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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
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この世界の魔法

またお気に入り登録件数が1件増えてました!

ありがとうございます!

ご意見や感想があれば、お聞かせいただけるとありがたいです。

読んでくださる読者の皆様、本当にありがとうございます。



加速していく頭痛に、止まない頭の中で響く声。

やがて暗かった牢屋には明かりが持ち込まれて、暗闇にほんのりと明るさが現れた。

会話できるほどの余裕もなくなってきて、ただ焦っている兵士の顔をぼんやりと見つめていた。


「おいっ連れてきたぞ!」


やがて、鉄格子の扉を潜り抜けて入ってきたのは、白衣の医者らしき人物。

そして、真っ黒なローブのようなものを全身に纏った、男性らしき人物だった。


ぼんやりとしか映らなくなってきた視界に焦りを覚えつつも、浅い呼吸を繰り返しながら、途切れつつある意識を必死に繋ぎとめた。

医者らしき人物は、私の手首に触れて脈を測ってるみたいだった。

黒いローブの人物は、その医者の後ろからじっと私を見つめている。

居心地が悪いだとか、この人は誰なんだろう、とか

思うところはいっぱいあったけど、それを続けて考えられるほど私の状況に余裕はない。


私、死ぬのかな?


ふと、浮かんだ自分の考えに、全力で頭を振りたくなった。

絶対の嫌だ。そんなの、私が認めない。

こんなヘンテコな世界に勝手に巻き込まれて連れてこられて、それで牢屋に閉じ込められて、そのまま牢屋の中で死ぬ?冗談じゃない。

だって、まだお誕生日会にだって行ってない。

孤児園の子との約束を守れてない。

それに、このまま元の世界に戻らずにこの世界で、


トキの居ないこの世界で、

死んでいくなんて嫌だ。


私の数少ない友達であるトキの名前がなぜ浮かんだのか。

そんなことの理由を追求することもなく、私の意識はまたぼんやりと映る視界に移った。


「・・・・ダメですね。脈が異常な程に早いです。意識も朦朧としているみたいですし「どけ。」


つらつらと私の状態を述べていた医者を押しのけるようにして、黒いローブの人物が私の脇に座った。

ローブのフードが取れて、その下から白い髪の毛が覗いた。

銀色じゃなくて、白。

いや、透明?

髪の毛の色を思案していると、男が口を開いた。


「俺が見えるか?」


頷く余裕なんて、あると思ってるのだろうか。

かろうじて動いたのは指の先だけ。

床に垂れていたローブを小さく引っ張ると、それを見てからまた私と目を合わせた。


「俺の目を見ろ。逸らすなよ。」


そんな命令口調で言わないでよ。

そう思いながらもどこかその口調はトキに似ていて、悪くないと思う自分も居る。

ぼんやりどころか、もう既にほとんど霧が掛かったように霞んで見えなかったけど、男の目であろう部分も見つめた。



「―――――――」



その瞬間、流れ込んできたのはなんだったのか。

暖かいような、それでいて冷たいような

不思議な感覚が体の中を走り回って浸透していくのが分かる。


「あ・・・ぁ・・・」


小さく漏れた声はやはり言葉にはならなかった。

けれども、思わず言いそうになってしまう。


――私、これ知ってる――


元の世界で言う、魔法の感覚にそっくりだ。

トキに動物の声が聞こえるようにしてもらった時も、何か不思議な感覚が私の体を回った。

けれどもそれは、トキの魔法の方が少し暖かかった気がするけど。


そう考えた瞬間、体がそれを拒絶するかのように跳ね上がった。


「おい!目を逸らすなと・・・・!」


男の声が聞こえたけど、私の体はそれを無視する。


「だ・・・って」

「あ゛ぁ゛!?」


――だって――


「・・・ト、・・・じゃ、な」


――トキじゃない――


この魔法は、トキの魔法じゃない。

だから、怖いよ。

トキじゃないものの魔法は、私のとっては未知も同然だから。

あなたの使う魔法みたいなソレが、私は怖い。すごく怖いよ。


トキが掛けてくれた魔法も、

トキが残してくれた魔法の跡も、


この人が全部、上書きしちゃう。


ぼろぼろと落ちた涙に男は戸惑ったようだったけど、やがて無理矢理私の顔を押さえて目を合わせた。

やがて、同じ感覚が私の体を走り回って、どんどん私を侵略していく。


「・・・・ト、・・・キ・・・・」


トキが、消えちゃうよ。

そう言いたかったけど、言葉になったのは一部だけだった。


すぅ、と嘘みたいに頭痛が引いて、視界がクリアになっていく。


「・・・お前、この世界で魔法を使おうとしたクセに、この世界の魔法を拒絶しただろ?」


知らないよ、そんなの。

分からないよ、だって私は魔法使いじゃない。

ただの魔法使いのお友達だ。


「拒絶しつつも無理矢理魔法なんて使おうとするから、暴走しただけだ。この世界にお前の世界の魔法は使えないんだよ。」


「・・・・わた、し・・・・まほ、・・・つか、えな。」


「・・・・じゃ、無意識の事故ってとこか。まぁ、魔法使いなら知ってる当然の知識だしな。そんな自殺行為進んでするわけもねぇか。ただの偶然かよ。」


やっと出始めた言葉を男は理解してくれて、まるで独り言みたいに現状を説明してくれた。

その言葉をゆっくりと頭の中で噛み砕いてから、ぼんやりと理解した。


「・・・・そ、なんだ。」


やがて体の感覚が戻ってきて、冷たい牢屋の床の感覚も体に感じた。


「ほら、仕上げだ。」


男はそれだけ言って、また不思議な感覚を私の中に流した。


カチリ、


まるで何かの歯車が丁度よく噛み合ったみたいに。

ノイズが入ってよく聞こえなかった人ではないものの声が、鮮明に聞こえ始めた。



『助けて。誰か。なんでこんな酷いことするの?』



悲鳴にも似たその叫び声に顔を顰めながらも、上半身を起こした。


「おい、まだ起き上がらないほうが・・・・「暗い、部屋。」


「は?」


男の疑問に答えることなく、私は続ける。


「赤と、白の・・・花の絵・・・」


「おい。お前何言ってんだ?」


「剣、持ってる・・・逃げたいけど、鎖が邪魔で、」


逃げれない。


「でも、でも、逃げなくちゃ・・・・」


だんだんと自分の体温が下がるのが分かった。


「殺されちゃう!!」


急に叫んだ私は変な目で見られてたけど、そんなの気にしない。

だって、私の片方の目には映っていたから。



この牢屋ではないものの部屋の景色と、剣を振り上げる男の姿が。

私の目は、この場所ではないものと繋がっていた。




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