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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
26/65

薄っぺらな覚悟

脳がずきずきしてた。そりゃもう強烈だったですとも。人1人分の人生とも言っていい量の記憶を詰め込まれたんだ。楽しい記憶も、悲しい記憶も。全部が全部ない交ぜになっていた。


起きるなり両手で頭を押さえる。まだ、頭痛が取れない。まるで私自身が熱に魘されていたようだ。実際にそうなっていたのはセルだったというのに。


うーうー苦しむ私に気づいて、ステラが駆け寄ってきた。

「ヒヨリ様っ!お目覚めですか?急にお倒れになってのですよ?私が誰かお分かりですか?」

「うん・・・分かるよ。」

私の言葉にほっとしたように頬を緩ませたステラは、湿ったタオルで私の額の汗を拭ってくれた。重たい体を持ち上げて、ぐるりと部屋を見渡した。

ベッドの近くに置いてあったソファの上で、申し訳なさそうな顔をするセルがちらちらとこちらを窺っている。きっと、この力もあの赤い奴に与えられた”少しの魔力”でやったんだろう。今まで話せる人もいなかったと聞くし、こういうことをやったのは私が初めてだったみたいだ。


私と目が合うと、おずおずとベッドの傍まで来て頭を下げる。

『申し訳ありませんっ!こんなことになるなんてちっとも思ってなかったのですわ!ヒヨリが急に倒れてしまうから、私、本当に申し訳ないことを「だいじょーぶ」

へらっと笑ってみせると、セルの表情が幾分か和らいだ。きっと、彼女に悪気なんてものは微塵も無くて、だからこそここまで私のために動揺してくれてるんだ。そんなセルを、私はこれ以上疑おうとは思わなかった。


にしても、結構来るものがあるな。この魔法。

ふーっと息を吐いてからまたベッドに倒れた。やっぱり本調子が出ない。部屋のカーテンから光が漏れているのを見るに、恐らく夜は明けている。でも、今日は図書室まで歩けそうにもないし、何かしら行動を起こす程の体力は回復していない。

どうしたもんかなー、と完全に気を抜ききって天井を眺めていた私に



ナイフが振り下ろされた。



咄嗟に指を動かして布団の下にあった影を引っ張り出した。ひゅんっと素早い音がして、右腕を軽く掠めていった。じわりとくる痛みに、腕の部分が少し切れて血が滲んでいるのを確認した。

一体、誰が?

そんなの、聞くまでもなく分かってた。でも、信じられなくて動揺を隠せない。


なんで。どうして。

この部屋に居るのは、元々セルを除けば”彼女”と私だけ。


でも、なんで。なんで、ステラが?


目の前で血で少し濡れたナイフを脇に構えるステラを見て、私は震える手を目の前に構えた。

普通に暮らしてきた人間の動きじゃない。こういうことをし慣れてる、そんな人間の動きだった。少しでも気を抜けばあっさり急所を突かれる。


布団の中と袖の下の影に手を伸ばし、一斉にステラに被せるように放つ。ここから人の居るところまで走って逃げるのが一番なんだろうけど、今の私にはそれ程の体力もない。目くらましとばかりに放った影の隙に、ベッドから転げ落ちるようにしてソファの後ろに体を隠す。


きっと、あの黒い影に包まれれば私の今の行動は見えていなかったはず。できれば、私だってステラと刃を交えたくない。でも、なんでこんな突然。

荒い息を漏らさないように口を手で押さえながら、驚きで顔を染めたセルが駆け寄ってくる。


『な、何があったんですの!?あの侍女はついさっきまでそこでお茶の準備をしてたはず・・・、それが何でこんなことに?』

そんなの、私だって分からない。無言で首を振ってみせる。セルはさらに追求しようとしたけれど、何かに気づいたように顔を上げる。その動揺を隠さない表情に、私はソファの影からこっそり顔を出した。


うすっぺらい、紙みたいなのが光を放ちながら浮かび上がっていた。あれは、私もよく見たことがあるものだった。

”御札”。神社だった孤児園でよく見かけてた。でも、あれはびゅんびゅん飛んだりしてなかったし、ステラの言葉に応じて燃え出したりもしてなかったけれど。


え、なにあれ。本気でやばくない?

ぱちんっと弾けるようにして消えた影に焦りが芽生える。動揺できちんと影がコントロールできてない。


『こっちに来ますわ!』


コツン、コツン、コツン、

どこぞのホラーのようなステラの靴の足音が聞こえる。このままじゃ、本気で殺される。でも、ステラを傷つけたくない。せめて、私をこうしようとする理由だけでも聞きたい。

どうにか無傷で拘束できないものかと、袖の下の影を引っ張り出す。


「”探索”」


ぼそ、とまたステラが言葉を呟く。その途端さらにセルが焦ったように私に話しかける。

『あの紙のようなものが飛び回ってますわ!きっとヒヨリを探しているのです!』

やばい。やばいじゃん。さっきちらっと見ただけだけど、いっぱい浮かんでたよね?見つかるのなんて時間の問題。


どうしよう。どうしたらいい。ねぇ、トキ。

ぎゅ、と胸の前で手を握り締める。あの時の、アデレイド達を救おうとした時よりも、はっきりとした死への恐怖を感じた。今の自分が、普段よりも遥かに体の調子が悪いからか。足がガタガタと震えだすのを止められない。


「”明かり”」


ステラが、キィとクローゼットを開けて呟いたのが聞こえた。

戦うのって、はっきりとした殺意を感じるのって、こんなにも恐ろしいことなんだ。俯きそうになる顔を必死にあげようとして、ふと気づいた。


私の目の前でにたり、とステラが笑みを浮かべてた。


「 み つ け た 。 」


その声にひゅっ、と息を吸い込んだのと同時に、私は理解した。私の目の前にあった大きな鏡に、自分の姿が写っていたことを。そして、それをステラが見つけたことを。なんだこれ、本当にホラー映画じゃないか。冷静になろうと目を一度だけぎゅっと閉じてから、ソファの影から飛び出す。


そのとたん、思わず足を止めそうになった。無意識のうちだったけれど、世界が急に色を変えてた。

エリオスと契約してから見えるようになった、エリオスが見ていたあの綺麗な景色。金色の礫がダストのようにふわふわと辺りを舞って、私が動くたびにまたふわふわと動き出す。

それに気を取られないように気をつけながら、私はステラの刃を避ける。


そこで、気づいた。

舞っている礫が、僅かに色を変えてステラの喉にくっついていた。いや、くっついているというよりも、集まっているという方が近かった。


「”燃えろ”!」

ステラがそう私に叫べば、その礫たちは今度は御札にくっつきながら私の方へと飛んでくる。手当たり次第に机の下の影に手を伸ばしたりしながら、その御札を避ける。

もしかして、ステラの声にあの礫たちは反応してるのかもしれない。何度か、その攻撃を受けるうちに私はそう思い始めた。ステラが使ってるのを魔法だと仮定して。この金色の礫達が、トキがいう所謂魔力と言われるものだったとして。


もしかしたら、ステラは魔力を声に乗せて使ってるのかもしれない。トキは手に集めたりするって言ってた。あの時はなんのことだかよくわからなかったけど、あれはもしかして、こういうことを言ってたのかな。

ステラがもし魔力を声に乗せて使ってるのなら、そしてあの御札たちがその魔力に反応しているのなら。



頭の中で構築された作戦を吟味する暇もなく、私は逃げ回っていた体制を即座に変えた。ステラに真正面から向き合って、そのまま突っ込む。

やりたいことも。どうすればいいのかも、自然と息をするみたいに私はわかってた。これが、契約したということなんだ。


いつもの影を引っ張る感覚とは違った、また別の感覚。あえていうなら、手を洗ったあと手についた水滴を払うような。そんな感覚だ。

右手をステラに向かって大きく横に振った。警戒するように身を引こうとしたステラに向かって、その小さな影は飛んでいった。さすがにそれを全て避けることは難しかったらしく、それは上手くステラの口元に張り付いた。


大きな動揺を見せたステラの手から、光ったナイフを蹴り落とす。届かないくらい遠くに蹴り飛ばすと、そのままステラを後ろに押し倒す。全体重をかけて逃がさないようにしながら、影のコントロールもきちんとこなす。

もともと小さい影の方が制御しやすいのか、ステラがいくらもがいてもその影は外れない。ずっとステラの声と、その喉にあった魔力を封じていた。


周りを飛んでいた御札達は、急に意味をなくしたように地面に落ちて動かなくなった。

「んーっ!!んん゛ーッッ!!」

ステラの抵抗するくぐもった声が、部屋に響いていた。


「なんでっ!なんでこんなことしたの!?」


出会って少しだったけど、それなりの信頼は置いていた。合って間もないというのに、たった一度命を救っただけの私に尽くしてくれた。孤独感にさいなまれることなく、この世界で私が笑っていられるのは、私が1人じゃなかったから。

ステラが、居てくれたから。


「信じてた、・・・・信じてたのに、」


ステラの上に座り込んだまま、ステラの手を抵抗しないように影で括り付けた。ほとんど力の入らなくなった腕では、彼女の抵抗を止められる気がしなかった。


こんな形で裏切られるなんて思ってもみなかった。

私はよく、トキに不器用な奴だって言われてた。自分でも分かるくらいに、私は人付き合いが下手糞で。それも合わさって私には友達がほとんどいなくて。

だからこそ、私はこの世界でもまた駄目だったんだ。って、世界を超えたって私は私だ。契約しても、ちょっと強くなっても。彼の隣には立てないし、人付き合いだって下手糞なままなんだ。

泣きそうになりながら、唇を噛み締めた。


袖の下の影を引っ張れば、隠しナイフみたいに真っ黒なナイフが手元に現れる。

抵抗しなきゃ。ステラの魔法を止めなきゃ。


私が殺されてたんだよ。


構えなおしたナイフを、ゆっくりとステラに突きつけた。まだ抵抗をやめずに、こちらを酷く憎そうに睨みつけてる彼女に、また泣きそうになった。


彼女の喉に突きつけたナイフを持つ手が小さく震えた。

力があったって。いくら覚悟を決めたって。怖いなぁ。


私が居た世界は、国は、すごく平和だった。毎日テレビで酷いニュースは見たけれど、そんなのは本当に異世界の話みたいだった。通りがかりの人がナイフを持って切りかかってくるとか、普通に考えて想像はできない。

けど、それと同じくらい。今まで私に笑顔を向けてくれていた人が、ナイフを持って切りかかってくることは想像できなかったよ。


ステラは、私にナイフを振り下ろした時どんな気持ちだった?

全く震えることなく、まっすぐその手で私を狙った。


「・・・・、私、やっぱ弱いよ。」


カラン、と音をたててステラの顔のすぐ横にナイフを落とした。私に、結局彼女は殺せない。私は、弱いままだった。


なにが覚悟だよ。なにが宣戦布告だよ。人であることを、人を殺すことによって捨ててしまうなんて。結局私には出来ないんだ。


助ける、って言ったのに。セルとそう約束したのに。

手で顔を覆えば、ぼたぼたと雫が零れ落ちた。結局中途半端で、変わりたいって思ってたのに変われてなくて。



結局私の決意なんて、覚悟なんてこんなもの。

これほど薄っぺらいものは、他には存在しないだろう。


「・・・・・だいっきらいだ。」

私は私を、殺してしまいたい。


ふと気が付くと、ステラは抵抗することをやめていた。その瞳をこれでもかというくらいに見開きながらこちらを傷ついたように見つめていた。やがて戸惑うように辺りに視線を巡らせて、その視線を私が蹴り飛ばしたステラのナイフに止めた。


まるで世にも恐ろしいものを見てしまったかのように、ステラは血相を変えた。首を力なく横に振りながら、必死にその目は私に何かを訴えかけようとしていた。

金色の礫がもうステラの喉に集まっていないのを確認してから、私はステラの口元に貼り付けていた影を外した。


どんな言葉だって、受け止めてやるって思った。





「、ヒヨリ様っ!」

切羽詰ったような声に、命乞いでもするのかと。冷めた脳で考えた。



でも、



「お怪我はございませんか!?」

え、と思わず声が漏れた。


「け、怪我?」

「そうですっ!ナイフに血が、!」

「え、えっと、最初に右腕を切られたくらいで、後は、何も、」

「本当ですね?嘘ではありませんね?」


両腕をしばりつけられているというのに、ステラが身を乗り出して私の安否を気にしていた。え、これどういう状況だっけ?

涙なんてあっという間に引っ込んで、操作の甘くなった影を易々とステラは引きちぎった。


「本当にお怪我はないですか?いくらヒヨリ様とはいえ、私を相手にされて怪我が右腕だけだなんて、嘘ではないでしょうね?」


ぇえ?この人は何を言ってるんだろ。え、今自分の強さをちらっと自慢しちゃったよね?でも私のこと本当に心配してるみたいだし。演技?これ演技なの?てかさっきまで憎そうに私のこと睨んでたよね。この数分の間に何があった。


さらに私の体に触れてこようとしたステラに、勢いよくナイフを突きつけた。


「、動かないで。」


信用しちゃ駄目だ。さっき裏切られたばっかじゃん。

ステラは私に伸ばしていた手をぴたりと止めて、少し傷ついたような笑みを零した。そしてナイフを自分の手でぎゅ、っと握ると諦めたような顔をした。


「、信じられないですよね。だって、ここはヒヨリ様にとって異世界ですもの。ここの道理なんて、貴女には関係ないし。きっと知らないことでしょう。」

それでも、と彼女は続けた。

「理解して欲しいと。また信じて欲しいと願うのは、私の我侭ですね。」


私が突きつけたナイフを、彼女は自分の意志で喉元に持っていった。きつくナイフを握ったその手からは血がボタボタと零れ落ちていた。そんなのに構うことなく、呆然とした私の前でステラは喉にナイフを差した。


そこからも、真っ赤なそれはあふれ出す。


「これを潰すことで信じてもらえるというのであれば、喜んで私はそうしましょう。」

「え、?」

一瞬遅れて理解する。それは、きっとステラが使う魔法のことなのだ。でも、そんなことをすれば彼女は一生魔法を使えなくなってしまう。もしかしたら、話せなくなるかもしれない。それどころか、こんなことをすれば死んでしまう可能性だってあるのに。


「ヒヨリ様、申し訳ありませんでした。けれども、この私に貴女様を傷つける意思などないのです。ヒヨリ様に助けられた時からこの命は貴女様のものでした。要らないというのなら、信じられないというのならどうぞ殺してくださいませ。」


凛とした表情で、ステラは私を真っ直ぐ見つめていた。

力がまた抜けて、ステラの手元にあったナイフが黒い霧のように辺りに散らばった。



「できるわけ、ないでしょう・・・・?」



殺せないよ。ステラの胸元に力なく凭れ掛かれば、ステラは私に血が着かないように気を遣いながら支えてくれた。


「話を、・・・・私の話を、聞いてくださいますか?」

申し訳なさそうに首を傾けながら、ステラは私に問いかけた。俯いたまま頷いた私に、ステラはまるで呟くみたいに言った。







「私は、過去に数え切れないほどの人間を手にかけました。」


思わず顔を上げた私にステラは続けた。


「これが、この私の真実です。」



更新途絶えてしまって申し訳ありませんでした。

いつも読んでくださる読者様、ありがとうございます。

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