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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
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私の中の力を

はい、おはようございます。朝ですね。身体がばきばき言うし、あんまり睡眠の質はよくなかったみたいだけど、なんだか心は満足してるって感じです。何の夢だったかは思い出せないんだけど、きっとあの人の夢でも見たのだろう。


いつも通りステラに挨拶して、ステラと言い合いながら服を選んだ。そうしていつものように部屋で1人朝食をとってから、オズ兄さんの塔に挨拶に行く。

「オズ兄さん、おはよう」

「ん、あぁ、ヒヨリか。おはよ」

眠そうな顔で机に向かっているオズ兄さんの顔は、眠そうっていうより今にも寝てしまいそうで。その様子から今日はどうやら徹夜だったのだろう、と推測してステラに暖かいお茶を淹れてもらう。魔法のことになると、オズ兄さんといいフィーといい夢中になりすぎるから困りものだ。


「ヒヨリは今日も魔法の授業なのか?」

「うん、まだ全然魔法は使えないんだけどね」

知ってるのは知識としてぐらいで、肝心なことをあの先生は教えようとしない。もしかしたら、私が敵対するための攻撃手段を求めているとでも考えてるのかもしれない。まぁ私は色々問題起こした問題児だものね、そう簡単に危ないものは任せられませんってか。

「まぁ基礎知識は大切だからな。しっかり学んでおけよ」

「その基礎知識とかをちゃんと勉強すればオズ兄さんみたいになれる?」

「んー・・・・いや、それは、・・・・どうだろうな?」

そんな微妙な顔するくらいならはっきり無理だと言ってください。何も私だってこの国の最高位レベル目指してる訳じゃないんですから。


むすっ、としてみせればオズ兄さんは慌てたように私にお菓子をすすめてきた。チョロいな。


「じゃ、オズ兄さん今日はもう帰るね。優希ちゃんとお茶会あるから」

「おう。あまり迷惑を掛けないようにな」

「掛けないってば。いくつだと思ってるの」

最近オズ兄さんは保護者化が進んで来たように思う。


赤の塔を出てから一度ステラに身だしなみをチェックしてもらってから優希ちゃんと約束してた中庭に急ぐ。なんだかんだで彼女もこの異世界ライフを満喫しているらしく、2人の予定が合うことは中々ない。


渡り廊下をパタパタ走れば、ステラに後ろから嗜められた。ごめんごめん、と謝りながらも中庭に視線を走らせて優希ちゃんを探す。

「優希ちゃん!」

「陽依っ!こっちこっち!」

黄色いワンピースをまとった優希ちゃんがこっちに向かって大きく手を振ってくれている。その先には彼女の侍女と小さめの机と椅子のセットがある。優希ちゃんの侍女にはもう何度か会ってるから大分慣れてて、もう声を掛けれるくらいにはなった。


「久しぶりっ!会いたかったー!」

駆け寄った瞬間とんでもない腕力で抱きつかれて、思わず腕を叩いた。ギブギブ。

「ゆ、優希ちゃんっ・・・ちょっと、腕の力強くなった?」

「あっやっぱり分かる?そうなんだよねーやっぱこっちの剣って重たいからかなぁ?」

自分の二の腕を触って顔を顰める優希ちゃん。そう、女の子にしてはむきむきなのである。まぁそれは彼女がこの城でやってることのせいなのかもしれないんだけど。


優希ちゃんは今、この城で剣を習ってる。それは戦いたいとかそういうんじゃなくて、元々優希ちゃんが剣道をやっていたからって理由。家は有名な道場らしくて、剣道の腕もいいから表彰されてるのを見たこともある。というわけでこの際、異世界の剣を習ってみたくなって、今は騎士団の人達に混ざって習ってるとか。中々筋が良い事で団長さんに認められてるんだって。


「剣ってやっぱり元の世界とは違う?」

「もう全然違う!竹刀みたいに軽くないしねー」

手が痛いんだー、と見せてくれた掌にはタコがいっぱい出来てた。でも優希ちゃんは満足そうで、帰ったらこの剣技を父親に見せるのだと楽しそうに語ってくれた。


そう、彼女はまだ帰れないという真実を知らないから。


「うん、楽しみだね」

私には、微妙な相づちを返すことくらいしかできない。


ふと優希ちゃんの頭を見上げれば、そこにはショートの金髪がある。この世界じゃ珍しくないこの色だけど、私達の居た国ではもちろん珍しい色で無論優希ちゃんの髪の毛も染めている。お父さんに反抗して染めたって聞いてたけど。


一体、その髪を染めてからどれくらいたったのか。


そろそろ髪の根が元の髪の毛の色になってきてもおかしくない。なのに優希ちゃんの髪の毛は相変わらず金ぴかだ。


もしかしたら私達がこの世界では長く生きてしまうという謎は、単に身体の成長が遅いからかもしれない。だから髪の毛が生えるのも遅くて、優希ちゃんの髪の毛の色は変わらない。


まぁそうだとしても、どうしようもないんだけどね。


「ヒヨリ様」

優希ちゃんと話してた最中に、そっとステラから声を掛けられる。そうだった。この後はあいつの授業だった。

「ごめんね優希ちゃん、私もう行かなきゃ」

「あ、この後授業だっけ?」

「そうなんだー私も優希ちゃんに見せれるようになるくらい頑張るね」

そう言って笑えば、優希ちゃんが不意に暗い顔をした。


「・・・・あんまり、頑張りすぎないようにね」

優希ちゃんは、あの事件の後から過度に私を心配するようになった。まぁ私が心配かけてるんだけど。あの日、優希ちゃんはずっとホールの外で私を待っててくれたのに、出て来た私は血だらけで更に途中で意識を失っちゃうもんだから相当ショックだったらしい。


「陽依体調悪そうだし、無理はしないでね」

「うん、ほどほどにするよ」

私があまりよく眠れなかった事、まるで見抜いてるみたいだった。


それから優希ちゃんと別れると、あの重い教科書を持って授業のある部屋まで行く。もうこの教科書持つだけで腕が鍛えられちゃってるからね。


私の顔色は余程悪いのか、いつもより心配そうな顔をするステラに手を振って部屋に入る。目に入るぺかぺかした男に無理矢理笑顔を浮かべながら。


「やぁ!よく来たねレディ!今日はとっておきを用意しておいたんだよ!」

「・・・・・とっておき?」

嫌な予感しかしないですけど。男が興奮したように私に差し出して来たのは、小さな箱だった。

「これはだね魔力の量・・・つまり壷の大きさを計るための道具なのさ!今日は特別に借りて来たんだよ!」

特別特別、と連呼しながら押し付けられた箱の中には小さな水晶玉が入っていた。どうやらこれに魔力を注ぎ込めばいいらしいんだけど。

「・・・・魔力ってどうやって注ぎ込むんだろ」

小さく呟いた言葉を男は聞いていないらしく、さぁさぁと催促される。そんなことされてもなぁ。

「きっとレディの魔力はひな鳥のように可愛らしい量かもしれないけれど、計ってみるのは良い経験になるからね」

そう言われて無理矢理掴まれた手を、ぴたりとその玉に当てられる。



その瞬間、何かが私の中にある魔力らしきものを引きずり出そうとしているのを感じた。


ひんやりとした何かが腕から私の中へと入り込んで来て少しずつ身体の奥へ進んでく。さっき男は魔力の量を計るためだと言ったけれど、私にはそうは感じられなかった。


これは私の身体の内側にどんな力があるのかしらべる道具だ。


「や、だ・・・・!」

例えば、死神の力とか

「嫌だっ!やめてください!!」

これがばれてしまえば、私はここに居られなくなってしまうかもしれない。どんなに叫んでも相変わらず手を離してくれなくて、私は怯えながら水晶玉を見てる事しか出来なかった。


水晶玉の、色が変わる。


青、黄、赤。

それはまるで信号の色のよう。ゆっくりと色を変えると赤色でピタリ、と止まる。

「レディ!君は素晴らしいよ!この国でも最高位の魔術師しか持っていないと言われる赤色を出すなんて!!ここ数年は聞いた事無いぞ!?」

興奮したようにどこかを見て叫びだす男を震えながら見つめた。あいつはこっちを見てない。


水晶玉を見ていたのは、私だけ。


赤がゆっくりと濁って、黒に変わる。

「っ、」

きっとこれは出してはいけない色だ。変わる色はきっと3色だけで、この色は普通の人が出す色じゃない。

死神を連想させる黒を男に見られないように、素早く手を男から振りほどいた。水晶玉を手放せば中に浮かんでいた色はぱっと消えてなくなった。


「すごいすごいすごいぞ!!!やはり私は間違ってなどいなかった!この女を手に入れればっ!そうすれば私の家は永久の繁栄をっ・・・・・・!」

「せ、先生・・・?」

水晶玉に気をとられて気づかなかったけど、この男の反応は尋常じゃない。気持ち悪いぐらいに荒くなった息と、やたら赤くなった顔からとてつもなく興奮してるってことは分かるんだけど。様子が少しおかしい。


「やはり力づくでも私の手にっ!」

え、


漏らした声は音にならなかった。気づけば背中を強かに打ち付けていて、視界には気持ち悪い男の顔と天井が溢れる。今こいつに押し倒されたんだって少し遅れて理解した。

「やめてくださいっ!!!」

生温い息が首の辺りを掠めて、それだけでも吐き気がした。腕を押し付ける力はやはり男性のもので、私なんかじゃ太刀打ちできない。


ふと、男の影が私に重なった時。

声が、聞こえた。


『この女を力づくにでも手に入れてしまえば俺のもんだっ!誰にも渡すものか!誰かの手の内に入る前にっ既成事実を作って————』

感じた事も無いくらいの恐怖が私を襲って、足ががくがくと震えた。


エリオスの力を使うしか、と考えた私の首筋にぬめりとした感触と、少しの痛みが走った。


自分の中のストッパーが吹っ飛んだのは一瞬の出来事だった。


「はっ、っはぁ、」

気づけば男は壁に打ち付けられて気絶していて、私の周りを真っ黒な影が覆っていた。一瞬のことだったから、力を見られたかどうかは分からない。


私、殺されるのかな。


足下からひんやりとした恐怖が這い上がって来る。死にたくない。オズ兄さん達ともっと一緒に居たい。


「”あの人”に、会いたい・・・!」


すぐにでもこの場から離れたくて、震える足を叱咤して部屋を飛び出した。どこに行ったらいいのかも分からなくて、ひたすら知らない道を適当に曲がり続けた。

それでもたどり着いたのは手入れされた庭のような場所。城の外に出ることすら、城壁の傍まで行くことすら私には出来なかった。


あの男がもう目を覚ましたかもしれない。

私の力のことを、もう誰かに話したかもしれない。

今にも処刑する準備が始まるかもしれない。


「誰かっ・・・・・!」

そう小さく叫びながら足をもう一歩、と踏み出せば不意に懐かしい気配がした。何だろこの感じ。すごい懐かしくて安心する気配。誰か居るんだろうか。


そんな勘に導かれるまま一歩一歩と踏み出すと、小さな建物が見えて来た。こじんまりとしたその建物の天井はガラスで一面覆ってあり、綺麗な陽の光りが差し込んでいた。中には何も置いてなくって、ただ少しだけ中央に丸い魔法陣の書かれた大理石のようなものがある。


「・・・・ここ、私達が召還されたとこだ」


すぐに私は捉えられたからよく覚えてないけど、この造りやこの飾りは僅かな記憶の隅に残っていた。心なしか魔法陣からは懐かしい気配がする。ここが、全ての始まりの場所だったんだ。


この上に乗ったら、元の世界に戻れたりしないだろうか。あの人に、また会えたりしないだろうか。そうやって意味のないことを考えながら、そっと足を魔法陣に乗せた時。


大理石とはまた別の魔法陣が足下に浮かび上がる。


声を漏らす暇もなく、足下が水のように揺らいだ。

「っ・・・!」

ばしゃんっ、と身体が沈む。あの時はしっかり立てたその場所は一瞬で姿を変えていた。さっきまで大理石のようだったその足場はただの水。しかも私の身長じゃ足が届かないくらいの深さがある水の中。突然の出来事に焦ってばしゃばしゃと水音を立てる。


早く上に上がらないと息が持たない・・・!


水泳が苦手だったわけでもないし、冷静に水面に顔を出そうとした時。

「っ!?」

もう上は水ではなかった。何かにぴったりと蓋をされたみたいに上へ上がれない。パニックを起こしたことで空気が無駄に口から溢れる。その蓋を叩いたり蹴ったりしてもびくともしない。


真っ暗なその場所には明かりなんてもちろん無くて、明かりが無いという事は影がないと言う訳で。脱出する最終手段も塞がれたまま、口を両手で抑えて上を見上げる。段々と意識がぼやけてくるのが分かる。




「ほら。神様も言ってる。あなたなんて、誰も必要としてないのよ」




誰の声なのか。酷く恨みのこもった女性らしき声が聞こえたような気がした。



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