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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
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心配性な死神

いつも読んでくださる読者様、ありがとうございます。

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この石には、誰かの想いが宿っている。


寝る時も肌身離さずつけている巾着の中身を、そっと掌に出してみた。晴れた日の海の色をしてる透き通ったそれは、私の掌でころんと転がった。


「誰かの想い・・・・」


美千代さんが言ってた言葉がどうもひっかかって寝付けなかった。

この石は気づけば掌にあったから、どうやって自分が手に入れたのかも分からない。オズ兄さんが調べようかって言ってくれたけど、この石がないといつもの不安がさらに増してしまうから、結局断ってしまった。


正体の分からない石を握りしめながらごろり、とベッドに転がると柔らかなクッションが衝撃を吸収してくれる。

元の世界と比べてこんな高待遇は中々無い。


お姫様みたいなふわふわした服。

今まで食べた事ないくらい美味しい料理。

私の世話をしてくれる侍女。


まぁ、国どころか世界まで違う訳だしここまで違うのも頷けるけど。だったら何故、私は元の世界に戻りたいと思ったんだろう。


まず最初に浮かぶのは”あの人”のこと。顔も覚えてなくて男か女かも分からない。ぽつりぽつりと浮かんでくる懐かしい会話の一人称から男じゃないかと踏んでるんだけどね。


でも、あの人のことを欠片も思い出していなかった頃の私。つまり、事件の直後に目が覚めた私のことなんだけど。その時でさえ私は元の世界に戻らなくちゃって思ってたんだ。


それは帰りたいっていう気持ちっていうより、最早使命感に近いものだった。まるで諦める事など許されない義務。

だからあの人のことを忘れている事にすら気づいていないのに、私は元の世界に戻りたいって思うことが出来たんだ。



目が覚めてから少しずつ違和感に気づいた。

女らしくしなくちゃ、とか。侍女のいうことはちゃんと聞かないと、とか。


それは誰の言葉なの?


私のじゃない。私はそんなこと思わなかったから。ステラに心配かけてもばれなきゃいっかー、とか思ってたし。女らしく?ネグリジェで王子と一緒に城を駆け回ったりしましたけど?


だからこれはきっと、誰かが私に言い聞かせたことなんだ。私はそれを、必死に守ろうとしてただけなんだ。

まぁ、その誰かってのも思い出せてないんだけどねー。

という出口のない自問自答ループ。抜け出せそうにないそれにため息を着きながら天井を見上げた時。ふいに思った。


あ、来る。



『ヒヨリ、聞こえますか?』

「エリオス!」

思いのほか大きな声が出て、すぐに自分の口を掌で覆った。まさかステラに聞かれてはいまいな?もう下がらせたとはいえ、最近なんかあの子過保護だし。もしかしたらまだ居るかもしれない。


『あまり大きな声を出さないでください。会話するのに声を出す必要などないのですから。強く頭の中で思うだけでいいんです』

『あ、ごめん』

エリオスの言う言葉は中々難しかったから、声が出ないように口元を抑えてから普通に会話するようにやってみる・・・・・・慣れるのには時間がかかりそうだ。


むがむがと変な音の出る自分の口を抑えながら、エリオスの声を聞けたことに随分テンションの上がっている自分の気づいた。

『今はどこに居るの?』

『大分前の所からは移動しましたね。今はヒヨリの国の・・・・裏側をちょっとずれたくらいです』

『分かりにくい!』

裏側をちょっとずれたってなんだ?裏側の国の左右どちらかのお隣さんなのか?

頭をひねる私にエリオスがふいに声を暗くして言った。


『・・・ヒヨリ、何か色々あったみたいですね』

『な、なんで分かるの!?』

『まぁ契約してますしねぇ?色々なものを共有できちゃいますしねぇ?』

死神の力を使いまくってたしなぁ。そりゃエリオスに気づかれてもしょうがないか。


でも

『これは私の問題だから、エリオスは手出し無用だから』

『・・・・・・そんな状態になってでもですか?』

そんな、っていうのがどんな状態か分からないから少し返答に困った。

周囲の人間にひたすら怯えてる状態?

怯えすぎてご飯が喉を通らなくて痩せた状態?

魔法の先生が嫌いすぎて最近胃がずきずきしてる状態?


心当たりがありすぎてちょっと分かりませんな。

『それでも。これは私が選んだことなんだよ』

『選んだ、ねぇ・・・?』

『寿命よりマシでしょ?まだいっぱいエリオスと居られるよ?』

『そういう問題ではないでしょう。ヒヨリはもっと自分を大切にしてください』

大切に、ね。してるしてる。可愛いものいっぱい身につけて、美味しいご飯たべて、ふかふかのお布団で寝てるよ。毎日がぺかぺかしてるよ。あれ、ぺかぺかはおかしいか。ほぼ毎日魔法の先生の変な服見てるせいで、感受性がおかしくなってるのかもしれないね。


『とにかく、私は元気だから』

『・・・・仕事が一段落着けば、またその国へ行きますから』

『いーのいーの、エリオスを求めてる人はたくさんいるんだもん。その人達のとこへ行ってあげて』

魂のまま彷徨う事がどれだけ辛いのか。霊送りで見た魂達を見て分かったから。私はいつでもエリオスと話が出来る。それだけでまだ全然大丈夫だからね。


『頑張ってねー』

きっとエリオスは見えてないだろうけど、へらっと笑ってみせた後まるで電話を切るみたいにぶちっと音がしてエリオスの声は聞こえなくなった。


「・・・・・おやすみ、って言えばよかったかな」

いや、きっとこの国の裏側だし時間軸も違うだろう。向こうはおはようかもしれないし、やっぱ言わないのが正解か。

明日は優希ちゃんとお茶会の予定だし、そろそろ寝なきゃ。

無理矢理目を閉じれば、ゆっくりと意識が離れていく。



なんだかとても、懐かしい夢を見た気がした。

 





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