この世界の魔法
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加速していく頭痛に、止まない頭の中で響く声。
やがて暗かった牢屋には明かりが持ち込まれて、暗闇にほんのりと明るさが現れた。
会話できるほどの余裕もなくなってきて、ただ焦っている兵士の顔をぼんやりと見つめていた。
「おいっ連れてきたぞ!」
やがて、鉄格子の扉を潜り抜けて入ってきたのは、白衣の医者らしき人物。
そして、真っ黒なローブのようなものを全身に纏った、男性らしき人物だった。
ぼんやりとしか映らなくなってきた視界に焦りを覚えつつも、浅い呼吸を繰り返しながら、途切れつつある意識を必死に繋ぎとめた。
医者らしき人物は、私の手首に触れて脈を測ってるみたいだった。
黒いローブの人物は、その医者の後ろからじっと私を見つめている。
居心地が悪いだとか、この人は誰なんだろう、とか
思うところはいっぱいあったけど、それを続けて考えられるほど私の状況に余裕はない。
私、死ぬのかな?
ふと、浮かんだ自分の考えに、全力で頭を振りたくなった。
絶対の嫌だ。そんなの、私が認めない。
こんなヘンテコな世界に勝手に巻き込まれて連れてこられて、それで牢屋に閉じ込められて、そのまま牢屋の中で死ぬ?冗談じゃない。
だって、まだお誕生日会にだって行ってない。
孤児園の子との約束を守れてない。
それに、このまま元の世界に戻らずにこの世界で、
トキの居ないこの世界で、
死んでいくなんて嫌だ。
私の数少ない友達であるトキの名前がなぜ浮かんだのか。
そんなことの理由を追求することもなく、私の意識はまたぼんやりと映る視界に移った。
「・・・・ダメですね。脈が異常な程に早いです。意識も朦朧としているみたいですし「どけ。」
つらつらと私の状態を述べていた医者を押しのけるようにして、黒いローブの人物が私の脇に座った。
ローブのフードが取れて、その下から白い髪の毛が覗いた。
銀色じゃなくて、白。
いや、透明?
髪の毛の色を思案していると、男が口を開いた。
「俺が見えるか?」
頷く余裕なんて、あると思ってるのだろうか。
かろうじて動いたのは指の先だけ。
床に垂れていたローブを小さく引っ張ると、それを見てからまた私と目を合わせた。
「俺の目を見ろ。逸らすなよ。」
そんな命令口調で言わないでよ。
そう思いながらもどこかその口調はトキに似ていて、悪くないと思う自分も居る。
ぼんやりどころか、もう既にほとんど霧が掛かったように霞んで見えなかったけど、男の目であろう部分も見つめた。
「―――――――」
その瞬間、流れ込んできたのはなんだったのか。
暖かいような、それでいて冷たいような
不思議な感覚が体の中を走り回って浸透していくのが分かる。
「あ・・・ぁ・・・」
小さく漏れた声はやはり言葉にはならなかった。
けれども、思わず言いそうになってしまう。
――私、これ知ってる――
元の世界で言う、魔法の感覚にそっくりだ。
トキに動物の声が聞こえるようにしてもらった時も、何か不思議な感覚が私の体を回った。
けれどもそれは、トキの魔法の方が少し暖かかった気がするけど。
そう考えた瞬間、体がそれを拒絶するかのように跳ね上がった。
「おい!目を逸らすなと・・・・!」
男の声が聞こえたけど、私の体はそれを無視する。
「だ・・・って」
「あ゛ぁ゛!?」
――だって――
「・・・ト、・・・じゃ、な」
――トキじゃない――
この魔法は、トキの魔法じゃない。
だから、怖いよ。
トキじゃないものの魔法は、私のとっては未知も同然だから。
あなたの使う魔法みたいなソレが、私は怖い。すごく怖いよ。
トキが掛けてくれた魔法も、
トキが残してくれた魔法の跡も、
この人が全部、上書きしちゃう。
ぼろぼろと落ちた涙に男は戸惑ったようだったけど、やがて無理矢理私の顔を押さえて目を合わせた。
やがて、同じ感覚が私の体を走り回って、どんどん私を侵略していく。
「・・・・ト、・・・キ・・・・」
トキが、消えちゃうよ。
そう言いたかったけど、言葉になったのは一部だけだった。
すぅ、と嘘みたいに頭痛が引いて、視界がクリアになっていく。
「・・・お前、この世界で魔法を使おうとしたクセに、この世界の魔法を拒絶しただろ?」
知らないよ、そんなの。
分からないよ、だって私は魔法使いじゃない。
ただの魔法使いのお友達だ。
「拒絶しつつも無理矢理魔法なんて使おうとするから、暴走しただけだ。この世界にお前の世界の魔法は使えないんだよ。」
「・・・・わた、し・・・・まほ、・・・つか、えな。」
「・・・・じゃ、無意識の事故ってとこか。まぁ、魔法使いなら知ってる当然の知識だしな。そんな自殺行為進んでするわけもねぇか。ただの偶然かよ。」
やっと出始めた言葉を男は理解してくれて、まるで独り言みたいに現状を説明してくれた。
その言葉をゆっくりと頭の中で噛み砕いてから、ぼんやりと理解した。
「・・・・そ、なんだ。」
やがて体の感覚が戻ってきて、冷たい牢屋の床の感覚も体に感じた。
「ほら、仕上げだ。」
男はそれだけ言って、また不思議な感覚を私の中に流した。
カチリ、
まるで何かの歯車が丁度よく噛み合ったみたいに。
ノイズが入ってよく聞こえなかった人ではないものの声が、鮮明に聞こえ始めた。
『助けて。誰か。なんでこんな酷いことするの?』
悲鳴にも似たその叫び声に顔を顰めながらも、上半身を起こした。
「おい、まだ起き上がらないほうが・・・・「暗い、部屋。」
「は?」
男の疑問に答えることなく、私は続ける。
「赤と、白の・・・花の絵・・・」
「おい。お前何言ってんだ?」
「剣、持ってる・・・逃げたいけど、鎖が邪魔で、」
逃げれない。
「でも、でも、逃げなくちゃ・・・・」
だんだんと自分の体温が下がるのが分かった。
「殺されちゃう!!」
急に叫んだ私は変な目で見られてたけど、そんなの気にしない。
だって、私の片方の目には映っていたから。
この牢屋ではないものの部屋の景色と、剣を振り上げる男の姿が。
私の目は、この場所ではないものと繋がっていた。