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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
35/65

私ならきっと

いつも読んでくださる読者様、ありがとうございます!

「っ、」


猛烈にお腹が痛い。まぁ自分で刺したんだけど、ここまで痛いとは思ってなかった。傷口が痛さと熱さを伴って、体の中で何かが暴れ回ってるみたいだ。とりあえず血を流さなきゃいけない理由があったんだけど、お腹から止めなく溢れてくる血を見るにどうやらやりすぎたらしい。

『ヒヨリ!ヒヨリっ!!』

セルが私を呼んでる。剣を抜こうとしてくれたみたいだけど、これが中々痛くて。流石に手を動かしてやめてもらった。


アシルさんが少し離れたところから駆け寄ってくるのが見える。まぁ、近寄らせる訳にはいかないんだけど。きっと今からしようとしていることを知れば、アシルさんは全力で止めようとしてくれるだろうから。


落ち着けるように目を閉じれば、瞼の裏には今でも鮮明にあの光景が蘇る。悲しくて苦しい、セルが見せてくれたセルの記憶が語った真実。

あまりに膨大な量の情報に私の頭はついて行けずに寝込んでしまったけど、今思えばそれも然程無駄ではなかったかもしれない。


「私は”あの”魔法陣がほしい」


そのために、血を流したのだから。翳した掌を浸けた血溜まりはぬるま湯のような微妙な温度で気持ち悪い。それでも手を浸けたその場所からぶくぶくと泡が浮かんでくる。どうやってやるのかとかあんまり意識はしてなかったけど、不思議と私には出来るって確信があった。昔からある、どこから湧いてくるのかも分からない自信ってやつだ。

動け、と小さく口に出せば血がまるで生き物のように蠢きながら、意思を持ったようにそれらは魔法陣を形作り始める。体の中から魔力と言われるような流れを持ったものが出て行くのが分かる。

これが所謂魔法ってやつじゃないかと思うんだ。


魔法陣が完成するのと、アシルさんが私のもとにたどり着いたのはほぼ同時のことだったけれど、魔法陣の完成と同時に展開された周囲を囲む透明な壁に打ち当たりアシルさんはそれ以上私に近づくことはできなかった。声は聞こえないけれど、アシルさんが必死な顔で私に何か叫んでいるのは分かる。きっと、後で怒鳴られる。


「大丈夫です。死ぬつもりはないですから」

そんなことを言っても、アシルさんには聞こえないけれど。


私の血とフィーの血。そして魔法陣。これで必要なのは呪いの言葉だけになった。フィーがあの時言ってた言葉は禁術の詠唱。セルは朧げな意識であれを聞いてたから聞き取れてなかったみたいだけど、私にはちゃんと聞こえてたよ。今だって一言一句覚えてる。


「『応えよ 深淵より遣いし者 聞き届けよ 我の望 代償に 汝の望を受け入れよう』」


魔法陣の上の血がまたずるりずるりと動き出した。血がなくなっても魔法陣を象った光は私達を囲んでいて、なくなった血は私とフィーのすぐそばに集まって形をなし始めていた。あの真っ赤な血で出来たあいつ。セルをこんな風にしてこの世界につなぎ止めた奴。深淵より遣いし者。


私が思うに、つまりそれは悪魔ってやつじゃないかなって思うんだ。


『やぁやぁ、懐かしいねぇ』


頭の中に直接響くような、ねっとりとした気持ち悪い声。思わず眉を顰める。セルに向かってわざとらしく上半身だけでお辞儀をする様子はこちらを馬鹿にしているようでもある。

『あなた、はっ・・・・・!』

『その体の使い心地はどうだ?またもや呼び出されるなんて思ってもみなかったが』

「あなたを呼んだのは私よ」

真っ赤な顔。血で出来たそれには目なんてないのに、そいつが私をじぃっと見つめているのだけは分かった。

『こりゃまた珍しい人間だな。それで、お前は俺に何を願う?』

珍しい人間っていうのはきっと、私が異世界から来ていることを言っているのだろうか。


「・・・この人を、フィン・アロン・エルラードを・・・助けて」

『ヒヨリ!?やめてくださいっ!そんなことをしてしまえばあなたの寿命がっ『とりあえず部外者は黙ろうか』

そう言って悪魔が手を持ち上げるとセルにまっすぐ人差し指を突き出した。その瞬間私の耳にはセルの声が消聞こえなくなった。私の手を握って必死に訴えかけてくれてるのは分かるのに、何て言ってるのかは分からない。


『お嬢さんもあまり怯えるな。俺はそいつがその時一番大切にしているものを指定しているのであって、誰にも彼にも寿命を寄越せと言っているわけじゃないさ』

「・・・・じゃあ、私の大切なものは何?」

寿命よりも、私が大切に思っているものって何?

そいつが私にずいっと顔を近づけた。血の匂い。独特の鉄みたいな匂いがして少し気持ち悪かった。

『んー、お前は・・・・・・あぁ、あれか』

意味有りげに悪魔は言葉を切って笑った。真っ赤な顔に、にたりとした口が裂ける。




『”思い出”だな』




心臓が嫌な音をたてた。

思い出と言われて出てくるのは、トキと過ごした何気ない日々で。けれども私はその日々が本当に幸せで。確かに、言われてみれば寿命よりも大切かもしれないなって思った。

セルの動きがより一層狂気さを増した。その顔には何粒も雫が伝っていて、そんなことをしてはいけないと。やめて。と叫んでいるのが聞こえなくても分かった。


「たし、かに。私はそれが一番大切ね」

『そうだろ?俺の見立てだと・・・・中でも、1人の男との思い出を何より大切にしてたみたいだな?』

1人の男と言われて思いつくのはやっぱり1人しかいなくて。失いたくない思い出を一緒に作ってくれたのも、1人しか居ない。

「・・・トキ」

『なんだそいつ。恋人か?』

「ちが、・・けど」

手にぎゅ、と力が入った。


『誕生日プレゼント、欲しがってただろ?』

『ヤバイと思ったら、すぐに俺の名前を呼べ。どこだろうが絶対に助けに行ってやるから』

『・・・・・・なんで呼ばねぇんだよ。バカヒヨ』


何なんだろこれ。走馬灯みたいに景色が頭の中を流れていく。エリオスと契約した時もこんなのあったなぁ。懐かしさに浸る私の頬をぼろぼろと涙が伝った。

トキの言葉とか何気ない仕草とか私にしてくれたこととか。そんな思い出の断片が一気によみがえって来る。今来なくてもいいじゃん。思い出してくて思い出してるわけじゃないのに、後から後からそれは溢れ出してしまう。比例するように涙は止まらなくて、手が微かに震え始めた。


「恋人なんかより、ずっとずっと、大切だったよ」


恋人だとか、縛り付けておきたい、とか。そういう風な気持ちを持つ程私は大人じゃなくて。

それでも、ただ一緒に居たいと願っていたのは、純粋に友達に向ける気持ちじゃなかったと思う。この気持ちが育てばきっと、私は今まで通りで居られなくなると思った。だから、友達を失いたくなかった。トキを失いたくなかった私は知らないフリをした。


トキは見た目も良くて、成績も良くて当然モテてしまうわけで。告白に呼び出されるトキを送り出す時、心の中がざわつかなかったわけじゃない。それでも、必死に必死に蓋をしたんだ。

トキが私の事をどう思ってたかなんて、今となっては確かめることは出来ない。


それでもきっと、私はあなたのことが好きだった。


初めて出来た友達だからって、必死に必死に気持ちを押し隠した。トキが離れてったら私はまたあのひとりぼっちに戻っちゃう気がして。生まれてしまった好きだという気持ちに蓋をした。


口が悪くて。すぐに手が出るし。それでも、いつだって私を守ってくれて。私のことを支えてくれて。家族よりも近い位置に居てくれた。

こんなところで気づいたってもう遅いけれど、今なら分かる。フィーやセルのような気持ち。今ならちゃんと理解できるよ。苦しい。傍に居たい。私だけ見てほしい。

全部全部。私も持ってた気持ちだった。


元の世界で、トキに恋してた気持ちだった。


涙を見せたくなくて顔を俯かせれば、顔色の悪いフィーが横たわっていた。フィーを助ければ私の思い出達が消えてしまう。けれども、助けなければセルや、オズワルドさんや、アシルさん達がすごく悲しむ。私がこの世界に来て出会った、大切だと思う人達がきっと傷つく。


「思い出、だよ?ただの記憶じゃんか。寿命よりずっと軽いよ。よゆーだね」

はっ、と笑いながら涙声を無理矢理張り上げる。

『・・・・ほぅ。泣く程大切なものを売り渡すのだな。俺が言ってるのはその男に関する記憶だって分かっているのだろう?』

「だって、私の記憶でフィーが助かるんだ。トキに関する記憶が消えちゃっても、元の世界で私が生きて来たって記憶がなくならないなら・・・そうなら、私はまだ諦めずに居られる」


きっと、トキの記憶がなくなっても。また元の世界に帰りたいと私は願うだろう。それほどまでに私は多くの者を元の世界に残して来た。孤児園の子供達。坂田家の人々。


私は諦めない。きっとまた、元の世界に帰る方法を探す。確かにもとの世界に戻りたいと思う気持ちの中で、トキは大きかったように思う。記憶のある今トキが居なくなったら、私がどうなっちゃうかなんていまいち想像がつかない。トキに出会う前の自分なんて、もう思い出す事もできない。でも、故郷より大切な場所を私は知らない。この世界の人々をいくら大切に思っても、結局私はもとの世界を選べると思うから。


私はもとの世界にきっと帰れる、そう思うと手の震えが止まった。悪魔に手を差し出すと笑ってみせる。


「ほら、契約しよう?」


悪魔はくつくつと喉で笑うと、私の手に自分の手を重ねた。

『長い間生きて来たが、人間に手を差し出されるのは初めてだな』

「そう、長生きはするものね」

私の言葉に悪魔はまた笑って、それから少しだけ血で出来た手に力が込められた。そしてその直後、悪魔が驚いたような気配がした。

『・・・つくづく、お前は珍しい。人間以外の契約も初めてではないのだな?』

「まぁね、生きてりゃ色々あるもの」

『面白い事を言うな。よい。今日は機嫌が良いからおまけしてやる』

悪魔はそう言うと、フィーに伸ばしかけたもう片方の手を私の手に反対と同じように重ねた。

『今回の契約は強制的な者とし、こやつに拒否権はない』

フィーに拒否権がないということは、セルの時みたいに願いの相違による契約破綻がないということ。それは随分助かる。また二の舞になってしまってはどうしようもないし。


『さぁ、思い出とのお別れはすんだか?』

「・・・・・・うん、いつでも大丈夫」


私が笑みすら浮かべてみせると、悪魔は僅かに頷いたかと思うとぱしゃん、と音をたてて血に戻った。驚いたのもつかの間で、気づけば血が波のように私に覆い被さって来た。鉄臭い。口元を覆うようにしながら自分の全身がぬるま湯のようなものに包まれているのを感じた。不思議と息は出来る。ただ辺りは真っ暗で何を見えない。


目を閉じればまだ思い出せる。トキの顔。本当の名前。出会った日のこと。

それも、最初だけだったけれど。


やがて、思い出そうとしても上手くいかなくなる。風景は同じなのに、そこにぽっかりと穴が開く。まるで切り取られているみたいに、不自然に風景が歪む。どんどんそんな思い出が増えて、どんどん私の中からトキが消えて。一緒に異世界に行ったことも。彼の手料理を食べさせてもらったことも。少しずつ歪になっていった。

『ヒヨリ!!気を保ってください!!忘れてはいけませんわ!その方はあなたの大切な方でしょう!?』

セルの声が聞こえた。私に何か叫んでる。

『私を!私を使いなさい!私はヒヨリに親友だと言われたのよ!?私の存在をフィーの代償としてかけるから!だからどうか、全てを奪わないで!ヒヨリの夢を、っ異世界に戻りたいと願う心まで消してしまわないで!!』

セルが、誰かと何か言い合ってる。

『きえた、って・・・・見守れなくたって、もう、いいから・・・・・・っ!』

それは駄目だよ。それは、セルにとってとても大切なことだもの。

『構わない!ヒヨリが、私のったった1人の親友が幸せになれる道がまだ残っているのなら!私は何だって受け入れてやる!この体も!魂も!全部あなたに売り払ってやるわよ!』

そんな叫び声を最後に、ぱたりと応酬は止んだ。


『ヒヨリ』

目を開けば、ただただ暗闇だったそこにセルが立ってた。

「セル・・・?」

『あなたは女の子なのですから、あまり無茶はしないようにしてください』

「・・・・え?」

『それと、侍女の言うこともちゃんと聞くのですよ?』

「う、うん」

『オズ兄様のこと、お願いしますね?喧嘩はしても、あなたのことは妹のように可愛がってらっしゃいましたから』

「で、でも、オズワルドさんの妹はセルだよ?」

『私はもう・・・・傍には居れませんから。あなたがオズ兄様の妹になってください。あの人を、どうか1人にだけはしないで。』

覚えていられないくらいにセルは次から次へと私にお願いをする。指折り数えるのも途中でやめて、セルの言葉にひたすら頷いた。

それから頼む事がなくなったのか、セルがぷつりと言葉を切った。首を傾げれば、セルは泣き笑いのような顔で私の両手を掴んだ。


『絶対に、夢を諦めないでくださいね?大切な人のことを忘れてしまっても、ここで私が言ったことは忘れないでください。あなたは元の世界に帰るのです。それだけは、絶対に諦めてはいけないのです』

「元の世界、帰る、あきらめ、ない」

朧げな意識の中でセルの言葉をぼんやりと繰り返した。


『・・・・・・それと、出来れば私の事も忘れないでくださると、嬉しい、です』

「当たり前だよ、セルは、親友だもの」

当然のように言ってへらりと笑えば、セルの顔が歪んだ。その綺麗な青い瞳からぼろぼろと雫が零れ落ちる。


『やだ、っ・・・やだ、一緒に、居たい・・・・・・!』

セルはそう小さく叫ぶと、私の胸の中に飛び込んで来た。何をそんなに悲しんでいるんだろう。抱きしめてあげようとセルの背中に手を伸ばす。


「私も、セルが大好き。ずっと一緒だよ」

『・・・・・・・ねぇ、ヒヨリ・・・フィーに伝えてくださいな』

セルが私に抱きついたまま、涙声で耳元で呟いた。話したいのならまた魔法を掛けてあげるのに。そう思いながらとんとんと背中を叩きながら、セルの伝言を聞くと嗚咽が少しだけマシになった。


『わた、しっ・・・幸せだったよ・・・!』


悲痛に満ちていたセルの声がやんわりとした、満足げなものに変わった。良かった、と頷き返して回した手に力を込めれば。


セルの体が、しゃぼんだまみたいに空中に弾けた。


「・・・・え?」

無意識に手を伸ばして空中に弾けた泡を追いかける。どれかひとつだけでも、と手を伸ばして泡を握りしめる。

セルの声は、もう聞こえない。

「・・・・セル?セルー?」

一体どこへ消えてしまったのか。辺りはただ、暗闇が満ちていた。

セルを探さなくちゃ、と足を踏み出そうとした時。酷い目眩に襲われて、立っていられなくて座り込めば、見た事のある風景が頭を掠める。


夕日の差し込む学校の教室。

異世界で行ったダンスパーティのホール。

とても食べれそうにない色をした料理を食べてる私。


私はその風景の中でいつもただ1人で居て、それでも嬉しそうににこにこ笑っていた。1人で何がそんなに面白かったんだっけ?思い出せないなぁ、と眉を顰めた私の握りしめた掌がにわかに光る。それはさっきセルが消えた時に出た泡を握りしめた右手。

泡が飛び出てこないか、とおっかなびっくり掌を開けば青くてまん丸な石が掌で光っていた。それは見慣れた色で、その青が表情を変えるのを何度も何度も傍で見てた。

「セルってば、こんなところにいたの」

握りしめれば胸が暖かくなって、さっき見た風景に何かが映り込んで来た。


「・・・・・だれ?」


顔はよく見えないけど、誰かが居た。私が笑っていた所に、いっつもその誰かが一緒に居てくれてた。名前も分かんないし、顔も見えない。それどころか姿自体があやふやで男か女かも分からない。


それでも、私はその分からない誰かに、酷く安心していた。


身に覚えの無い記憶に戸惑う私に残ったのは、意味の分からない文字の羅列だった。目の前で浮かび上がる漢字で書かれた四文字。元の世界では人名にあたるだろうそれ。それをゆっくりとなぞるようにそっと触れる。


「・・・だれの、なまえだっけ・・・?」

とても見慣れた名前。

「・・・学校の人かな?」

それでも思い出せない。


「————」


声に出して読んだのを最後に、頭が焼かれてるみたいに熱くなって、目の前にあった文字が砂みたいにさらさらと崩れて行った。


そして私の中から、その4文字は忽然と消えた。とても、大切で。大切だからこそ簡単には声に出せないような、そんな4文字だったような気がする。


ぱしゃん、と音がして目を開けた。そこは、パーティがあったホール。


気づけば私のドレスは真っ赤に染まっていて、目の前には顔色のよくなったフィーが横たわっている。一体、何をしていたんだっけ?この強い鉄の匂いはなんだっけ?


なんで、私は泣いていたんだっけ?


「ヒヨリ!!」

綺麗な青い瞳をした男の人が、血で服が汚れるのも構わずに跪く。その人の黒いローブに血がじんわりと滲む。傍ではテキパキとフィーを運ぶように、だとか色々指示を出している綺麗な銀髪の人が居た。

「俺が分かるか・・・?」

私の両肩をしっかりと掴んだまま、その人は私に尋ねる。この人の、名前。この人の名前は。


「・・・・おず、兄さん」

「は?」


オズ兄様、と唐突に頭に浮かんだ文字にしっくりこなくて、少しだけ言い換えて口にした。オズ兄さんは戸惑ったような顔をして、一体どうしたんだと私に問いかけている。そんなこと聞かれても・・・・。

「・・・セルにね、お願いされたもの・・・・・。オズ兄さんの妹になって、って、1人にしないで、って・・・セルはオズ兄さんの妹で、私もオズ兄さんの妹で、あれ?何か、違うかもしれない・・・・」

自分で言いながら何かが違うと首を振った。それでもよく思い出せなくて。ただ酷い疲労感とどうしようもないような悲しみが胸の奥からふつふつと湧き出た。


「・・・・あぁ、そうだな。俺はお前の兄だった」

オズ兄さんは悲しげに血で濡れた私の髪の毛を撫でた。青の瞳が悲しみで揺らぐ。さっきこれと同じようなものをどこかで見たんだけど・・・どこだっけ。


オズ兄さんに腕を引かれながら掌を開けば真っ青な石がそこにある。

『わた、しっ・・・幸せだったよ・・・!』

突然思い出したその言葉は、誰のものだったのか。


ホールを出れば、真っ赤なドレスに様変わりした私に顔を青ざめて駆け寄ってくる侍女が1人。

「ヒヨリ様っ、ヒヨリ様っ!」

「すてら」

出て来た言葉にほっとしたように息をつく私の侍女。

「これからは、ちゃんと言う事聞くから。私、女だから、もう無茶もしないから」

「ヒヨリ様・・・・・?」

私の体を横で支えるようにしながらステラが首を傾げる。ステラが何か口を開きかけたけど、その続きを聞く前に白衣を来た集団に囲まれてしまった。聖女様のご友人がなんとかかんとかと言いながら、言われるままに担架のようなものに横になりながらぼんやりと思う。



なんだか、今日はとても疲れたなぁ。



そう小さく心の中で呟いたところで、私の意識は眠りに落ちた。


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