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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
31/65

舞踏会

 大きな扉が開かれたそこには、目を開けているのも辛くなるくらいに眩しく輝くシャンデリア。少しめまいがして、慌てて両足を踏ん張ってそれを凌ぐ。ふんだんに施された宝石がキラキラとまたそれを反射して、辺りに立っている人達がみんな電球か何かに見えてくる。


あの時は、こんな風に周囲の景色に気を配ることすらしなかった。

ただ、目の前に居るトキだけを見てた。私がドレスを着て、トキが手を差し出してくれて。まるでおとぎ話のようだと思った。時間が止まってしまえばいい、なんて半ば本気で願った。


「え、ちょっ陽依踊る気!?練習一度もきてなかったじゃない!」

優希ちゃんの声に急に現実に引き戻される。その目は驚きに染まっていて、せっかく綺麗に整えられた金髪を振り乱さんばかりに私を振り返っていた。その言葉はやはり最もなものなのか、雛ちゃんや千里ちゃんまでもがこちらを驚きの目で見ていた。

それは私の体調を心配しているものなのか、はたまた踊れるかどうかを案じているものなのか。


「だいじょーぶだいじょーぶ」

「ちょ!陽依本当に体調大丈夫なんでしょうね!?」

曖昧にへらりと優希ちゃんに笑いかけてみせてから、フィーの手をぎゅっと握った。フィーが真っ青な髪の毛を揺らしてちらりとこちらを見た気配がした。でも、私は目を合わせない。視線を俯かせたまま握った手だけに微かに力を込める。

私の後ろにはセルがそっと寄り添ってくれている。ふわりと僅かに浮かびながら、私の方に手を添えてくれていた。もう、そのドレスの下に足がないことに怯えたりしない。

トキは今傍にいないけれど、私は今一人じゃない。セルの願いを、やっと叶えてあげられる。失敗なんて、絶対に許されない。


ふいに、手が強く握り返された気がした。

「・・・フィー?」

「・・・・、ん?なんじゃ?」

首をかしげれば、フィーが少し長い間の後私に返事する。その間がやけに気になって、集中力を切らさないように出来るだけ他のものを視界に移さないようにしていたけれど、私は思わずフィーを見上げた。

青い長い髪が、フィーの肩からだらりと垂れ下がっている。その目はぼんやりとして私を映さない。ただ開いた扉の奥を見つめている。


フィーの足下に、黒いもやがかかっているのが見えた。思わず息を飲む。足下がもう見えない。時間がないのかもしれない。フィーが飲み込まれてしまうまで、きっと後少しなのだ。


「もう少し、我慢してね」


半ば祈りを込めるようにそう言えば、フィーは意味を理解できずに私に尋ねようとする。けれども私の言葉に聞き返す間すら与えず、私は失礼にならない程度の笑みを浮かべてみせる。


ぞろぞろと雛ちゃんを先頭に連なるようにしてホールに入った私たちを出迎えたのは、きらびやかな衣装で自らを着飾った貴族達。そしてその人たちよりも一段高い所にある椅子から私たちを見下ろす男の人。


直感的に感じた。あぁ、この人が王様なのか。


さすがに王子の血の元なだけあって美形だ。王子よりも短く切りそろえられた綺麗な銀髪が光を反射して光る。座っているだけで高貴な身の上なのだろうと分かるくらいに優雅な座り方。

こちらの世界の結婚基準の年齢が分からないから、王様がいくつぐらいなのかを推測するのも難しい。ただ、王子とは本当に親子ですか?と問いたくなるぐらいには若く見える。最早この人は本当に人間なのか、と疑問を持ち始めたあたりで王様の声が響いた。


「紹介しよう、皆の衆。こちらが異世界からいらっしゃった聖女様、ヒナ=タカクラ様だ。」

いつの間に椅子を降りたのか、雛ちゃんの手をとって貴族達に紹介するようにしながら笑みを浮かべる王様。張りのある声がホールに響き渡り、貴族達が拍手で雛ちゃんを歓迎する。雛ちゃんはとても綺麗で、王様の隣に並んでいても何一つ違和感がなかった。

木霊するように響く拍手が鳴り止んだ頃、雛ちゃんが笑みを崩さないままゆっくりと口を開いた。


「ご紹介に預かりました。雛、高倉と申します。」

上品に薄い黄色のドレスを持ち上げる。完璧な作法に周囲の目は雛ちゃんに釘付けになっている。まぁ、前の世界に居た時から口調も動作もどことなくお嬢様っぽかったんだけど。

「私はこの世界に召還されてから時間もあまりたっておらず、まだこの国に蔓延る魔を視認できる程度です・・・、しかしっ必ずしも皆様の大切なこの国を、世界を、!救うとお約束いたしますわ!」

雛ちゃんの言葉にまた拍手が溢れる。雛ちゃんはまた完璧な笑みを浮かべて、王様と握手を交わすと嬉しそうに王子に駆け寄っていった。

頬を染めながら王子と言葉を交わしてから、王子にエスコートされるようにして雛ちゃんが王族近くの椅子に腰掛けた。


ここからは私たち、通称”聖女様のお友達3人組”の出番である。

ダンスの最初を任されているのだから、失敗するわけにはいかない。ふぅ、と息を吐けば上からケラケラとフィーに笑われた。失礼な、私だって緊張位するの。


騎士を守るようにして囲んでいた騎士達が私たちの周りから離れていった。

その途端大きな音が後方からして、またフィーが笑い出す。

「オズワルドのやつ、よろけおったぞ」

その言葉に、少し肩の力が抜けた。オズワルドさんにいい復讐ができたわ。セルも後方を見つめながら笑みをこぼしている。


さぁ、私の仕事の始まり。


私は響きだした音楽の中に飛び込んだ。好きな曲だ。綺麗でゆったりとした音色が急に可愛らしく飛び跳ねる。王宮に集められているオーケストラだし、きっとこの国一番のものなのだろう。

意識を集中させながら体でリズムを刻む。けれども嫌なものは私の中に入ってくるもので。


きつい香水の匂い。

黒いもや。

突き刺さるような視線。


目に入れたくないものも、今感じたくないものも。全部全部遮断できたらどれだけ楽なことだろう。そう思いながらいつものようにリズムに体を任せる。

周囲が私が踊っていることに驚いている気配を感じた。ステラに少しだけ見せてもらったし、そこまで難しいものではなかったし。これくらいは余裕だ。


フィーも流石貴族といったところだろうか。私にピッタリと動きを合わせてくる。テンポよく足を踏み出す、さっきまでぼんやりしてたのが嘘みたいにフィーの体はリズムを刻む。青い長い髪の毛がターンの度にたなびくのを見つめる。

相方がここまで安定してくれていると助かる。


次に一歩踏み出した瞬間。ぶわりとプリーツが広がる。足下に大きな影ができる。


さぁ、やらなくちゃ。


足下が僅かに沈む。それはきっと誰にも違和感を感じさせない程度のもの。

こんなにもホールの中は華やかで音楽に溢れているのに、私の足下はまるで物静かな水面のようだった。何も映さない。何にも干渉されない。私の視界にだけ、金色の礫が溢れる。ふわりふわりと、雪のように私の周りを舞う。


干渉できるのは、私だけ。


金色の礫を足で蹴るように、また水面に足を沈み込ませる。ぶわりと、舞い上がる礫に頬があがる。

さぁ、

暴いてやる。


さっきよりも少しだけ足が深く沈んだ。

他人の心が。記憶が。想いが。私の心に広がる。

着飾る貴族達の合間合間に見える、人ではないもの。自分が死んでしまったことを信じられずに、触れられないことを嘆き悲しむ可哀想な魂達。


フィーの足ぎりぎりにステップを踏み込む。黒いもやが少しだけ砕ける。

この世界で出来た。私が、大切だと。味方だと思える人を、決して奪わせやしない。静かだった水面が揺らぐ。私だけが干渉できる世界が、私の足下からぐっと広がったのがわかった。

傍目から見たらきっと分からないことなのだろう。でも、確かに足下の影がホールの隅々にまで広がったのを感じた。影は溢れ、人に悟られないまま城の外へまで広がっていく。


悲しい、痛い、苦しい、辛い、

————まだ、生きていたい。



「もう、それは出来ないの。」



魂達の大切な人の姿が、脳裏を過っていく。決してそれは見たことのない人なのに、愛おしかった。大好き。あなた達が何よりも大切だよ。会いたいよ。触れたいよ。


ねぇ、ーーー何で気づいてくれないの?


飲み込まれちゃだめなのに、私の意識がどんどん引っ張られていくのを感じた。その想いを、私はトキに重ねてしまう。触れたいよ。会いたいよ。戻りたいよ。ねぇ、名前を呼んだらすぐにこんな苦しいこと終わるの?またあなたの横で笑っていられる日常が帰ってくるの?


そうして、またあなたに守られるだけの関係が始まるの?


それが嫌だから、私はまだこの世界に居る。譲れない。挫けない。

金色の礫が、私に呼応するようにドレスの裾を僅かに持ち上げる。私にはその想いの辛さを分かち合うことはできない。ただ、天に送ってあげることしか出来ない。


意識を引っ張られないように、目の前のフィーを見上げる。


驚いたように、その瞳が見開かれているのが見えた。

「ヒヨリ、お主の瞳は・・・・・金色じゃったかのう?」

その言葉にはっとする。目が変わっている。もしかしたらエリオスの力を広範囲に広げすぎたのかもしれない。少し目を伏せてからさらにフィーの足下のもやを振り払うようにターンする。いったん途切れた集中は中々もとには戻らない。ダンスのリズムが一瞬崩れる。やばい、と思った瞬間。


水面が私以外に干渉された。


『ヒヨリはそちらに集中してくださいませ』

何がおこったのか一瞬分からなかった。ただ、自分の体が何者かによって支えられたのは分かった。体から力を抜いても私の体は倒れない。それどころか、優雅に洗練された動きでまた踊り始める。慣れたように体を踊らせ、綺麗な笑みを浮かべてみせる。


小さな私の心の中に、私以外の誰かが立っている。そう、セルだ。綺麗な金髪が瞼の裏で揺れる。

『私だって、役に立ちたいのですわ』

そういって、振り返り様に綺麗な青い目が笑った。

水面が、大きく波立った。私の心が、私以外の何かに反応した。


嬉しい。


そんな感情が胸の内を占める。でもこれは違う。私の感情じゃない。

「ふふふっ」

私が私らしくない笑みを零しながら、愛おしそうにフィーを見上げる。


これはセルの感情。フィーは戸惑いを隠せていないけれど、私に話しかけるほど確信しているわけでもないらしい。私が私でないのをひしひしと感じながらも、フィーは私に合わせて踊ってくれている。


セルよりも少し後ろに下がって見つめた。セルが嬉しいなら、きっと私も嬉しい。可愛い恋する乙女を見つめてから、体の主導権をセルに引き渡す。


自分に視線が集まっているのを感じる。


そりゃそうだ。元の世界じゃ踊ったこともないはずの異世界人が完璧に踊りこなすのだ。他の2人は流石に仕上げる時間が少なかったせいか、転びそうでこちらがヒヤヒヤしてくる。それに比べれば、セルという本物のご令嬢が踊っているだけある。視線を集めるのには苦労しない。


さて、みんなに”伝えるため”の準備はできた。後は私の技量次第。もう引きずられたりなんてしない。

ずぶり、と水面により深く足を突っ込んだ。水なんてそこにはないはずだけれども、それは鮮明に感じられる。冷たい感触が足から這い上がって私の中に侵入してくる。代わりに私も入り込むように魂達の一つ一つに手を伸ばす。


婚約者が出来たばかりの幸せな若者。

馬小屋で馬の病を見ていた馬医。

逃げ後れてしまった侍女。


彼らの記憶に目を通し、心が軋んだ。

「やっぱり、・・・きついなぁー・・・」

漏らした本音に、フィーが心配そうな顔をする。緩く首を振りながら魂に駆け寄る。


泣かないで。悲しいよね、辛いよね。でもあなた達がここに居ることは、あなた達の大切な人のためにはならないの。この世界を余計に早く壊してしまう前に、どうかそれに気づいて。

少し、ぼーっとしてきた。

ダンスが終わりに近づく。音がどんどん小さくなっていく。


「・・・私が、叶えて、あげる」


その言葉を何故呟いたのかは分からない。オーケストラの音が止んでお辞儀をしなければいけないのに、体が上手く動かなかった。セルが驚いたように私の顔を見つめていて、周囲の拍手がどこか遠い世界のことのように遠く感じた。

ふらり、ふらりと体が傾く。フィーが慌てて手を伸ばすのが見えた。けれども、それは私には届かない。それはまるで、この世界に飛ばされた時の私とトキのようだった。



騒音がつんざくように響いた。



うるさいなぁ。誰だよこんな大きな音たてて、迷惑な奴。

って、そう思ったのに。


「・・・・え?」

自分の手を見つめる。力がどんどん抜けていくのが分かる。足下から巻き上げるようにして風が吹く。ドレスのスカートが室内だというのに荒く揺れる。

「あれ?・・・え?何、何なのこれ」

金色の礫が私の周りに溢れかえる。嵐のように吹き荒れて、フィーを決して寄せつけないようにする。それは私の周りだけのようで、他の人はようやく私の様子がおかしいのに気づき始める。王様と雛ちゃんの周りを騎士達が守るように囲む。あぁ、でも王子だけが騎士達を押しのけてこちらに駆けてこようとしてくれていた。

結局騎士達に止められていたけれど、耳には確かに私の名前を叫ぶ彼の声が聞こえていた。

周りにも分かるくらいの異常事態に、焦りが私の中をじわりじわりと犯していく。礫が激しく輝き目も開けていられないほどになる。誰にも手が届かない。思うように息が吸えない。声が出せない。体が燃えるように熱い。


涙が浮かんで、そのまま頬を滑り落ちた。

もう、泣かないと決めていたのに。


やだ、怖い。


「ヒヨリッ!」

オズワルドさんが、こちらに手を伸ばすのが見えた。復讐だー、とか。頑固者めー、とか。色々言ってやろうと思ってたのに、顔を見たらただほっとして言葉が出なかった。オズワルドさんが無理矢理礫を押しのけるようにして私の所まで進んでくる。こんなに風が吹き荒れているのに、しっかりと私の手を掴んで笑ってみせた。

あぁ、だからこの人のことは嫌いになれない。


私の手をぎゅ、と離さないように握り込む。

「魔力の暴走だ!!意地でも自分の中に押さえ込め!!このままじゃ大変なことになるぞ!」

「そ、そんなの無理!分かんないんだってば!魔力とか、私、魔法使いじゃないんだよ!?」

「お前の心を揺るがすきっかけになったものがあるだろうが!その気持ちを押さえろ!!」

魔力の暴走?押さえ込め?私の気持ちを揺るがしたもの?頭の中が言葉の羅列でいっぱいいっぱいになって、私が混乱していくにつれて金色の礫が更に激しく舞い始める。貴族達もテラスへとホールを一目散に抜け出していく。

「分かんない!!」

「分かれ!!」

オズワルドさんが私の肩を強く握った。痛いくらいのそれに、意識が少しだけはっきりした。自分の中から何かが止めなく抜けていくのがただ怖くて、それにひたすら怯えていた私をオズワルドさんが引き止めてくれた気がした。

『ヒヨリっ!引きずられているのですわ!』

「セル!?」

「・・・ヒヨリ?」

セルが気づいたように私に叫ぶ。思わず名前を呼んだ私にオズワルドさんが怪訝な顔をする。

私、引きずられているの?魂達の感情に?


『私達のことを、可哀想な奴だと思ったのでしょう?それでは駄目なのです!可哀想だと思うのではなく、来世に良き事があるように願うのです!それが正しい霊送りですわっ!』


「・・・来世に、送る・・・」

呟けば少し分かった気がした。胸の前で握りしめた手から少し力を抜く。

そうだ。私は叶えてあげたかった。

無意識に呟いてしまうくらいに、それはもう心の奥底から願ってたんだ。大切な人たちに最後、一目会わせてあげたい。触れさせてあげたい。って。それがきっと、引きずられてしまったという事。それが、この状況の引き金になってしまったということ。


「・・、叶えてあげなきゃ!」

『ヒヨリ!?違いますわっ!押さえ込むのです「違うっ!!」

セルの言葉に首を大きく振った。


「私はッ、私の役目はそんなんじゃない!ちゃんと納得して天にいけるようにすることなの!だったら叶えてあげなきゃいけないものっ!大切な人に!大好きな人にっ!!私が会わせるんだ!!!!」


ぱぁんっと、掌を打ち合わせる。何故かそうする必要があると感じた。乾いた掌の音がホール中に響き渡り、私の周りだけを吹き荒れていた礫達が、私の周りから散らばっていった。

周囲が静かになった私の前で、オズワルドさんが目を見開いていた。

「・・・・今、お前・・・制御したのか?」

オズワルドさんの言葉に応える間もなく、彼の手を振り払うようにしてホールのど真ん中で勢い良く回る。腕をまっすぐ伸ばして、金色の礫をかき混ぜるようにくるくる回る。

ホールや城の庭園。さらにその外。どんどん広がる礫を感じながら、私はヒールで床を音がなるくらい酷く叩き付けた。


カツン!!

金色の礫がさらさらと上から降り注ぐ。それはまるで元の世界で見た雪そっくりで、降り注ぐそれにそっと手を伸ばした。

静かになったホールに、人々の怪訝そうな声が響く。そして皆一様に天井を見上げるのだ。私とエリオスにしか見えない世界のはずだったのに、それを皆が目にしていた。どこか神々しくて、切なくて、どんな景色よりも綺麗なそれを呆然と見つめ続けた。


そしてやがて気づき始めた。そこに、いるはずのない人間が居る事に。

金色の礫達は、魂達の生前の姿形をそっくりそのまま作り出した。きらきらと光るその体を得た魂達は信じられない、とでも言うように自分の体を見つめて、それから心の底から嬉しそうに微笑んだ。


それぞれが伝えたい事を。それぞれが伝えたい人へ。


『俺が居なくても、しっかりやれよ』

「ッ、はいッ!隊長!!」


『先輩っ!裏庭で飼ってる猫のお世話、忘れないでくださいよ?』

「あなたって子はっ・・、最期まで、それ、ばっかりっ、」


『お嬢様、お傍で最後までお守りできず、申し訳ありません』

「そんなことないわ・・・、あなたは、その命で、私を守ってくれたではないですか・・・・!」


部下を守って死んだ隊長は、逃げ後れた若い侍女は、主を守って死んだ従者は。想いを伝え微笑むと、そっと掻き消える。そしてまた、雪のように地面につもった。

残された人々はその死をまた実感し、悲しみで崩れ落ちる人も居た。けれども私の目に見える魂達は、とても満足そうに、幸せそうに天に上っていった。

礫達は城下へと降り注いだ。魂達の、それぞれの愛しい人たちの所へ行くために。


「あなた達の来世に、多くの幸せがあらんことを」


心から、祈ろう。

これが私の霊送りだ。残された方も、死んでしまった方も後悔を残さないようにするための、私の霊送り。

『無茶苦茶ですねぇ。こんな霊送りは長生きしている私でも初めて見ましたよ』

「そう?私って結構個性的だから」

『・・・・・しかし、まぁ、上出来なんじゃないですかね』

遠い遠いこの世界のこの星の真反対にいるのに、エリオスが傍に居てくれる気がしてた。黒い影が広がるたび、そこにあなたがいるんだと感じた。

頭の中で響いた声に耳に手を当てて聞き逃さないようにしながら、私はそっと息をついた。これで全部、満足だ。


「・・・・ん、ありがとね、エリオス」


気にかけてくれて、ありがとう。心配かけて、ごめんなさい。

もしも

もしもの話だけれど。

こんな風に彼が、トキが私のことを気にかけてくれてるのなら。あの日夢に見たように、私を捜してくれているのだとしたら。

私がどれだけ彼を気にかけているか、思い出しているか、全部全部伝わればいいのに。


そんなことを思いながら顔をあげた時、


耳に飛び込んできたのは、大きな爆発音。

視界に入ってきたのは、勢いよく私に覆い被さろうとするオズワルドさんの姿だった。



いつも読んでくださる読者様、ありがとうございます。

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