はぁ、俺のも濡れてるが、多少はマシになるかもしれない」

そう言ってアシルさんが重たい軍服のようなそれを私の肩に掛けてくれた。本気で心配してくれただろうその表情に、小さな声でお礼を言えば片手で軽く頭を撫でられた。

「ともかく無事で良かった。これで死んでたらどうなってたことか・・・・・オズワルドやフィンに恨まれるからな」

「大丈夫です。生きてますから結果オーライです」

オーライ、の意味が分からなかったのかアシルさんが眉を顰めたけどスルーした。さすがに疲れすぎた。もう足ががくがくして使い物にならないもんね。

「陽依さん、怪我はないのですか?」

「あ、うん。大丈夫だよ。ありがとう」

ようやく状態を理解したように私に話しかける雛ちゃん。その顔は私の返答にほっとしたらしく、続けてアシルさんに視線を向けた。アシルさんは側近さんに怒られている最中らしく、顔を真っ青にした2人があーだこーだ叫んでいた。まぁ、あの人あれで王子だからね。あれで。


「・・・陽依さんは、アシル様と仲が良いのですね」

「まぁ、ただの友達だけどね」

「友達・・・ですか?本当に?」

繰り返し確認するように問い返す雛ちゃんに笑みを向ける。その頬は少し赤らんでいて、こういうのを女の子って言うんだろうなぁって思った。


「ヒヨリっ!無事か!?」

伝達が言ってすぐに来てくれたのか、オズ兄さんがいきなり目の前に現れる。転移魔法だって最高位の魔術師はひょいっとやっちゃうんだよね。慌てたように私の前に座り込んだオズ兄さんは私の肩を勢いよく掴んで顔を顰めた。

「こんなに冷えて・・・・!」

小さく何かをオズ兄さんが呟くと、周りの精霊が反応して炎に変わる。暖かい火に包まれて震えが幾分か収まると、オズ兄さんはふと気づいたように呟いた。




「ヒヨリ・・・・その、首のはなんだ?」

「首の?」

何かあったっけ、と首筋を触れば蘇るのは、ぬめりとした気持ち悪い感触と少しの痛み。嫌だな。痕でもつけられたんだろうか。

「きっと蚊にでも刺されたんでしょう」

「朝にはなかったな」

「その、ここら変に迷い込んだときに」

「王子、あなたじゃないですよね?」

「馬鹿をいうな。そんなこと恐ろしくて出来るわけないだろう」

うんざりした顔をしたアシルさんのことも否定する私の言葉も耳に入れないままオズ兄さんは1人でしゃべっている。


「ステラ、ヒヨリのこの痕はいつからだ?」

「はい、少なくとも魔法の授業の前にはなかったかと」



「・・・・・・・・・まさか、あの男じゃないよな?」



さて、どの男でしょう。目をずらせばオズ兄さんの肩を掴む力が強くなる。

「・・・・それだけだから。他に何かをされたわけじゃないし」

むすり、としながら答えればオズ兄さんはにっこりと笑みを返す。あぁ、なんだか怖い顔だ。

「で?」

「いや、だから、問題にすべき程では」

「で?」

「だって問題にしたら私魔法学べなくなる」

「・・・・・・で?」

「・・・・・・魔法の先生に、ちょっと、押し倒されました」


はい。負けました。オズ兄さんの後ろに鬼が見えたよ。あんなにニコニコしてるのに怖いってどういうことだよ。

「・・・・・・首、だな」

それは先生役をクビってことだよね。まさか物理的に首が飛ぶわけじゃないよね。怖くて聞き返せない私にステラがそっと寄り添ってくれる。

「ヒヨリ様、立てますか?」

「ごめん、力でないや」

「俺が転移魔法で運ぶ」

とんとん拍子に話が進んで、私はどうやらとりあえず部屋で医師に見てもらうことになったらしい。オズ兄さんがだるい身体を支えてくれてなんとか立ち上がれば、ステラも近くに寄り添う。このまま一緒に部屋に戻るらしい。

「ヒヨリ、風邪をひかないようにな」

「アシルさんこそ。助けてくれて、ありがとうございました」

笑みを浮かべて見せれば、私の首筋に憎らしげに少しだけ目をやってからいつものような笑みを返してくれた。本当に、物理的に首飛ばないよね。庇う訳じゃないけど、怖いわ。

別の意味で震えの走る身体の周りに、精霊が集まり始める。


「では、王子。聖女様。お先に失礼いたします」

短く呟かれた言葉を最後に、精霊が光を放ち始めて身体が妙な浮遊感に揺られる。少し酔いそうだ、と思いかけた時気づけば見慣れた部屋が目の前にあった。

「すぐに湯浴みをしましょう」

そう言うとすぐにステラがぱたぱたと駆けていってしまった。確かに、暖かいお風呂に入りたい。





「じゃあ、俺の説教はその後にしようか」





唐突に落とされ爆弾は本当にお風呂に入った後爆発した。

そりゃもう、盛大にくらいましたとも。


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